オンブルスペースコロニー−2
宇宙船がカラカラと音を立てながら宇宙を走っていく。
すると遠目に見えていた紫色の惑星が近づいてくる。透明感のある鮮やかな紫色で、惑星自体が若干発光しているようだ。奇麗だが同時に危なげな雰囲気も醸し出している。
「紫色の惑星が惑星ヴィヨレだ」
「奇麗だけど少し毒々しいかも?」
「惑星の色はヴィヨレ鉱石によるものだ。実際ヴィヨレ鉱石は奇麗だが猛毒だよ」
惑星の色が鉱石の色って、露天掘りできるということか。地表だけではなく惑星の奥まで同じ鉱石だとしたら、とんでもない埋蔵量なのでは。
スペースコロニーを三つも作る理由が理解できた。惑星一つ分の鉱石と考えたら、宇宙にスペースコロニーを作っても建設費用は余裕で取り返せるだろう。
「カイ、コロニーの管制官と連絡ができた。話が聞こえるようにしておく」
ラウラはそういって管制官との会話を聞かせてくれた。
話を聞くに俺の宇宙船はデブリだと思われていたようで、位置の特定に戸惑っている。五メートルほどしかないし、推進剤もなしで進んでいるので熱源もまともにない。真っ直ぐ進んでいるだけだと確かにデブリに見えそうだ。
宇宙船を蛇行させることで管制官側が位置を把握できた。
ラウラが生体情報を送信すると言った後、管制官が確認をしたと返事をしている。続いてラウラが自然災害的なワープに遭遇して帰還したと話した。
『自然災害的なワープを?』
「軍にいた頃に非常に稀だが発生すると習ったが、私自身が遭遇するとは思っていなかった」
『……遭遇するのは天文学的な確率ですね』
確率なんて考えたくはないが、銀河間移転に巻き込まれるとか相当に運が悪いだろう。帰って来られる確率まで考えたら絶望的な数字になりそうだ。
『宇宙船だけ帰還しておりますね。駐機場に停泊しているのを確認できました』
「私がいなくても帰っていたようで良かった」
管制官がラウラから話を聞いた後、スペースコロニーに向けて案内が始まった。こちらに誘導装置などないので、ラウラが情報を受信することでルートを把握するようだ。
俺が指示に従って運転するより、ラウラが運転した方が良いだろう。再びラウラに運転を交代する。
ラウラの操縦で宇宙船は進んでいく。
惑星ヴィヨレにかなり近づいてきた。大きな衛星が周回しているようだが、まだスペースコロニーは見えない。代わりに大型の宇宙船が遠目に見え始めた。
「ラウラ、スペースコロニーはまだ遠いのか?」
「見えているぞ?」
「え?」
ラウラが指差した方向を見ると、大きな衛星があった。何となくスペースコロニーは円柱型だと勝手に想像していたのだが、円形なのか? にしても大きすぎないか?
