オンブルスペースコロニー−8

 ラウラが普通の状態では乗りにくいだろうと、ロボットの片膝をついた状態にしてくれた。背中側にハッチがあると言うが、背中まで随分低くはなったがそれでも頭上より高い位置にある。

 低重力なこともあって片膝をついたロボットを登るのは予想より簡単だった。背中のハッチをラウラが開けて俺が乗り込む。

 ハッチの入り口も狭いが中も結構狭い。一応椅子があるが姿勢としては立っているに近い。


「起動はすでにしているので、前面のディスプレイを起動するには頭上にあるスイッチを切り替える。軍の設備と同じ仕様なら物理スイッチがあるはずだ」


 ハッチまで一緒に来てくれたラウラが教えてくれた。確かに頭上に物理的なスイッチが存在している。しかし複数あってどれかが分からない、ラウラに尋ねると一番左のスイッチだと言う。

 スイッチを切り替えると外の様子が見えるようになった。


「おお!」

「おー!」


 いつの間にか一緒に乗り込んでいたリシューも興奮している。


「外部の音を拾う方法もあったはずだが……」


 ラウラが調べてスイッチの位置を教えてくれた。外の音声が聞こえるようになったところで、ラウラが背中のハッチから離れた。


「両足付近にあるペダルで足が動いて、手元にあるレバーで手が動く。立ち上がるのは別にボタンがあるようだな、右手レバー付近にある体側に近いスイッチだ。……ややこしいな」


