惑星シャムル−4

 俺の宇宙船は馬車に形は似ているが、外で御者が運転するわけでは無い。

 宇宙で御者なんてさせれば死んでしまうしな。


 御者がいないということは、宇宙船を自力で運転することになる。実は魔法使いは宇宙でも生きていける人がほとのどだ。なので御者のように外で運転してもいいのだが、魔法使いは身分が高い場合が多い。御者を魔法使いがするは、側から見ると違和感が凄らしい。

 宇宙船は馬車のような見た目だが、車のように中で運転する前提に作られている。ガラスと樹脂で作られた透明な窓が正面、左右、後部についており外を見渡せる。

 運転する場所がある関係上、荷物はそう載せられない。それこそ車のバンと同程度だ。なので俺とラウラが二人がかりで香辛料の入った箱や袋を下ろせば、すぐに荷物は宇宙船の中からなくなった。


「助かったよ。本当に力持ちだな」

「体も強化しているし、羽にアシスト機能もついているのでこの程度であれば問題ない」


 香辛料と言っても箱に入った重いものは五十キロ近いと思うのだが、軽々と持ち上げていた。俺が魔法を使って持つ前提で用意しているので、かなり重くしているのだがな。

 後はサーブル王国に行くだけだが、マルセルが会いに来いと言っていたな。ついでに国に許可をもらってくるか。


「ラウラ。マルセルに会いにいくついでに、サーブル王国にいく許可を取ってくる」

「国を出るのに許可がいるのか?」

「俺はソルセルリー王国の宮中伯なんだ。友好国なので勝手に言っても問題はないと思うけど、話を通しておいた方がことを進めやすい」

「貴族だったのか。それでカイに会う前にマルセル殿から色々と聞かれたのだな」

「貴族になる気はなかったんだけど、そうもいってられなくてね」


 優秀な魔法使いは野放しにできないと言われて、貴族になってしまった。

 マルセルがラウラから話を聞いているなら、もしかしたらマルセルが王宮に連絡をしてくれているのかもしれない。先に会いに行った方が良さそうだ。

 家の外に出たところで随分と日が傾いていることに気づいた。


「ラウラ、宿は決まってる?」

「しまった、忘れていた。私も気が急いでいたようだ」


 今から宿を探すとなると大変だろう。

 今は倉庫になっているが元々は店舗兼住宅だったので、二階部分には泊まれる部屋がある。俺も一部屋借りていて私室のように使っている。


「部屋なら余っているから泊まってくかい?」

「良いのか?」

「俺も泊まっているから良ければだけど。部屋は別だから安心して欲しい」

「問題ない。助かる」


 男と泊まるのを気にするかと思ったら即決だった。

 ラウラの身体能力なら相手が男だろうと関係ないか。

 倉庫の中に戻ると、奥にある階段へと向かう。二階に上がって俺が使っている部屋以外を見せた。どの部屋も定期的に掃除をしているので、奇麗に片付いている。

 俺が住み着いているので、マルセルが人を雇って掃除してくれているのだ。


「ではこの部屋で」

「分かった」


 ラウラが選んだのは南向きの日当たりの良い部屋だった。俺の部屋が隣だが気にしていないようだ。

 ラウラが泊まることをマルセルに伝えるのは事後承諾で問題ないだろう。


「それと台所は好きに使って構わない」

「助かる」

「それじゃ出かけてくるよ」


 家を出て大通りへと向かう。

 俺はよく声をかけられる。師匠の弟子であることも関係はあると思うが、似たような人がいないからか目立つようだ。

 露店をしている犬人のおばさんから声をかけられた。


「カイ、ローザ女王陛下は元気かい?」

「数日前に会ったけど元気だったよ」


 ローザ・ド・ソルセルリー女王陛下が俺の師匠だ。

 師匠はソルセルリー王国の女王陛下で、国内では絶大な人気を誇る。元々はただの魔女だったらしいが、千年近くソルセルリー国を治めているらしい。


 女王陛下が俺の師匠になった理由は簡単だ。銀河間移転魔法の手記を所有していたのが師匠だったからだ。

 銀河間移転魔法なんて魔法を預ける相手といったら、国一番の魔法使いか魔法制作の協力者以外には居ないだろう。二つを合わせ持った存在が、俺の師匠であるローザ女王陛下だ。