「あの大きな衛星?」
「そうだ直径一万二千キロ。スペースコロニーとしては最大級の大きさで、あれ以上は惑星の環境を変えてしまうことの方が多い」
直径一万二千キロって月と同じくらいの大きさじゃないか。
星間国家のソルセルリー王国で宮中伯をしているので、宇宙について色々と調べているため大きさが理解できた。
「そんなのが三つもあるの?」
「そうだ。効率は悪いがヴィヨレ鉱石はそれ以上の利益を上げている」
「惑星ヴィヨレ大きいもんな……」
月と同じ大きさのスペースコロニーと比べると、惑星ヴィヨレは地球以上に大きそうだ。そう簡単に掘り尽くしてしまうような埋蔵量ではないのだろう。
スペースコロニーにさらに近づいてくると、周囲に宇宙船が飛び回っているのが見え始めた。映画の中でしか見たことがない光景に年甲斐もなくワクワクしてきた。
こんな感情は師匠に初めて魔法を見せてもらって以来無かったことだ。
宇宙船の窓に張り付くように外の光景を確認する。
別の宇宙船と近距離ですれ違う。
宇宙船は遠くから見ると小さく見えたが、近づくとかなり大きいことが分かった。
「大きいな」
「百メートルから五百メートル以内はコロニー周辺の運送用だ。他の惑星に荷物を運ぶ宇宙船は五百メートル以上でもっと大きいぞ」
なんとまだ小さい方だったようだ。
ラウラが周辺を飛んでいる宇宙船の大きさを、おおよそだが教えてくれた。聞いた限りは百メートルから二百メートルくらいが多いようだ。
宇宙船の形は円錐形だったり、細長い三角形が多くみられる。運搬用なら四角い方が良さそうだが、どれも先が尖っている。
「宇宙船って四角形とか円柱型じゃないんだね」
「ああ。四角や円柱は軍の宇宙船だ。民間での使用は許可されていない」
「そういうことなのか」
形で判断できるのは分かりやすいな。
コロニー出身のラウラであれば、形など違ってもすぐに軍の宇宙船だと理解できそうだが、俺のような人には分かりやすくて良い。
更にコロニーに近づくと、俺の馬車と同程度の大きさの宇宙船が飛び回っている。ラウラの説明によると個人用の小型の宇宙船だという。車のような使い道だろうか。
コロニーに近づいたからか、コロニーがどのような構造か見えてきた。
真っ白いコロニーは月のようにクレーターがあるように遠目では見えていた。しかしクレーターのように見えたのは宇宙船が停泊するための駐機場で、大きな円形の桟橋が立体的に連なったもののようだ。
近くで見ると様々な宇宙船が停泊している。
『宇宙船を確認できましたが……どこからお戻りでしょう?』
「さんかく座銀河から帰ってきた。惑星はサイキック系だ」
『………………』
管制官が絶句しているのが通信越しでも分かる。
『病原菌の検査をしていただいても?』
「了解した」
確かに病原菌は怖い、管制官が危惧したことはよく理解できる。
俺もソルセルリー王国と地球を行き来する時は注意しているが、正直不安ではある。今のところ問題は起きてないが……ラウラの故郷に殺菌用の良いものないだろうか? 後で尋ねてみよう。
行き先が変更になり、普通の桟橋ではなく軍が管理する区画へと切り替わったようだ。
軍と聞いて不安になるが、ラウラからそこまで心配する必要はないと言われた。
「どのようなサイキック技術かは聞かれるとは思う。懸念されるのはむしろ我々のコロニーが攻撃されないかで、さんかく座銀河すら持て余している現状攻めに行くことはない」
「ラウラたちの技術でも銀河を持て余しているのか。師匠も同じ理由で銀河間移転魔法を覚えていなかったからな」
「惑星間のワープでも苦労している。そういう意味では惑星シャムルの方が進んでいるな」
「そうは言っても個人に依存した技術だからな」
そんなことを話していると、コロニーの内部に入っていく。
地面に宇宙船の車輪がついたのだろうカラカラという音から、ガラガラと重量が乗った音へと変わった。
管制官から宇宙船ないで待機を命じられたので待っていると、全身どこも素肌を出さない完全防備をした人たちが宇宙船の周りに集まってきた。大量の機械を持ち出して宇宙船を調べている。
「惑星ヴィオラで活動するための装備だな。宇宙服以上の性能だ」
「すごい装備なのは何となく分かった」
同時にどんだけ危険な存在だと思われているのかと不安にもなる。
管制官からの指示で順番に降りていく。
宇宙船と同様に機械で調べられ、服を変えて欲しいと別室に連れていかれ体を洗われる。随分と着心地のいい服に着替えると、観葉植物や木の家具が置かれた部屋へと案内された。
それまでの部屋や廊下は、白を基調とした壁や床で装飾が一切なかったので驚く。
部屋の中には髪を全て後ろにすきあげた男性が椅子に座っていた。スーツのような服を着ており、役人のように見える。
「どうぞ席にお座りください」
「統合人格オンブル」
「その通りです。ラウラ・シャーミ。わたくしが対応するのが適切だと判断いたしました」
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