惑星シャムル−6

 俺が師匠からの手紙を騎士に渡すと、サーブル王国の騎士は慌ただしく動き始めた。

 侍女が来て王宮の中を案内してくれる。

 サーブル王国の王宮はアラビア調の建物で白を基調にカラフルだ。王宮内は風通しがよく、王宮内に水が流れていたりする。サーブル王国は砂漠に囲まれているので、涼しくなるような工夫がされているのだろう。

 立派なタペストリーの飾られた部屋へとお通された。家具も上質な物だし想像以上に歓迎されているようだ。


 椅子に座って出されたお茶を飲んでいると、部屋に牛人が入ってきた。角が生えており、赤黒ぽい毛に覆われ顎には立派な髭が生えている。凄いのが体で、服の上からでも筋肉が盛り上がっているのがわかる。

 俺が立ちあがろうとすると止められた。

 牛人が椅子に座ると声をかけてきた。


「ソルセルリー王国から来たのは其方か?」

「はい。水無瀬みなせ 甲斐かいと申します」

「カイがローザ師匠の弟子か?」


 ローザ師匠?

 師匠は王族に魔法を教えていると言っていたが、もしかして相手は王族か? 失礼があってはならない、すぐに返事をする。


「はい。ローザ・ド・ソルセルリー陛下は魔法の師匠です」

「ならそう固くなるな、ワシはピエール・ド・サーブル。二代前の国王をやっていた。それとカイの兄弟子でもあるな」


 二代前の国王!?

 魔法使いは見た目では判断できないが、ここまで筋肉質な魔法使いは今まで見たことがない。魔法使いは基本的に長生きなので見た目での判断は難しいが、二代前の国王ということは高齢のはずだ、しかし衰えている様子は見られない。


「ピエール様、突然お伺いしまして失礼しました」

「畏まらんで良い、王を退いて四百年経つ。今も何だかんだと良いように使われておるが、基本は隠居した爺だからな。ワシに様なんぞ要らん、年も離れておるしピエール爺とでも呼んでくれ」


 敬称を要らないと言われるのは困ると思いつつも、直接ピエール爺でいいと言われてしまったらそう呼ぶしかない。師匠とは違った遊び心のある人で若干戸惑う。

 しかしピエール爺と呼ぶには、見た目が全然爺には見えないのだが……。


「それでローザ師匠の手紙には協力するようにとし書かれておらなんだが、どのような用事だ?」

「偶発的な銀河間移転の被害者を故郷に帰そうと思いまして、移転したのがサーブル王国なのです」

「偶発的な銀河間移転か。そういえば以前に報告があったきが……?」


 ピエール爺はそう言って考え込み始めた。


「思い出したぞ。ワシが王都に帰ってきた時にはサーブル王国を出ていた」


 サーブル王国もソルセルリー王国同様に惑星を所有する星間国家だ。ピエール爺が良いように使われていると言っていたのは、所有する惑星を管理するのに忙しく働いているのだろう。

