オンブルスペースコロニー−11
デバイスを人体へ内蔵することが終わったところで、再び俺の体について診察することになった。
「一度ウチでも精密検査したいタコ」
「分かりました」
診察台ではなく、蓋ができるベッドに寝転がるようにと指示された。
検査は蓋を閉めて数分で終わるとのことで、待っていると十分もしないうちに終わったようだ。
ファヴィアンの表情は読み取るのが難しいが、真面目な表情になった気がする。
「うちでは治せないのもある」
「全部でなくていいので治せるだけでも治したいです」
「分かった。まずは臓器が反転しているけど、これは意図的?」
「失敗です……」
「治すと」
臓器の反転は魔力を増やす時の代表的な失敗だ。
肉体を改造する際、魔道具の鏡で参考にする。魔道具が映し出しているのは自分自身の臓器なので、鏡合わせになってしまう。そのまま参考にすると反転してしまうのだ。
最初に反転していると注意は受けるのだが、重大な失敗しないようにと必死なため反転していることを忘れてしまう。
臓器の反転は治そうと思えば治るのだが、もう一度肉体改造をする必要がある。肉体改造するリスクを考えると、命に関わる問題ではないので放置されることが多い。
「これ治せるか怪しいのだけど、心臓近くから脊髄を通って脳に繋がっている腫瘍みたいなのは?」
「それはサイキックを使うための臓器です」
「これが……イカしてるね」
ファヴィアンの口調がまた乱れたが、肌の色が赤に近い色になった。口調が興奮しているので、肌の色は感情で変わるのかもしれない。
「これは取ったらダメだと設定と注意書きをしておく」
「ありがとうございます」
そういえばラウラも同様の臓器があるはずだ、治療して臓器がなくなってしまったら魔法が使えなくなる。
「ラウラも設定してもらった方がいい」
「まさか臓器が増えているとはな」
「臓器と言っていいか分からないけど、魔力を貯めるための石みたいなのが体内に生成されている」
「魔物を解体すると出てくる魔石か」
「同じものだね」
魔石は魔力が硬化したものだと言われている。貯められる魔力は色と大きさで差が出ると言われていて、色が濃く大きなものほど魔力の保有量が増える。
魔力を増やす場合は魔石の色を濃くして、大きくしたり数を増やすことで魔力を増やしている。言葉で言えば簡単だが、実際に魔力を増やす行為は命懸けだ。
ファヴィアンが質問しても良いかと聞いてきた。
「答えられることなら」
「この器官を後から作れないのかい?」
「自然発生することもあるようです。人工的にという話であれば、成功率は一万人に一人と言ったところでしょうか。もちろん失敗すれば大半は死にます」
「成功率低いね」
ソルセルリー王国でも魔法使いになりたいと志願してくる人はいる。滅多に成功しないことを説明して止めるのだが、やりたがる人は年に何人か現れる。成功は百年に一人成功者が出れば良い方だ。
それでも魔法使いになりたいと思う人は後を経たない。
ラウラにできた臓器は本当に貴重なものだ。
「消してしまったら戻すのは不可能に近いのです」
「設定しておいた方が良さそうだね」
ファヴィアンがラウラにも精密検査を受けるようにと言って、蓋ができるベッドへと寝かした。
検査はすぐに終わったようで、同じように設定を追加している。俺にも意見を聞きたいとデータを渡された。ラウラには俺と同じように魔石ができている。
「比べると器官の数が少ないし小さいね」
「色を濃く、大きくするのが重要です。大きくできなくなったら数を増やします」
「それを自力でやる訳だ。イカしてるね」
興奮しているのかファヴィアンが赤くなっている。
リシューについても設定しておいてもらう。リシューもベッドに寝て精密検査をする。
「二人とは全然違うね」
「リシューは妖精ですからね」
ラウラ同様にファヴィアンがリシューのデータを渡された。
リシューの体は半分近くが魔石でできている。食事や空気がなくとも生きていけるのは、この体の作りが原因だろう。体内の魔力が増えるほど人から離れた存在になっていく。
リシューのような妖精はそもそも治療が必要か怪しいのだが、間違って魔石を消したら死んでしまう可能性がある。ファヴィアンによる設定が完了したところで問題は無くなった。
「さて、カイさんの診療に戻ろうか」
ファヴィアンから体に問題のある場所を指摘されていく。
想像以上に問題のある箇所が多い。自分で気づいてなかった場所まであって、見てもらって本当に良かった。
「どれだけ治す? 面白いもの見せてもらったので、割り引いとくタコよ」
「あー」
お金が無いんだった。
治療なんだから当然お金がかかる。今回は諦めるか。
治療のために本格的に稼ぐ方法を考えないとな。
「やはり治療は今度にします」
「ん? もしかしてお金がないタコ?」
「はい。魔法でコロニーに来たばかりなので」
「魔法? サイキックでコロニーに来たってこと?
「はい」
「それはイカしているね」
ファヴィアンがどうやって来たのかと質問してきた。魔法で銀河を移動したことや、俺が持っている宇宙船について説明していく。
ラウラが宇宙船の動画を持っていたようなので、ファヴィアンと共有している。動画を見て興奮したのか、イカタコ言いつつ肌がすごい色に連続で変わっていく。
肌の変化がおさまったところで、ファヴィアンがしみじみとした声で「イカすねぇ」言う。
「良いもの見せてもらったタコよ。一箇所無料でやっておくよ」
「良いんですか?」
「また見せに来て欲しい。うちは医術というよりファッションがメイン。創作意欲が湧くイカしたアイディア見たいタコよ」
「それくらいなら。次来るときに別の惑星で動画を撮っておきます」
「それはイカしたアイディアね」
師匠をファビアンに見せたらどんな評価をされるか気になる。師匠に断られたら動画は撮れないが、面白そうだと言われる可能性の方が高い気がする。
「それじゃ一番人体に影響がありそうなの治療しようタコね」
どれもこれも治した方が良いのだが、一部欠けてしまった臓器を修復してもらうことにする。失敗したと自覚している部位で、全部消してしまったわけではない。落ちた機能は魔力でどうにかしていた。
「もう一度横になって欲しいタコ。臓器なので意識を落とすよ」
ファヴィアンの指示に従って蓋つきのベッドに横になる。蓋が降りてきてファヴィアンが横に立つと意識が落ちる。
「終わったよ」
横を見るとファヴィアンがいた。ファヴィアンが声をかけながら俺の肩を叩いているのだと理解する。
意識が落ちたと思ったら起こされたので戸惑う。
「もう終わったんですか?」
「うん。体調は問題なさそうだね」
実際の時間はわからないが、体感的には一瞬だった。
しかし、臓器なのに一瞬なのか、今更ではあるが信じられない技術力だな。
経過観察も必要なく、今日の診察はこれで終わり。一階に降りて支払いとなった。一階に戻ると、ファヴィアンが受付の人と料金について話し合っている。
「請求書できました。どちらに送れば?」
「私に回してくれ」
「はい。送信しました」
「うん? 安くないか?」
「市民権お持ちでしたので、一回目のデバイスは補助金があるようです」
「そんな制度があるのだな」
ラウラが安いなら問題ないと、支払いを済ませている。
「ラウラ、ありがとう」
「ありがとう!」
「二人には世話になっている。気にしないで欲しい」
店を出ることにして受付から出入り口の方を向く、デバイスを装着する前は白かった壁に色々とARで表示されている。近づくと商品の説明が装着後の絵と共に書かれているようだ。
円錐方の物はやはり角で、雫の形をした物は鱗のような見た目になっていた。
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