オンブルスペースコロニー−10

 店の中は外から見たより奥に長くなっているようで、真っ白な壁に商品らしきものが奇麗にディスプレイされている。ただ商品に何も書かれていないので何が何だか分からない。

 円錐型の三センチほどの物だったり、雫のような小さい板だったり何に使うのだろうか?

 奥に行くほど物が大きくなっていくことに気づく。


「内蔵型のデバイスを取り付けて欲しいのだが」


 奥には受付があり、頭部が刺々しい上に肌が赤い人が受付に座っていた。男か女か見た目ではわからない。

 刺々しい頭に生えているのは、先ほど展示されていた円柱型のものに似ている。体につけると角のようになるのか。


「内臓? うちだと技術料高いですよ?」

「内臓をお願いしたいのは、彼と彼の肩にいる……妖精と言って分かるか?」

「おー、確かに妖精だ。かわいいね」


 受付の見た目はいかついが、こちらを気にした親身な対応をしてくれる。声が中性的で男性のような気はするが確信は持てない。なんにせよラウラが選んだだけあって良さそうな店だ。


「妖精ちゃんは分かったけど、お兄さんは?」

「彼、サイキックなんだ。しかも今までデバイス使ったことがない」

「わーお」


 リシューを妖精ちゃんと呼んで、俺はお兄さんとされた。受付の人はフランクな感じだが嫌味がない。


「それだと店長呼んだ方が良さそう」

「お願いできるか?」

「はい。店長!!」


 受付の人が大声で近くにあった階段に向かって叫び始めた。

 デバイス使って呼び出すのかと思っていたが、大声だったので驚く。


「おー」


 上の階からだろうか返事がかすかに聞こえてきた。

 古風と言ったら変だが、日本でも今どき大声で呼ぶ店って珍しくないか……? 店に置いてあるものがSFぽさがあるので尚更違和感があるな。

 受付の横に階段があって、そこから人が降りてくる。肌の色が様々な色に変わっていくので極彩色に見える。更に口から顎にかけて触手がうねっている。


「どうしたタコ?」

「店長、妖精とサイキックのお兄さんがデバイス初めてだって」

「それはイカしてるね」


 タコと言うので一瞬悪口かと思ったが、受付の人が普通に返事をしているし悪口として使っているわけではなさそうだ。その後イカを強調して発音してい他ので、発音したかったのはタコとイカなのか?

 店長と呼ばれた人の見た目をじっくり見ると、触手と色が変わる感じがタコとイカに似ている気がしてくる。そうなってくると、タコなのかイカなのかが気になってきた。

 俺が店長と呼ばれた人を見ていると話しかけられた。


「お兄さんどうしたイカ?」

「あの、イカなんですか? タコなんですか?」

「お兄さんタコとイカ知っているの? 中々博識だね」

「翻訳されてるので、同じものとは限りませんが」


 コロニーの人と喋れているのは魔法で翻訳されているからだ。惑星シャムルでは魔道具にもなっている便利な魔法だ。


「デバイスもなしに翻訳とはすごいね。イカとタコは翻訳されるほど近い見た目ということかな?」

「そうだと思います。ちなみにタコとイカどっちなんですか?」

「どっちでもないよ。同郷の人間だったら、どっちでもないだろって突っ込まれるのだよね」

「なるほど」


 どっちでもないのか……。

 というか最初にイカとかタコを言葉の中に入れていたが、気づいたらなくなっている。イカとタコを普通は言葉の中に入れないようだ。


「それじゃ二階で施術しようじゃなイカ」


 やはり言葉の中にイカとタコを入れるのか……?

 突っ込むべきなのか迷っていると店長は二階へ上がっていってしまった。受付の人を見ると肩をすくめて指で階段を上がるように指示している。

 いつものことなのか?

 混乱しつつも俺は店主の後を追う。


「本日担当いたしますのは、ファビアン整形医術店の店主ファヴィアン・トーマになりますタコ」

「えっと、水無瀬 甲斐です」

「リシュー!」

「以前に世話になったラウラだ」


 謎のノリに戸惑いつつも、なんとか名前を名乗り返す。

 しかし、医術店ということはファヴィアンは医者だったのか。受付の人を含めて、そうは見えないノリと見た目だ。


「お二人ともデバイスは初めてとのことですが、検査などは?」

「軍で受けている」

「軍? それはまたイカした場所です」


 俺とリシューに変わって、ラウラが受け答えをしてくれている。

 ファヴィアンから検査結果を見たいと言われたので、閲覧するための許可を出す。許可は音声認証でできるようで、許可すると言ったら閲覧できたようだ。

 ファヴィアンが虚空を見つめていると、目を寄せて毒々しい紫色に変わった。


「リシューちゃんの方は問題ないですが、カイさんの方は酷いですね」

「コロニーなら治せると聞いたんですけど、治せそうですか?」

「うーん。サイキック系だと治したらダメな臓器あるタコよね?」

「はい。そのために自分でいじっているので」

「自力とは狂っててイカしてるタコね」


 ファヴィアンの話し方だと、褒められてるのか貶されているのか分からない。

 しかし魔法というかサイキックについても詳しいようで、説明する必要がなくて助かる。不自然な臓器だと取り除かれたら魔力がなくなってしまうからな。コロニーから帰れなくなってしまう。


「先にデバイスを埋め込んで、その後話し合った方が良さそうタコ」

「分かりました」

「何があるか分からないタコから、一番上のグレードにしようね。デバイスに問題があってもすぐに機能を停止させて、取り外せるから安心して欲しいタコ」


 一番上のグレードと言われてもよく分からない。今回お金を出してくれるのはラウラなので、俺はラウラを見る。


「それで頼む。どうせデバイスより施術費の方が高いのではないか?」

「内蔵型は医療免許必要ないタコからね」

「二人の場合は医療免許なしは不安だった」

「それが正解だと思うタコね」


 なるほど。ラウラは店の何を選んでいるのかと思っていたが、医療免許の有無を確認していたのか。

 ファヴィアンが診察台の上に横になるようにというので、俺がまず横になった。すると受付の人が二階に上がってきて円柱形の小さな筒をファヴィアンに渡した。

 ファヴィアンが筒を俺の腕に当てて何かすると、すぐに腕から離した。

 少しするとファヴィアンが声をかけてきた。


「安定しているね。カイさん立っていいよ。次はリシューちゃん」


 リシューは小さいので筒を背中に当てている。俺同様にすぐに終わったようで、筒を離して様子を見ている。


「問題ないね。起動させてみようか」


 起動? どうやってと思ったら、目の前に読み込み中に出るようなバーが現れた。考えるだけで起動できるようだ。

 バーが最後まで行った瞬間世界が広がった感覚を覚えた。

 何もないと思っていた白い壁にはイカやタコの絵が描かれており、店の中が独特な空間になっている。店は今まで無駄が少ないデザインが多いと思っていたが、デバイスによってARつまり拡張現実で彩っていたのか。


「起動後も安定しているじゃなイカ」


 俺が部屋の中を見回している間、ファヴィアンがデバイスをチェックしていてくれたようだ。


「んー!」


 リシューが声を出して部屋の中を飛び回り始めた。何かあったのかと心配したが、ファヴィアンが何も言わないので問題はないようだ。もしかしたらARを見て興奮しているのかもしれない。

 リシューがラウラの肩に止まるとファヴィアンが頷いた。


「二人とも問題ない。デバイスの使い方はヘルプをみれば大体解決するタコ」


 ヘルプと考えるとヘルプ画面が表示された。

 検索もできるようだし必要そうなことは調べて覚えておこう。

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