 ラウラは思わず呟いてしまったのだろうが、ややこしいと言う程度には難しい。車の運転程度に思っていたら何倍も複雑だ。

 車と違って手足があるのだし当然か。

 ロボットが立ち上がると俺とリシューは大喜び。

 更に一歩前に出て大喜びする。

 一歩踏み出したところで終わりにしておく。物が多い駐機場では巨大ロボットには小さい。何かを壊してしまう前に終わっておくことにした。


「ラウラ、楽しかったよ。ありがとう」

「もっと動かせる広い場所なら良いんだがな、コロニーだと軍の演習場でしか無理だろう」

「そんな場所借りられないな」

「ああ」

「でも想像以上に難しかったから動かすなら相当広い場所じゃないと怖いな」

「デバイス経由で操縦した方が簡単だな」


 ロマンに欠けるが今乗った方法だと相当な訓練が必要そうだ。車でもマニュアル車よりオートマ車の方が多いのだし、無理に複雑な方法で操縦する必要もないかもしれない。

 アナログな操縦と通信で操縦する方法を併用できれば満足感は上がるかもしれない。


「ところで何故そんなにロボットが良いんだ?」

「俺の故郷ではロボットで敵を倒す娯楽作品があるんだよ」

「ロボットで?」


 ラウラが不思議そうに聞いてきた。確かにロボットで戦うなんて非効率だろう。しかし、漫画やアニメを言葉で説明するのは難しい。

 そういえば宇宙船の中にタブレットを持ち込んでいたはずだ。ソルセルリー王国でのんびり過ごす時ように、電子書籍や一部映像作品をダウンロードしてある。

 ロボットが出てくる作品を表示させてラウラに見せる。


「面白いが読みにくいな、データをもらうぞ」

「え」

「ありがとう」


 タブレットを返された。止める前にセキュリティを突破されてしまったようだ。

 全部データを抜かれているとしたら、色々書籍を買っているので少々気まずいのだが……。他にも問題はあるがここ地球じゃ無いしな。


「ふむふむ、確かに面白いな。後で時間をとってしっかり読んでみる」

「気に入ってくれたなら良かったよ」

「ところでカイの故郷にはロボットで倒すようなロボットや魔物がいるのか?」

「いや、そもそも巨大ロボットなんてないんだよ」

「空想上の話ということか」

「その通り」

「なら惑星シャムルで巨獣相手に戦うなんてどうだ?」


 惑星シャムルには魔物がいる。魔物の大きさは様々だが、体長五メートル以上の魔物を巨獣と呼ぶ。中には体長十メートル以上になる魔物もいて、なかなか迫力がある。

 それでもそこまで強くは無いのだが。


「巨獣ならロボットを使うまでもないんじゃ?」

「旅の途中で討伐に参加したが大変だったぞ?」

「え? 討伐?」


 ソルセルリー王国だと師匠のペット兼非常食なのだが……。

 非常食として必要とされることは今までになく、女王陛下のペットだとソルセルリー王国の国民には認識されている。

 ラウラに師匠のペットだと説明してみる。


「それは随分と認識が違うな。私が通ってきた国では、村程度であれば簡単に滅ぼせるという認識だったぞ。倒すのに百人近い人を集めていた」

「そんなに? 師匠は俺一人でも居住は倒せるって言ってたけどな?」

「カイはソルセルリー王国、いや惑星シャムルでも相当強い方なのでは?」


 うーん……言われてみれば強いのか? いまいち自覚がない。

 体を弄っている関係もあって、そう簡単に死ななくはなっている。それと移転魔法を使うために魔力はかなり多い。魔力量を考えれば強いのだろうが、実践経験と言われると実はあまりない。

 師匠に魔法での戦い方は教わってはいるが、ソルセルリー王国に戦争を仕掛けるような国はほぼない。魔物相手に多少戦ったことがある程度だ。


「うーん?」

「私とリシューが魔法使いの主戦力だったのだぞ? カイなら私以上の魔法を使えるだろ?」

「もしかして魔法使いが少ない国なのか」

「普通の国はソルセルリー王国ほど魔法使いは居ないと思う」


 魔女である師匠が女王をやっているのもあって、ソルセルリー王国には魔法使いが非常に多い。魔法使いが多いということは戦力が多いと同列だ。

 なのでソルセルリー王国は師匠が女王になってから負け知らずだと聞いた。


「巨獣を倒すのが目的ではないが、ロボットで戦う相手には丁度良いだろ? ソルセルリー王国で巨獣を倒せないようだが、他の国で倒せば文句を言われるどころか感謝される」

「なるほど。ロボット同士で戦ったら危なそうだし、巨獣は丁度良さそうだ」


 巨獣相手にわざわざロボットを使う必要はないと思っていたが、ロボットの練習としてなら良いかもしれない。ソルセルリー王国以外でなら倒して喜ばれるもののようだし、ロボットで倒せない場合でも魔法で倒してしまえばいい。

 しかし一つ問題がある。


「ロボット持っていくには少し大きい気がする」

「魔法の範囲に入らないか?」

「俺の宇宙船より一回り大きい程度なら入るんだけどな」

「ふむ。全長が十一メートルだったはずなので、足を折りたたんだとしても少々厳しそうだな」


 巨大ロボットの足を折りたたんでも若干飛び出そうだった。少しパーツを外せれば運べるかもしれないが、外して組み立てられるのかという問題が……。


「カイ、方法はまた考えよう。その前に朝食だな」

「そういえばそうだった」


 宇宙船の中から非常食を取り出して、応接室で食べることにする。

 応接室に移動すると、非常食を広げていく。

 乾物だったりが大変なのでそこまで美味しいものではないが、コロニーの食事に比べたらご馳走だ。


「やはり私は元の食生活に戻れなさそうだ」

「こちらで味を変えられないのか?」

「ふむ、ミミ味を確認してほしい」


 ミミが干し肉を食べ始めた。

 オートマタなのに食事ができるのか。


「複雑な栄養素ですね。一部過剰な栄養もあるようです」

「できそうか?」

「生産工場にオリジナルレシピを作る場合の手続きがないようです。直接オーダーが可能か尋ねる必要が出てくると予想されます」

「生産工場は大口しかないだろう。個人で注文すれば量と値段がすごいことになりそうだ」


 コロニーでの生産は絶望的なようだ。

 食料はまた持ってくるつもりではあるが、そんなに長期間分持って来れらるか怪しい。今回持ち込んだ非常食はラウラにあげるつもりだが、量はさほどないのでコロニーの食事を食べる必要が出てきそうだ。

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