ミラーズ スクエア

いえまる

第一章 灰色の英雄

プロローグ

 春

 

 4月8日、新学期


 俺、沙坂さざか とおる(14歳)は桜が舞う中、中学校へ続く坂道を登っていた。


「今日から中2か……」


 思えばいろいろなこともあった気がする。


―――いや、ありすぎた。 


 工作部の奴らとペットボトルロケットを作って先生に怒られたり、工作部の奴らと一緒に作った輪ゴム銃の威力が強すぎたり……


 ほとんどあいつら関係だな……


 中学2年生になってもあいつらと同じクラスになれるだろうか。


 新学期で久しぶりに会うから楽しみだ。


 だがそんな楽しみを吹き飛ばすように「休み明けテスト」という巨悪が存在する。


 国語と数学はいけるが、英語がダメだ。


 英語という概念にバックドロップやコブラツイストを仕掛けたくなるが、あちらに片手一つで握り潰されてしまうイメージが俺の脳内に浮かぶ。


 俺の得意な工作をテストにしてくれないだろうか。


 いっそ好きな漫画や本を読んで過ごしたい。


 そんなことを思うのは、桜がよどんで見えるからやめた。


 

 そろそろ坂道を登り切り学校に着く、そう思った時だった。


 後ろから何かが坂道を登ってくる音が聞こえる。


―――トラックか。やけにスピードを出してるな。


 俺は道の端によける。


 ふと、視界の隅に人影が見えた。


 小学生? ここの近くの小学校は坂の下にあるはずなのに。


 その男の子はふらふらと車道に出る。

 

―――おいおい! すぐそこまでトラックが来てるんだぞ!


 俺はすぐに後ろに振り返る。


 明らかにトラックのスピードがおかしい。小学生との距離は20メートルほどだ。


 そしてトラックの中には……


 


 


 おかしいだろ! 自動運転などはあるが、まだ日本では自動運転の車は公共の場での運用は禁止のはずだ。


 だがそんなことを考える暇はない。


 小学生とトラックの距離、あと5メートル。


「やばい!」


 右足に思いっきり力をこめた。


 俺の体は弾丸のように飛び出し、小学生を抱きかかえるようにしてタックルを届かせる!


 トラックの爆音が右頬をかすめ、俺は地面を転がった。


 「……」

 

 助かったのか⁉ 体中が痛いが、小学生の男の子は無事なのか確認する。

 

「大丈夫か⁉」


 見たところ男の子にけがはない。


 俺もあまり痛くはないが、一応病院に行っておいたほうがいいだろう。


 ふと上を見た男の子の顔が曇る。


―――なんだ、上に何か……


 俺が見たのは眼前に迫るトラックのバンパー。


 圧倒的物量に潰されて、視界が黒く染まる。


 不思議と痛みはなかった。



 ◇

 


 ごめん、母さん、俺死んじゃったかもしれない。


 母さんはたぶん、とても悲しむだろう。


 あいつらとも、もう話すことはできないのか?


 あの小学生の男の子はどうなってしまったのか?


 わからない。


 考えれば考えるほど意識がかすんでいく。


 俺がもっと強ければこんな事にならなかったかもしれない。


 誰も悲しませずに済んだかもしれない。


 じゃあなぜあの子を助けたんだ?


 そうか。


 俺はずっと憧れていたんだ。


 ずっとなりたかったんだ。

 


「ヒーローみたいな人に」


 


 そこからの記憶はない。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 あとがきもどき


 「ミラーズ スクエア」を読んでいただき、本当にありがとうございます!


 よければ、続きも読んでください!

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