第1話 転生者は叫ぶ

 目の前が暗い。


 俺は一体どうなってしまったんだ。


 確かトラックが上から降ってきて……


 そんな馬鹿な、上から降ってきた⁉


 あの中学校に続く坂道には、上に物を置けるような場所はなかったはずだ。


 そのあと潰されて。


 ダメだ、考えるのはやめよう……


 何やら背中が温かく、自分はベットの上にいるということが分かった。


 生きてる?


 やったー! 生きてる! 生きてるって素晴らしい!



 いやいやいやいやいや……



 確実に死んだよね、潰されたんだよ、圧倒的物量を感じたよ。


 それなのに体に痛みはない。

 

 どういうことかと頭をひねっていると誰かの声が聞こえた。


 これは、母さんの声だ!


 その声で俺は目を覚ます。


 ここは俺の家か? どうやら俺は家のリビングにいるようだ。


 そして、俺の周りには木製のおり


 まるで牢屋のようだが天井は空いている。


 え、ここ俺の家だよね?


 何とか脱出しようと試みるが、なぜか体が起き上がらない。


 よいしょ、よいしょと体を動かしていると……


「あ、きょうちゃん起きた~!おはよう~!」


 覗き込むようにして母さんがこっちを見ている。

 

 もう会えないと思っていた母さんの笑顔に、俺は涙を流しそうになる。


 で、

 

 誰だそのキョーちゃんというやつは、俺はとおるだぞ母さん。



 ……母さん、なんか若くない?



 美容サプリでも買った?

 

 いや、元々美魔女みたいなもんだからこんなもんか。


 俺は謎の木製の檻から出してもらおうと助けを叫んだ。


「助けて、母さん!」

 

 だが、実際に俺の口から出た声はこんなものだった。


「あうあう、あーあ!」


 なんだ、うまく舌がまわらない。


 それでも俺の叫びは届いたらしく、母さんは「お~よしよし!」なんて言いながら俺を持ち上げて、檻から出してくれた。


 俺を持ち上げて⁉ 中学2年生だぞ⁉


 いや、母さんは怪力だからこれくらいはするか。


 そんなことを思っていると、キッチンのほうに誰かがいることに気づいた。


 父さんだ。海外で仕事中だったのにいつの間に戻ってきたんだ?


―――⁉


 父さんも少し若い気がする。


 やはり、何かがおかしい。


 俺は異変を発見するため周りを見渡す。


 そして冷蔵庫のカレンダーを見て驚愕する。


 それは、14年ほど前のカレンダーだったからだ。


「ええええええええええ!」


 と驚くが、実際に俺の口から出た声は、


「うえあおあきゃあああ!」


 というよく分からない珍妙な声だった。


 ここで1つの仮説が立つ。

 

 たぶんだが、母さん達が若いのも、俺が変な声を出してしまうのも……


 


 そうすれば色々納得がいく。


 母さんたちが若いのも当たり前だし、変な声が出るのも俺が赤ちゃんになってしまっているから。


 そして俺が閉じ込められていた木製の牢屋は、ベビーベッドといったところだろう。


 カレンダーからして、俺は生後6か月くらいか?

 

 俺はその仮説を確かめるために母さんの腕から何とか抜け出す。


 リビングの横のクローゼットに大きな鏡がある。


 俺が赤ちゃんになっていれば、この仮説はあっているはずだ。


 よじよじと床をって鏡のほうへ向かう。


 鏡の前に座り込み、俺は自分の姿を確認した。


 

 やはり俺が赤ちゃんになっていることは正しかったようだ。


 だが予想外のことが発覚する。


 まず、目を引くのは銀色の髪。


 光をキラキラと反射し、まるで宝石のようだ。


 次に、薄く青みがかかった黒い瞳。


 二重ふたえなのも相まって赤ちゃんながらに凛々しい感じがする。


 そして、母さんがキョーちゃんと呼んでいることからわかるように……




 女である。

 



「うえあおあきゃあああああああ!!」 


 と、 今日2度目の珍妙な叫び声を俺は叫んだのであった。

 

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