オンブルスペースコロニー−1

 サーブル王国で痕跡を調べること二日、魔法を発動できるところまで調べられた。

 ピエール爺が手配してくれたおかげで、土地と塔のような建物は国が所有することに。置いてあったものは全て外に出され、二階、三階部分には住めるようにとベッドやら生活するための物が運び込まれた。

 食事なども用意してくれ、ソルセルリー王国とはまた違った味付けのスパイシーな料理を堪能した。


「ピエール爺、助かりました」

「なんの。尊敬するローザ師匠と、可愛い弟弟子のお願い叶えるのは当然」


 宇宙船は移転魔法で王宮から直接運び込んでいる。魔法で走らせるか、馬やラクダで運ぶ方法もあったが、段差などあってどちらにせよ直接室内に入れるのは無理だった。

 建物の中が広くてよかった、宇宙船が部屋に入らないなら建物を壊さないといけなかった。


 改めてピエール爺にお礼を言って、宇宙船に乗り込む。

 宇宙空間に出る可能性を考えて、宇宙船の施錠をしっかりと確認する。


「ラウラ、宇宙に出る可能性がある最終確認を」

「分かった」


 ラウラが確認している間、俺も宇宙船に装備されている魔道具や食料を確認する。

 水を出すための魔道具やライトの代わりになるものなど、無重力で浮き上がらないように固定されているか順番に見ていく。最後に一番重要な酸素濃度を調整してくれる植物を確認する。

 植物は魔道具ではないが魔法で改造された植物で、人が住めるように調整してくれる優秀なものだ。


「準備はいい?」

「構わない」


 完全に施錠した宇宙船の中からは声がほとんど通らないので、宇宙船の窓からピエール爺に頭を下げる。ピエール爺とそのお付きが宇宙船から大きく離れたところで、俺は魔法陣を展開する。

 魔法陣は大小さまざまに二百個出す。宇宙船の下から上に魔法陣を出すが、一塊の光に包まれるように宇宙船が包まれる。魔法陣の展開中は外から見たことがないので、俺にはどうなっているか分からないが中からでもすごく眩しい。

 全ての魔法陣を出し終わったところで魔法を発動する。




 魔法が発動すれば一瞬で移動できる。痕跡の解析を失敗していると魔法が発動しないので、外を見れば成功しているかはすぐに分かる。

 外は宇宙で成功したようだ。周囲には何も……。


「でっか」

「これは惑星ロシュ。……帰って来れたのか」


 後ろを見たら何と惑星があった。見た感じ岩しかないので人が住んではいなさそうだ。

 惑星の重力で移動してしまう前に、痕跡を探す魔法を使って位置情報を魔道具に保存する。惑星の中ならまだしも宇宙痕跡探しとか無理だ、俺が帰れなくなってしまう。


「よし、位置情報を保存できた」


 星間移転でも使う魔道具ではあるので問題ないとは思うが、銀河が違うので一応確認すると無事動作することがわかった。


「ラウラ、帰り道は分かる?」

「…………」


 ラウラは俺の言葉に反応しないで、惑星ロシュを見つめ続けている。

 リシューがラウラの顔をペチペチと叩くと我に帰ったようだ。


「ああ。案内する」


 話は聞いていたようで案内を始めた。

 惑星は移動しているので心配だったが、星の位置関係で大体の位置はわかるようだ。


「故郷であるオンブルスペースコロニーは、惑星ヴィヨレの衛星として周回しているのでわかりやすい。細かな位置は惑星ヴィヨレに近づけば通信できる」

「衛星ってことは惑星の周りを回っているのか?」

「そうだ。オンブルスペースコロニーは、惑星ヴィヨレから採掘される鉱石を集め精製するためのコロニー。大型のスペースコロニーが三つ並んでいる」

「三つ!」


 コロニーが三つとは想像以上の規模だ。


「そんなに重要な資源が採掘されるのか?」

「惑星ヴィヨレから採掘されるヴィヨレ鉱石は生成され、宇宙船の推進剤として利用される。人工的に合成されたり他の惑星でも採掘できると発見されたが、それでも埋蔵量からして惑星ヴィヨレは重要な惑星だ」


 宇宙船の推進剤として使用されるって、宇宙で生きていく上で重要なエネルギーだろう。ラウラの故郷は重要な位置にあるのだな。

 しかし三つもスペースコロニーを作るくらいなら、惑星に住んだほうが良さそうだが?


