オンブルスペースコロニー−6

 ラウラがミミに今までのことを話している。

 手短に話しても時間がかかるだろうと、俺は周囲を見回してみる。

 俺たちが入ってきた場所はエントランスのようになっており、広い空間になっている。左右に階段まであって通路が複数あるようだ。

 階段以外の構造物は意外に少なく、物もあまり置いていない。無重力になることを考えると物はあまり置けないのかもしれない。代わりに白を基調とした壁や床に装飾が施されており、女性らしい内装になっている。


「カイ様、改めてお礼を申し上げます」

「ラウラのことですか?」

「はい。カイ様の助力がなければラウラ様はお戻りできませんでした」

「気にしないでください。銀河間移転で困ったのは私も同じですから力になりたかったのです」


 ミミと話していると人工知能と話しているとは思えない。ラウラから話を聞いてすぐに理解してお礼を言ってくるとは……。

 表情も動いているし、感情もあるのかもしれない。

 人間を相手するような喋り方になってしまっているが、高度な知性を持ち合わせているのだし、失礼がないようこのままの印象で良いのかもしれない。


「カイ様、リシュー様。艦内をご案内いたします」


 ミミについて歩いていく。

 エントランスも広かったが、廊下に出るとまた違った印象を受ける。

 一直線に続く廊下は、行き止まりが随分と遠くにある。乗り込んだ場所が端ではないので、六百メートル廊下があるわけではないだろう。それでも数百メートルはありそうだ。

 廊下というより短めの道のようにも見える。


「宇宙船ミミ・ブランは面積の三十五パーセントが居住区、動力部、推進剤タンク、駐機場、武装となっております。残りの六十五パーセントが積載可能な領域となります」


 ミミは居住区が一番狭いとも教えてくれたが、それでも十部屋以上の部屋があるようだ。ラウラが使っている部屋は一部屋で、残りは人を乗せる時に使うようだ。

 使っていない部屋を見せてもらったが、リビングと寝室の二部屋用意されており想像以上に広い。今は物がほとんど置かれていないので、さらに広々として見える。しかしこの広さなら、ラウラが一部屋しか使っていないのも納得できる。

 コロニーや宇宙船ってもっと一部屋が狭いのかと思ってた。


「ミミ、カイに一部屋用意する」

「承知いたしました」


 今日の泊まる場所は無事確保できたようだ。


「カイ様、どちらのお部屋がよろしいですか?」

「全部同じなんですか?」

「使用しておりません部屋は同じ規格で統一しております」

「それじゃ、この部屋で構いません」

「承知いたしました」


 必要なものを運び込んでくれるようだ。一度俺たちは部屋から出る。

 再び廊下に戻るとミミから説明を受ける。

 居住区などで一番場所を取っているのが、推進剤タンクと動力部になるようだ。六百メートルもある巨大な宇宙船を動かすのだ、動力部が大きくなるのは当然だろう。


「高出力のヴィヨレエンジン三機、中出力十機が動力部となります。また重力を発生させるため、小型核融合炉を三機搭載しております。電力は姿勢制御をするための小型推進器としても使用しております」


 動力部や推進剤タンクは見られないので言葉だけでの説明となった。

 素人が近づくのは危なそうだし、ミミの指示に従う。

 格納庫は倉庫になっているので多雑に物が置かれているだけとのことで、操舵室へと案内された。


「本艦は操舵室で操縦する必要はありませんが、攻撃を受けた際に影響が少なくなっております」


 攻撃を受けるようなことがあるのか。そういえばラウラが傭兵のようなこともやっていると言っていた気が? 多くの人が宇宙に進出している銀河だと問題も多そうだな。

 今は何かあったら操舵室に来ればいいと理解した。

 操舵室を出ると、応接室として使用している部屋へと案内された。応接室にはソファーや机が置かれており、先ほど見た部屋とは違って物が置かれている。それでも地球やソルセルリー王国とは違って物の数が少ない。やはり重力の関係で少ないのだろうか?