 魔法制作の協力者だから魔法が使えるかと思ったら、忙しすぎて覚えていないと師匠に言われた時は絶望した。さらに覚えるのに百年ほど待って欲しいと言われた時は、時間の感覚が違い過ぎると再び絶望した。


 露店のおばさんと会話をしていると、馬人の男性が近づいてきて花を差し出してきた。


「カイ、ローザ女王陛下に贈り物を!」

「悪い今日はマルセルのとこだ」

「そうか……」


 声をかけてきた馬人は贈り物だと差し出してきた花を下ろした。哀愁漂うその姿は、絶望と題名をつけたいほどだ。

 どちらにせよ一人から贈り物を受け取って仕舞えば、皆が何かを渡してくるので基本的には断っている。


 俺の師匠であるローザ女王陛下は、絶世の美女と評判で凄まじい人気だ。残念ながら俺には師匠が美女かは分からないのだが……。

 師匠の種族である蜥蜴人の美しさを俺には理解ができない。蜥蜴といってもヤモリに近い見た目だ。なので人によっては可愛らしく見えるとは思うが、美人かどうかを区別するのは無理だった。


 声をかけられるので、歩く速度はゆっくりだがマルセルの店へと進んでいく。

 ソルセルリー王国の建築様式は石造りでどことなく西洋ぽさがある。

 石は地下から切り出したり、近くの採掘場から持ってきた物らしい。街を歩いている獣人たちを除けば、ヨーロッパの風景だと言われても違和感がない。

 俺が住んでいるのはソルセルリー王国の王都で、近隣の国家と比べても一番発展していると言われている。それでも中世ぽさが若干あるのだから、まさか他に惑星を所有している国家だとは思わないだろう。


 マルセルの店は四階建ての立派な建物だ。

 香辛料でここまで大きな店を持っているのは珍しい。しかも店とは別に倉庫をいくつも所有しており、店の規模は大きくなり続けている。

 顔見知りの警備員に挨拶をして、裏口から店の中に入る。三階にあるマルセルの執務室へと向かう。


「マルセル」


 マルセルの執務室は壁には絵画が飾られ、木でできた家具が趣味よく配置されている。置いてあるソファーは普通の大きさだが、マルセルが仕事をする机は小さめだ。マルセルの身長が百二十センチなので、大きすぎると使いにくいのだ。


「カイ、王宮へは連絡をしておいた」

「助かる」


 マルセルが手紙を渡してきた。

 封筒の差出人は師匠だった。忙しいので不在かと思っていたが、どうやら王宮にいたらしい。中の手紙を読むと、サーブル王国へいくのは好きにしていいと書かれていた。

 手紙の最後に、時間があるのなら顔を出すようにとも書かれている。


「彼女を送っていくのだろ?」

「ああ。俺しか銀河間移転魔法の使い手はいないからな」

「カイなら問題ないと思うが、気をつけてな」


 友人からの気遣いに嬉しくなる。

 俺は魔法使いとして強くなったからか、どうにかなるだろうと油断しているところがある。ラウラの故郷は文明が随分と発達しているようだし、気をつけないと。

 マルセルに一週間以内には帰ってくると話した。


「師匠のところに行ってくるよ」

「ああ」


 歩いて王宮に向かったら大変なことになりそうだ。マルセルの執務室から王宮へと移転で飛ぶことにした。惑星内移転なら難易度が格段に落ちるので簡単だ。それでも普通の魔法使いは魔力が足りず、覚えるのが大変らしいが。

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