「そんなに重要な場所なら惑星自体に住めるようにしないのか?」

「ヴィヨレ鉱石は猛毒で、人が永住するは不可能だ。一時的な滞在なら可能だが、鉱石は遠隔操作で機械が採掘している」

「そんなに?」

「色々と研究されたようだが、不可能だと結論が出たようだ。最終的にスペースコロニーの建造が決まったと私は教わった」


 宇宙に出るほどの技術がある人々が諦めるほどの猛毒って……。

 それでも採掘するほどに効率が良い燃料となるのか。


「それに惑星ヴィヨレは重力が強い、時間がゆっくりと進んでしまう」

「重力を操れないのか」

「規模によるが惑星単位では滅多にやらないな」


 ラウラの言い方からすると重力自体は操れるようだ。流石というか、できないと人類が広範囲に広がって生存が難しいか。

 魔法だと惑星単位で重力を変える方法があるのだが、とんでもなく大変なので良さそうな重力の惑星を選んでいる。師匠も惑星選べばいいだけだと、魔法を使いたがらないくらいには面倒だった。


「ところでカイ、この宇宙船どうやって進んでいるのだ?」

「宇宙を走っているんだよ」

「宇宙を走る?」

「車輪で走っている」

「車輪?」


 俺が宇宙船を走らせているが、この宇宙船の構造に納得はいっていない。サンタクロースのトナカイとソリが空を飛ぶように、この宇宙船は宇宙を走るのだ。今も宇宙船の窓から車輪がカラカラ回っているのが見えるだろう。

 魔法で進んでいるだけなのだが、科学的に考えると意味がわからない。

 とてもメルヘンな乗り物だ。


「この宇宙船は私も運転できるのか?」

「できるけどやってみる?」

「お願いしても?」


 宇宙船を止めてラウラと交代する。

 宇宙船は魔道具と魔法で動くようになっている。魔道具の一部となっている水晶に手を添え、魔力を流すことで車輪が動き始める。しかし魔道具だけでは進まず、前後と上下左右の指示は魔法でする必要がある。

 魔法陣など使わない感覚的なものなので、魔法使いであれば操縦自体はとても簡単だ。魔法を飛ばす時の感覚と似ているので、大半の魔法使いはすぐに操縦できるようになる。

 魔道具単体で宇宙船が動かないのは、進行方向を組み込もうと思ったら装置が巨大化してしまうからだ。今のところは魔法使いくらいしか宇宙船を使用しないので、魔道具が簡易化されている。

 操縦の仕方を教えると、ラウラはすぐに動かせるようになった。


「思った通りに進む、これは楽しいな!」

「気に入ったようで良かった」

「それに見た目が可愛いのも良い」


 宇宙船を随分と気に入ってくれたようだ。

 ラウラは喋り方や振る舞いが軍人ぽいので、可愛いものより無骨なものの方が好きなのかと思っていたが違うようだ。

 もしかしたら本当に軍人なのかもしれない。

 軍人だと上からの命令を断れないこともあるだろう、自分の安全を確保するため一応尋ねておくか。


「ラウラって軍人だったりする?」

「む? 元軍人だな、数年やっていたが合わなくて辞めた。予備役にも入っていないので、軍から命令されることはない」

「それは助かる」


 俺の聞きたいことをラウラは察してくれたようだ。

 移転魔法を使えば逃げられはすると思うが、揉め事を起こしたいわけではないので良かった。


 ラウラが宇宙船を運転しているので気になったようで、リシューも運転してみたいと言う。運転を交代しながら宇宙船はラウラの故郷へと進んでいく。

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