 ピエール爺がサーブル王国に戻ってきた時には、ラウラは国外へと出てしまっていたようだ。


「待っていた方が良かったのか」

「申し訳ないな。お嬢さん」

「いえ、私が待つことができなかっただけですので。それに直接ソルセルリー王国に行っていたら、リシューと会えませんでした」


 リシューと会ったのはサーブル王国を出た後だったようだ。

 結果的にサーブル王国を出たことが、ラウラとリシューとっては良い結果となったのか。


「リシュー?」

「私の相棒です」


 ラウラが肩に乗っていたリシューを手の上に乗せた。


「私はラウラ・シャーミ。そして相棒のリシューです」

「りしゅーなの!」

「おお、ワシはピエール・ド・サーブル。お嬢さんたちもピエール爺と呼んでくれ」


 ピエール爺の見た目は厳ついが、ラウラやリシューと話している感じを見ると好々爺している。王族なのに随分と親しみのある人のようだ。


「三人がサーブル王国で活動するのを手助けしよう」

「ありがとうございます」

「さて、まずは下見か。ワシも一緒に向かわせてもらう、土地が必要であろうからな」


 銀河間移転の痕跡を調べるのには時間がかかってしまう。

 俺の場合は移転場所がマルセルの店だったので、マルセルの協力もあって痕跡を調べるのが随分と楽だった。

 ラウラがどのような場所に移転したかは分からないが、街中に移転したのであれば誰かの土地だろう。だからピエール爺が一緒に来て、土地の所有権を調整してくれるようだ。




 宇宙船は王宮に預けたまま、俺たちはピエール爺が準備してくれたラクダに乗って移動する。

 馬車かと思ったらラクダだった。

 馬の乗り方はソルセルリー王国で覚えたが、俺もラクダは初めて乗る。最初は乗れるか不安だったが、俺とラウラにはラクダを引くための人がついており、自分で操っていないからか乗り心地はいい。


 ラクダに乗り慣れてくると周囲を見回す余裕も出てくる。

 サーブル王国の王都は砂漠の中にある国ということで砂埃が立っている。暑くはあるが、ピエール爺から借りた露出の少ない白い服を着るとそこまで暑くはない。

 サーブル王国の民家は赤茶けた石で建てられているようで、王宮同様にどことなくアラビアぽさのある建物が多い。


 ラウラの案内でサーブル王国の王都を進んでいく。

 ラウラは以前に自分の中に座標値は保存されていると言っていた。ラウラにはAR(拡張現実)として位置情報が見えるらしい。俺たちに見せるように表示もできるが、地図情報がないので点があるだけで見ても分からないだろうと説明された。


「ラウラ、ここが?」

「ああ。反応はこの中だ」


 近くを一周回って確認したのでこの中で間違いないのだろう。

 最終的にたどり着いたのは塔のような建物だ。

 ピエール爺が一緒に来ていた役人に話しかけると、家の持ち主がすぐに判明した。調べるのに時間がかかるかと思っていたのでありがたい。

 ピエール爺と役人が交渉してくれ、すぐに建物に入れるようになった。塔のような建物の中は倉庫になっているようだ。何に使うのか分からない器具や、食料品が積まれている。

 ラウラが建物の中をうろうろと歩き回る。


「ここだ」


 ラウラがそう言ったのは何も物が置かれていない、少し中心からズレた場所だった。俺がラウラと立ち位置を変わって、銀河間移転の痕跡を探すように開発された魔法を使いながら、正確な位置を確認していく。

 痕跡を探すようだが、かなり使い勝手が悪い魔法だ。ピンポイントで位置を特定しないと反応しないので、ラウラに位置を確認しながら動き回る。


「どちらの方向に動けば良い?」

「もう少し右前だ」


 ラウラの指示に従って前後左右と移動していると魔法に反応があった。どうやら正解を引いたようだ。


「あったぞ」


 今後のためにも、魔道具に正確な位置を記録する。ラウラの故郷に行くなら同じ場所で魔法を使う必要がある。


「では建物ごと買い取っておこう」

「ピエール爺助かります」

「ありがとうございます」

「ありがとー!」


 俺に続いてラウラとリシューもお礼を言った。


「後はやっておくので調べておくといい」

「二、三日もあれば調べられると思います」

「分かった。必要な物があれば用意する、人を残すので言ってくれ」


 俺は痕跡を調べて紙に情報を書き込んでいく。

 銀河間移転魔法は移転魔法と似たような物だが、移転魔法は惑星を軸に考えるのに対して、銀河間移転魔法は惑星シャムルがある銀河を軸に考える。

 惑星内の移転であれば惑星の移動速度は考える必要がないが、星間移転になると惑星の移動速度を考える必要が出てくる。更に銀河間移転魔法になると、銀河の移動速度まで考える必要があり、魔法自体がどんどん複雑になっていく。

 なので銀河間移転魔法の痕跡なしで魔法を発動させようと思ったら、百年で魔法が完成したら早い方だ。

 適当な場所に銀河間移転魔法で移転してみるという方法もあるが、太陽な恒星だとか、ブラックホールが移転場所にあったら魔法使いといえど死んでしまう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る