オンブルスペースコロニー−3
統合人格、なんか凄そうな響きだ。
見た目は人のようだが、統合人格ということは人ではないのだろう。
「私はオンブルスペースコロニーの統合人格オンブル。コロニー全ての記録と提言を致しております」
「水無瀬 甲斐です」
「リシューだよ!」
俺とリシューが名前を名乗ると、オンブルが丁寧に頭を下げてきた。
俺も慌てて同じように頭を下げる。
コロニー全ての記録と提言するということは、実質コロニーの運営しているのはオンブルなのではないだろうか?
オンブルという名前から予想できたが随分と大物のようだ。
「オンブルが直接出てくるほどの緊急性なのですか?」
「我々に銀河を渡る技術がないのはラウラ・シャーミも存じ上げているかと。技術を持った生命体が敵対的であればコロニーの存亡に関わります。私の存在意義として話を聞く必要が考慮いたしました」
俺の方を見ながら敵対的と言われた。
随分と警戒されているようだ。
銀河間移転できるので、文明が進んでいると思われているのかもしれない。実際はそんなことはないのだが。
ラウラの前に俺が銀河間移転魔法について説明した方が良さそうだ。偶発的な銀河間移転について説明して、残った痕跡をたどって魔法を使っていることを説明する。個人の技量で使う魔法であることも合わせて説明した。
「我々のワープ技術にもサイキックは利用されていますが、そちらの銀河の方が随分とサイキックについては進んでいるようです」
「サイキックというと魔法みたいな物が技術に組み込まれているんですか?」
「ええ。技術者でない限りは知られていませんが、コロニーを動かしたりワープをするために一部使用されています」
「聞いてもいい話なのですか?」
「秘匿された技術ではありませんので」
コロニーが所属するアンドロメダ銀河は科学技術だけで発展したわけではなく、他の要素技術も取り込んでいるのか。
敵対するつもりがないと理解が得られるように、こちらはさんかく座銀河内で十分であることを説明する。
更に俺もラウラ同様に銀河間移転で移転者だと話していく。
ラウラも移転後から今に至るまでの話をしていった。
「オンブル、惑星シャムルがコロニーを侵略する理由がないと思うぞ」
「どういうことでしょう、ラウラ・シャーミ」
「私が乗ってきた宇宙船を見ただろ? サイキックで飛んでいるので推進剤など必要ない」
「ヴィヨレ鉱石を必要としないとなると、確かに侵略する意味がほぼなくなります」
確かに推進剤は要らないな。
そもそも魔法使いは宇宙船なくても宇宙空間で生きていけるのだし。
ソルセルリー王国が欲しがるなら人材だろうけど、侵略するより交渉して連れて帰った方が良さそうだ。仮に無理やり連れて帰って開拓中の惑星に放り込んでも碌なことにならないだろう。
開拓するための人材は今のところ間に合っている。それより魔法使いが欲しいのだが、コロニーに居なさそうだしな。
「今のところは別の銀河を侵略する理由がありませんか」
「はい。言葉で信用していただけるかは分かりませんが」
「確かに信用という意味では難しい。ですがサイキックで発展した文明が歪な技術発展するのはデータにもあります。個人を怒らせない限りは問題ないのだと理解しました」
なんか俺がとんでもない爆弾のような言われ方をしているが、何とか説得には成功したようだ。
最悪移転魔法で逃げることも考えていたが、どうにかなって良かった。
リシューに魔法を教えるのにたまに来る必要があるし、コロニーを観光してみたい。しかしここまで警戒されていては流石に無理かもしれない。ダメもとで一応尋ねてみるか。
「たまに来てコロニーを見て回ってみたいのですが、無理でしょうか?」
「では一時的な市民権を交付いたします」
驚いたことにすぐに許可が出た。
「良いのですか?」
「今後の関係を構築するため相互理解が必要だと推考致しました」
一瞬であっても長考したかのような返答だ。
実際凄まじい速度でデータを参照して考えを決めたのかもしれない。
ラウラが俺に続いてオンブルに声をかけた。
「オンブル、リシューとコロニーに住む予定なのだが」
「妖精に関しては永住権を交付致しましょう。別の惑星で生存が確認されていますので問題ありません」
「妖精が住む惑星があるのか?」
「はい、オンブルとは別の星系に住むようです。データベースにあった生体情報とほぼ一致しております」
アンドロメダ銀河にも妖精がいるのか。
生体情報が一致していると言うことは、同じように進化する収斂進化ではないようだ。妖精なら、さんかく座銀河から流れ着いた可能性もなくはないか。
「オンブル、リシューは銀河間移転魔法を覚えようとしている、それでも可能か?」
「…………」
初めてオンブルが即座に返事をしなかった。
オンブルは長考するように微動だにせず固まっている。
魔法を覚えるつもりであると、正直に言う必要はなかったかもしれない。だが知らせずにいるのも相互理解という意味ではよくないか……。
「オンブル、リシューの滞在が許可されない場合、私は故郷を捨てることも視野に入れている」
「…………」
オンブルは返事をしない。
ラウラは歯を食いしばったかのような緊張した表情をしており、故郷を捨てるという決意が本気だと俺には理解できた。
分かってはいたが、ラウラとリシューの友情はとても強い。
「私の知能をもってしても確実な答えは出ませんでした。ですが我々は複数の種からなる複合体です。対話から交渉を始めた友好的な種を排除すべきではないという結論にたどり着きました」
「市民権の交付は可能なのか?」
「制限付きではありますが許可をいたします」
制限の内容を聞くと監視対象となるようだ。
監視といっても人権があり、機械の判断で問題行動を判別する。誰かが常に一緒に行動するとかもなく、精神的な負担がないように配慮されている。
ラウラとリシューが納得したところでオンブルが頷いた。
「市民権の交付を完了いたしました」
市民権を得られたようだ。
一瞬で交付されたので早すぎないかと疑問に思ったが、生体情報さえあれば市民権の交付は可能なようだ。病原菌の検査時に、生体情報は登録済みだったようだ。
手続きは移行するだけで終わり、交付は完了したのだとオンブルが教えてくれた。
「ありがとー!」
「歓迎します、リシュー」
「よろしくオンブル!」
リシューのお礼に初めてオンブルの表情が柔らかくなった。
表情が変わらないので感情がないのかもしれないと思っていたが、そうではなかったようだ。
「市民権を持っていてもデバイスがない。二人のデバイスを購入しないとな」
「認証システムはデバイスが無くとも問題ありませんが、所持していた方が便利ですね。お二人は生体に組み込まれておりませんので、外部デバイスか生体デバイスを購入された方がよろしいでしょう」
ラウラは背中の羽以外に機械は持っていないがコロニーと交信ができた。羽は宇宙での活動用と言っていたし、体内にデバイスが組み込まれているのかもしれない。
コロニーと交信していたことからすると通話などの機能もありそうだし、複合的なデバイスだとするとスマホのように様々な機能がありそうだ。
「カイ様」
「はい、なんでしょうか?」
「時間があるようでしたら医療機関への受診をお勧めいたします。病原菌は問題ありませんが、身体の検査結果がよろしくありません」
身体の検査結果とは魔法での肉体改造で失敗した後遺症のことだろう。
生きていく分には不自由しないが、細かい失敗はいくつもしている。治せるなら治したい。
「コロニーでの医療なら治るのでしょうか?」
「大半は治療可能です」
観光の時間を削ってでも受診しておこう。
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