オンブルスペースコロニー−7
ベッドから起き上がると見慣れない場所だと気づく。
そう言えば昨日はラウラの宇宙船、ミミ・ブランに泊まったのだった。
ベッドの寝心地はとても良かった。重力がない場合はベルトで体を固定する必要があるとミミから説明を受けたが、今は重力がある状態なのでいつも通りに眠れた。
身支度を整えるとお腹が空いた。
「今日もあのご飯か……」
食事があまりに美味しくないため朝食に絶望感がある。
ソルセルリー王国に帰るにしても、もう一日か二日魔力を回復させる必要がある。無理やり増やした魔力の関係で、一日寝た程度では回復し切らないのだ。
「朝昼晩と明日帰ったとしても最低三回は食事があるのか……」
どうにかならないだろうか?
ラウラが他の食事も似たようなものだと言っていたし、ラウラの言っていた通り飲み物だけで過ごすか?
「うーん」
昨日は無かったソファーに座って天井を見上げる。
ソファーも座り心地がいいし、ミミが用意してくれた物はどれも素晴らしい。唯一、食事を除けば。
まさか食事が栄養摂取になっているとはな。こんなことだったらソルセルリー王国から食事を持ってくるべきだった。あまり美味しくはないが、非常食ですらもう少しマシな味だ。
ん……? 非常食?
「非常食って宇宙船に積んでたよな?」
念のために非常食を積み込んだ記憶がある。
取りに行けばいいのでは?
思いついたところでラウラに相談しよう。少々朝食が遅くなってしまうが、ラウラも喜んでくれるはずだ。
寝る前に応接室を集合場所として決めていたので、部屋から出て移動する。
「おはようございます。カイ様」
「おはよう、カイ」
「おはよう!」
応接室にはすでにミミ、ラウラ、リシューが居た。
「おはよう」
俺が宇宙船の中に非常食があると伝えると、ラウラの目が輝いたように見えた。
「今すぐ取りに行こう! それとカイの宇宙船もミミ・ブランの中に入れておけば良い」
「大きさ的には入るんだろけど、入れる場所があるのか?」
「駐機場に停めておけばいい」
倉庫にしていると言っていた駐機場は想像以上に広そうだ。
ラウラが駐機場に小型の宇宙船が停泊できるようにしておいて欲しいとミミに伝えている。ミミを残して俺たちはミミ・ブランを出る。
ミミ・ブランの前に車のようなモービルがすでに停まっていた。事前に呼んでおいたのだろうか?
「行こう」
ラウラに続いて俺もモービルに乗り込む。
モービルが走り始めると、昨日来た道を反対方向に進んでいく。
「カイ、宇宙船を取りに行ったあとはデバイスを買いに行こうと思う」
「そんな話もあったな。でもお金がないよ」
「カイとリシューの分は私が払う、二人へのプレゼントだ。故郷へ帰れたのはカイのおかげだからな、お礼をしたかった。ミミ・ブランを見ればわかると思うが、そこそこにお金はある心配しないでほしい」
「ありがとう」
地球と同様にコロニーでお金を稼ぐのは大変そうだ。短期間でまとまったお金が手に入るとは思えない。ありがたく受け取っておくことにした。
デバイスは体内に埋め込む形と、ラウラの羽のようなファッションにもなる物があると説明を受ける。体内に埋め込む場合でも一瞬で終わるらしく、注射のようなもので埋め込まれて終わりらしい。
「地球に帰った時に面倒そうだし、体内に埋め込んでもらおうかな」
「せっかくなので観光がてら他のデバイスも見にいくか?」
「それは面白そうだ」
「後で店に案内しよう」
モービルから見ていると人がそうで歩いていない場所が多く、実店舗はなくネットで買い物をするのかと思っていた。見えていなかっただけで店舗はあるようだ。
ラウラと話をしていると、小型宇宙船の駐機場へと着いたようだ。
俺の宇宙船まで大きな駐機場を移動する。
「ラウラ、また運転を任せても?」
「分かった」
そういえば小型の宇宙船ってカタパルトで飛ばされていたが、俺の宇宙船も同じことをされるのか……?
