オンブルスペースコロニー−4
俺たちは軍の施設から開放された。
宇宙船をオンブルが用意してくれた民間の駐機場へ移動させる。
駐機場の停車場所がわからないので、再びラウラの運転で宇宙船は動き出す。短期間で随分と慣れたようで細かい運転もスムーズにこなしている。
駐機場はクレーターのように見えた構造物の底にあたる部分が目的らしい。大型の宇宙船は構造物の上の方に係留されているが、小型の宇宙船が止まっているようには見えない。
しかし、カタパルトのようなものがあって、小型の宇宙船が次々に宇宙に飛び出している。どこから飛び出しているか見ていると、クレータを形取っている構造物の中から飛び出しているようだ。
宇宙船がクレーターの底までつくと、構造物の下は立体駐車場のようになっていた。駐機場には五メートル以内の宇宙船が大量に停められている。
宇宙船の形状は、車というよりは戦闘機の形に近い。そんな宇宙船の中を俺の宇宙船がガラガラと音を立てながら進んでいく。
どうやら駐機場には重力と空気があるようで、周囲には人が歩いている。
「しかし、注目をすごい浴びている気がする」
「珍しいからな。こだわりのカスタムをする人はいるが、ここまで形を変えることはないから目立つのだろう」
確かに塗装の色が違う程度はあっても、流線形の形をした宇宙船ばかりだ。
俺の宇宙船のような箱型は存在していない。
あれ? 箱型……?
「そういえば四角形の宇宙船って軍用って教わったけど、俺の宇宙船ってまずい?」
「四角形が禁止されているのは武装や噴射装置の問題なので、武装がそう積めない小型の宇宙船に関しては特に規定はないな。なので小型船であれば軍用ぽくした宇宙船も作れるはずだが、私は見たことはないな」
「なるほど」
「それにこの宇宙船は装飾品が多すぎて四角形とは言い切れないと思うぞ」
元々師匠の宇宙船だったので、女王陛下が乗る宇宙船の装飾品が少ないわけがない。これでも荷物を多く乗せるため多少は弄ったのだが、量産品でないのもあって無骨なデザインではないな。
それと大きな車輪がついているしな。宇宙船を見た限り飛行機のように小型のタイヤがついているが、飛行時には格納されるであろうことが予想できる。俺の宇宙船は車輪を格納できない。
「到着だ」
ラウラがそういうと、宇宙船が完全に停車した。
宇宙船から出て足が地面につくと、若干重力が軽いように感じられた。ジャンプして重力を確認していると、地面がアスファルトやコンクリートとも違うことに気づく。
床は白いプラスチックのような見た目ので、ジャンプするとカツカツと軽い音を立てる。先ほどの軍の施設も似たような白い床や壁であったが、コロニーではよく使われる素材なのかもしれない。
周囲を見回すと、天井が高いことに気づく。天井には照明の他にトンネルにある送風装置のようなものが設置されている。トンネルと同様に、空気を循環しているのかもしれない。
「それでは行こうか」
ラウラに移動を提案されて、どこに行くか聞いていなかったことを思い出した。
「ラウラ、どこに行くつもり?」
「オンブルとの話し合いで結構な時間を使ってしまった、カイが泊まる部屋も用意できるので私の宇宙船で休まないか? それと私情なのだが、宇宙船がどうなっているか心配なのもあって確認したい」
コロニーに来る前に宇宙船について話していた気がする。というか俺が泊まる部屋を用意できるということは、大きな宇宙船の可能性が高そうだ。
「思い出した、そういえば管制官がラウラの宇宙船は駐機場に停泊しているっていってたっけ」
「ああ。無事帰還していてよかった」
「泊まらせてもらえるならありがたい。ついていくよ」
コロニーで使える通貨を持っていないので、泊まるにしてもお金がない。ラウラの提案はとても助かる。
宇宙船が移動する通路と人が移動する通路が分かれており、人が通る通路は床が動くようになっているようだ。地球の空港にあるような移動用のレーンとなっている。
地球の空港よりコロニーの駐機場の方が大きいからか、移動用のレーンは結構な速度で前に進んでいく。
俺たちと反対方向に進むレーンも横にあり、来る人をつい観察してしまう。
「見た目が獣人でもない人が多いな。角が生えてたり、肌の色が赤だったり青だったと多種多様ですごい」
「肌の色はファッションだ。そういう種族もいるが少数だな」
「ファッションなのか」
タトゥーのように模様を入れている人もいるが、一色だったのでそういう種族なのかと思った。そういえばラウラの背中についている羽もファッションだと言っていたな、地球のファッションとはまた違うようだ。
それでもラウラのように羽をつけている人は少ない。スーツのような服を着たサラリーマンのような人や、ドレスを着たご婦人まで多種多様な見た目の人がいる。
一部には機械の見た目をしている人までいて驚きだ。
「ファッションなのか種族なのか分からないな」
「皆、あまり気にしないので、聞くまで分からなかったりするぞ」
「そうなのか」
「惑星シャムルと同じように獣人の見た目にもできる」
獣人になれるとは……見た目は自由自在なのか。
コロニーを作れるほどの技術力があると、体の大幅な改造でもファッションになってしまうようだ。
無遠慮に見つめるのはまずいと思いつつも、反対側のレーンを通る人を見つめてしまう。レーンの速度が速いので怒られることはないが褒められたことではない。
俺がコロニーの人々を観察していると、二つのレーンが通れるだけのトンネルに入った。トンネルはすぐに終わり、移動する床が終わったようだ。
どうやら駐機場の移動はここまでのようだ。これ以上はあまり人を見つめないようにしないと。
「カイ、リシュー。ようこそオンブルスペースコロニーへ」
ラウラの言い方からすると、駐機場はコロニー内と換算されていないようだ。
周囲を見渡すと巨大なビル群が立ち並んでいる。ビルの一部は天井までの高さがあり、コロニーを支える支柱のようにも見える。
「凄いビル群だ」
「すごい!」
俺よりリシューの反応がいい。
惑星シャムルや惑星フィルにビル群はないので当然かもしれない。
ビル群を見ていると、天井が夕暮れのように赤いことに気づいた。当たり前のように受け入れていたが、空がないコロニーの天井が赤いのは変だ。照明で赤くしているにしても何故だ?
「何故天井が赤いんだ?」
「ああ。時間ごとに天候が変化する。雨は汚染物質が出ない限りは降らないらしいがな」
「雨も降らせるのか」
「私もコロニーでは雨には出会ったことがない。惑星シャムルで初めて雨というものを体験した」
雨を体験したことがないとは。コロニーからの移転者ならではの驚きだろうな。
「それじゃ行こうか。この風景なら飽きるほど見られる」
ラウラが駅前で待つタクシーのように駐車されていた、車のような乗り物の扉を開いた。俺に先に乗るようと促してきたので乗り込む。
俺に続いてラウラとリシューが乗り込むと、すぐに乗り物は走り出した。
「コロニー内の移動手段はこのビークルだけだ」
「宇宙船は飛ばせないのか? 大きさ的には小型の宇宙船なら飛ばせそうだけど」
「コロニー内で宇宙船を飛ばす許可が出るのは軍と警察だけだ。コロニー内の空気が汚染させてしまうからな」
「空気の問題なのか」
駐機場の空気が悪いとは思わなかったが、巨大な送風機のような機械がついていたな。空気を循環するだけではなく浄化していたのかもしれない。
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