 ソファーに座ると包み込むような感覚があって座り心地がすごくいい。お気に入りのソファーと同じくらい快適だな。


「以上で本艦の説明を終わります」

「ありがとうございます」

「ありがとう!」


 俺とリシューがお礼を言うと、ミミが頭を下げた。

 オンブルの時もそうだったが、日本と同じように頭を下げる文化があるようだ。


「お部屋の準備もできましたが、その前に皆様で食事にいたしますか?」

「そうだな」


 ミミが準備しますと言ってすぐに部屋の扉が開いた。誰がきたのかと思ったら、人間の形をしたのっぺりとした機械だった。俺たちそれぞれに箱を二つとスプーンを置いて行った。


「今のが普通のオートマタだ。ミミが私の周囲で普段使いするオートマタは私の趣味で作り変えている」


 ミミには鼻や口があって肌の質感まである。先ほどのオートマタは目がある位置に機械はつけられていたが、全体的に光沢ある質感で金属やプラスチックのような見た目をしていた。


「今は食事にしよう。随分と久しぶりに食べるな」


 ラウラがそう言って箱を開けている。箱は上がカップ麺のようにノリで封がされているようだ。

 俺も開けると薄い黄色の物が敷き詰められていた。特に匂いらしいものはなく、液体ではないようだが硬そうにも見えない。正直いうと見た目は美味しくなさそうだ。

 見た目が悪くとも美味しい可能性はある。俺はスプーンで掬い上げると粘土はあるが簡単にすくえた、スプーンですくっただけでも意外に重量がある。一箱食べたらお腹がいっぱいになりそうだ。

 初めての食べ物でよく観察してしまった。

 俺は口の中にスプーンを入れる。


 ……うん、まっず。

 味はなんと言ったらいいのだろうか……。酸味、えぐみ、甘み、塩味全てが合わさっていて複雑な味だ。さらに食感が良くない、粘土を食べてる気分になってくる。味からして栄養だけはあるのだろうな……。

 ラウラの故郷で食べられているものだし、好物なのかもしれないので不味いとは言えない。さりげなくラウラの表情を確認すると、スプーンを口に入れたまま固まっていた。


「まずい」


 ラウラまでまずいと言った。

 好きなものじゃなかったのか?


「……ラウラの好物とかではないの?」

「コロニーの食事は数種類しかない。好きだとか嫌いだとかいうものではなく、食事は必要な栄養を摂取するための行為とされている」

「ええ……?」


 栄養が摂取できればいいとはなんとも。

 宇宙に出る際に美味しい料理などが消え去ってしまったのだろうか? 地球の宇宙食も最初はひどいもので、こっそりサンドイッチを機内に持ち込んだという話もあったはずだ。

 コロニーでは食事を開発することなく技術発展してしまったのかもしれない。宇宙で食材を揃えるのも大変だろうし、一度消えた文化を取り戻すのは大変だろう。


「惑星シャムルのご飯は美味しかった」

「ラウラこれから耐えられるの?」

「ふう……」


 ラウラはため息をつくと、焦点の定まらない目でどこか遠くを見ている。食べ物がこれしかないなら慣れるしかないだろうが、慣れるまで大変そうだな。

 リシューが興味を持ったようで、ラウラから少量もらって食べている。一口食べた後は二度と食べようとはしなかった。

 リシューも嫌か、流石にこの食事はかわいそうだ。


「次来るときに食品を持ってくるかい?」

「そうか、無いなら自分で作ればいいのか。簡単なことしかできないが料理を覚えて良かった。カイ、申し訳ないがお願いできるか?」

「分かった」


 食品は今手元にないので、今日は出された食事を食べるしかない。

 魔力の回復は体調に依存する、空腹状態はまずいと食べ続ける。ちなみにもう一つの箱は飲み物だった、食事ほど不味くはなかったのが救いだ。

 ラウラが飲み物だけで生きようかと真剣に考えていた。それはそれで栄養的に問題はないのだろうか……?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る