オンブルスペースコロニー−9

 干し肉を口の中に入れて噛み締める。

 マルセルと共同開発した干し肉は香辛料と塩を贅沢に使い、日本でよく売っている物に似せている。非常食の中でも美味しい分類だが少々塩辛い。

 干し肉の元になった動物は牛に似た種類で、比較的臭みもない。

 肉か。


「放牧とかできないの?」

「難しいな。コロニーは面積が足りなくて三つも稼働している状態だ。そのような場所を用意する余裕がない」


 コロニーは広々として見えるが、実際のところはそうではないようだ。無駄を省いて効率的に配置されているのだろう。

 鉱石の精製は近いほうがいいが、放牧なら多少遠くても運び込むだけだし近くの惑星でやればいいのではないだろうか?


「土地が余っている惑星とかないの?」

「一番近い居住可能惑星はワープする必要があるな」

「俺たちが来た時に見た惑星は?」

「惑星ロシュか?」

「そうそう」


 惑星の名前を思い出せなかったが、ラウラに聞いて思い出した。時間はかかってしまうが、惑星ロシュなら環境を整えてやれば人間が住めそうだ。


「随分昔に環境を変えることを考えられたらしいが、費用と効率を考えて諦めたと教わったぞ」

「丁度良さそうな天体なのになぜ?」

「周辺に水を含んだ惑星がないのが問題らしい。環境を整えられるほど水を運ぶなら、建材を運んだほうが低コストだと判断されたようだ」


 水か。

 確かに生物には水が必要不可欠だ。他の元素も必要ではあるが、水がなくては話にならない。周囲に水を含んだ天体がなかったのか。しかし、サイキックでは水を生み出せなかったのだろうか?


「水って生み出せないの?」

「何もないところから水を生み出すなんて魔法じゃあるまいし…………魔法?」


 ラウラも気づいたようだ。


「もしや惑星シャムルでは水を生み出して惑星を作り変えているのか?」

「そうだよ。居住可能惑星を作ったは良いけど、作りすぎて統治するのが大変らしいよ」

「それは他の銀河に興味なんてないはずだ。我々の技術より先を行っているぞ」


 環境を作り変えるのに地面のないガス惑星は環境を構築できないが、地面があって重力が許容範囲内であれば環境を構築できる。

 俺も師匠から魔法使いを遊ばせてはいられないと、惑星の統治を任せられている。宮中伯として貴族になったのも惑星を統治するためだ。

 任せられた惑星を最初は持て余していたが、今は地球から種子や家畜を持ってきて繁殖させている。友人のマルセルに下ろしている香辛料の大半は、統治を任せられている惑星から持ち込んだものだ。


「そうなると惑星ロシュの所有権を手に入れられれば牧畜はできるな」

「惑星の所有権って高くないの?」

「価値のない惑星だかなり安いだろう」

「安いのか。後、問題があるとすれば環境を作るのに多少時間がかかることだな」

「すぐには無理か。銀河間移転魔法を覚えるのとどちらが早いだろうか?」

「うーん」


 銀河間移転魔法を覚えたのは俺を含めて開発者の一人しかいない。俺は開発者に会っていないし、早い遅いを判断するのは不可能に近い。

 妖精のリシューなら覚えるのは早いかもしれないが、今のままでは魔力量が足りない。魔法を使えるまで年単位でかかりそうだ。

 惑星の環境を変える場合は大量に水を出す必要がある。魔道具を使って効率を上げることはできるが、年単位で水を増やしていく必要があるだろう。


「どっちも年単位かな?」

「どちらも同じような時間がかかるかもしれないか」

「そうだと思う」

「ならば、どちらも進められるように考えてみるか」


 確かにどちらも意味あることだ。

 銀河間移転魔法はリシューが故郷に帰るためだった、居住可能惑星ができれば今以上にコロニー周辺が発展するだろう。


「カイ、また相談してもいいか? こちらのお金になってしまうが、相談料は払うつもりだ。惑星の環境を構築できた場合の金額はまた相談したい、今のところは仮の話だしな」


 お金が手に入るのは悪くない話だ。

 コロニーで色々と見て回ったら欲しいものが出てくるだろう。今の時点でも欲しいものがいくつかある。ロボットとか普通のオートマタも気になっている。

 こちらでお金を稼ぐのは大変そうだし、ラウラの手伝いをすることでお金が入るのは助かる。


「その提案は嬉しいな。惑星の環境を変える方法を詳しく師匠に聞いておくよ」

「助かる」

「こちらこそ」


 ラウラと話しながら、朝食というより昼食に近い食事を終える。


「それではデバイスを買いに行こうか」


 ミミ・ブランから出て、再びモービルに乗って移動をする。

 途中までは道が同じだが、支柱になっているビルをどんどんと降りていく。最初に小型宇宙船の駐機場より、コロニーの中まで入っていくようだ。

 トンネルになっている支柱の中から出ると、ビル群が並んでいる。ビル横の歩道を人がまばらに移動しているのが見える。


「このエリアは居住区となっていて、小売する店もある」

「だから人がいるのか」

「上はオフィスビルなどが大半だな。この辺りは重力が適正値になっている」

「なるほど」


 この階層がコロニーの中心だったわけだ。

 人がそこまでいないと思っていたが、居住区でなかっただけなのか。モービルもゆっくりと走っており、速度制限があるのだろうと予想できた。

 人が多くいる路上でモービルが停まった。


「行こうか」


 そういうとラウラがモービルから降りた。俺もラウラに続いて降りる。

 ラウラについて歩道を移動していく。歩道の人が少しずつ増えていく、この先に何かがあるようだ。歩道を曲がると路地に大量の人が歩き回っていた。

 路地の左右には店らしきものが並んでいる。モービルは走れない道のようで、路地には歩行者しかいない。

 コロニーでこのような場所があると思っていなかったので驚きだ。なんとなく実際の店舗ではなく、家で買い物を済ませるものだと思っていた。


「こんなに店があるのか。買い物は外でしないと思ってた」

「実際家から出なくても可能ではある。しかし、私の羽のような専門の知識と許可がないとできないサービスもある」

「専門性が高いサービスは実際の店でないとできないのか」


 ラウラの羽は見た目の奇麗さも相まって、妖精のような見た目で似合っている。以前にラウラが羽はファッションと言っていたが、随分と手間がかかっているようだ。


「それじゃ行こう」


 ラウラは左右に振って店を見比べているようだ。

 ラウラの肩に乗っていたリシューは首を振られると安定しないのか、俺の肩に移動してきた。ラウラにリシューをお願いされたので肩に乗せておく。

 ラウラは店を見比べて選んでいるようだが、俺には店の外見を見ただけでは何を見ているのか分からない。


「リシュー、ラウラは何を見てるんだろな?」

「んー?」


 リシューも分からないようで不思議そうな声を出した。

 見回していて気づいたが、繁華街的な場所なのに看板などが見当たらない。なのに歩いている人たちは目的の場所が分かるのか、店の中に入っていく様子が見受けられる。


「やはりここにするか。品揃えや腕は良いのだが見た目がどうもな……」


 そういうとラウラが店の中に入って行った。

 見た目……? 店の外観を見てみる。店はどこも面積の問題なのかビルになっており、ビル自体は他と似た作りで規格化されていそうだ。白いビルなのが尚更普通に見える。

 何が決め手だったのかが分からない。リシューの様子を見るとこちらを見て不思議そうな顔をしており、俺同様にラウラの言った意味が分からないようだ。


「カイ、リシューこっちだ」


 ラウラがビルの中から俺とリシューを呼ぶ。

 慌てて俺もラウラに続いてビルの中に入っていく。

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