「ラウラ、宇宙に飛び出す時ってどうするんだ?」
「それは……。確かに他の宇宙船と同じようには無理だな。管制官に連絡してみる」
ラウラがやり取りをした後、入り口からそのまま飛び立つことになったようだ。ガラガラと音を立てながら宇宙船が駐機場を進む。入り口を出たところで飛び立ったようで、カラカラと音を立て始めた。
宇宙船はクレーターのような建物を登るかのように上がっていく。中腹を過ぎた辺りで方向を変えて建物に向かっていく。遠目では見えなかった建物の繋ぎ目が見えてくる。
一つの繋ぎ目が観音開きに空いて、その中に俺の宇宙船が入っていく。宇宙船が完全に入ると扉が閉まって、空気が入っているかのような音がし始めた。
音が止むと入ってきたのとは反対方向の壁が開いた。
モービルが開いた扉の先にある。モービルには車を運ぶトレーラーのような物が取り付けられている。宇宙船はコロニー内で飛ばせないと言っていたので、トレーラーに乗せて運ぶのだろう。
予想は当たっておりラウラが宇宙船をトレーラーに乗せた。乗せるとすぐにモービルが動き始める。
「コロニー内を飛ばせないのは大変だな」
「大型の宇宙船はもっと大変だぞ。メンテナンスの時以外はコロニーに入港はしない」
大型の宇宙船も飛んで移動できないのか。そういえばクレーターのもっと上の方だと、宇宙から船が見えていた。ミミ・ブランのような大きさだと普通は中に入れないのか。
「何故ミミ・ブランはコロニーの中に入ってるんだ?」
「元々定期メンテナンスで入港予定だった。桟橋に無駄に長く止まるのはよく思われないし、偶然だが不幸中の幸いと言ったところだな。それとコロニー内に入るのは高いが中での駐機代は桟橋より安い」
確かに偶発的な銀河間移転に巻き込まれるのは不幸だが、戻って来られて宇宙船も無事だったしな。比べても意味はないが、同じような事態に遭遇した俺よりは運が良いと思う。
そんなことを考えていると、モービルがミミ・ブランの中に入っていく。駐機場は想像以上に広い。天井も十メートル近くあるのでは?
モービルのトレーラーから宇宙船が降りると、モービルはミミ・ブランから出て行った。俺たちは宇宙船から降りる。
降りて周囲を見回すと壁際に何か巨大なものがあることに気づいた。
「どうした?」
「壁の近くにあるのって一体?」
「ああ、運搬用のロボットだな。オートマタを巨大化させたもので、専門の機械には負けるが柔軟に作業ができる」
「オートマタを巨大化ってことは人型?」
「そうだ。興味があるならライトをつけよう」
お願いすると駐機場のライトが全てついた。
両サイドの壁際にはロボットが五機づつ並んでいた。ロボットの全長が天井付近まであって、かなり大きいことが分かった。オートマタは丸みを帯びていたが、ロボットは角ばっている部分が多い。
使用目的が違うから形も違うのだろうか?
何にせよ巨大ロボットだ!
「すごいな」
「すごい!」
俺同様にリシューも興奮しているようだ。惑星シャムルにはこんな人工物ないからな。
「そんなにすごいか?」
反対にラウラは不思議そうにしている。人型のロボットは機械としては使い勝手が悪いのだろうと予想できる。だがしかし、宇宙船同様にロボットはロマンなのだ。
「これって中に乗り込めたりするの?」
「できるぞ、軍の訓練で一度やったことはある。通信妨害された場合に備えての訓練だったが、意味があるかと言われると謎だったな」
「乗れるのか……」
乗ってみたいな。
「乗ってみるか?」
「良いのか?」
「駐機場が狭いのであまり動かせないが、乗るだけなら問題ない」
「それでも良いので乗ってみたい」
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