惑星シャムル−2
俺が偶発的な銀河間移転に巻き込まれた時は、今は倉庫になっているマルセルの店に移転した。突然現れた俺の話を聞いたマルセルは、魔道具に座標値を保存してくれた。おかげで俺は数年で日本に帰ることが可能になった。
痕跡を解析するのにも店を快く貸してくれ、ソルセルリー王国にいる間随分と世話になっている。マルセルは友人であるとともに恩人なのだ。
「帰れない場合があるのか?」
「そうですね……。座標値があって帰れない場合があるとすれば、俺の魔力が足りない場合ですね。銀河間移転魔法には膨大な魔力が必要です」
「カイの魔力が足りなかった場合は諦めるしかないのか」
「いえ、少々時間はかかりますが魔力は増やせます」
「魔力は増やせるのか?」
「ええ。肉体を魔法で改造する必要がありますができます」
今の魔力の十倍必要などと言われたら難しいが、倍程度に増やすならできる。失敗すると大変なことになるので、必要がないのならやりたくはないのだが。
肉体の改造は手順をしっかり踏めば死ぬことはそうそうない。といっても俺は何回か失敗をしており、一番酷い失敗で肉体が二十五歳で固定されている。
今年三十五歳なのに随分と若く見られる。意図的に一人称を俺と言って、年齢を誤解させているのも若く見られる理由なのだろうが。
他は一般的な日本人男性で、男にしては少し長めの黒髪に黒目だ。肉体改造の練習で身長を百七十センチから百七十五センチにしているが、特出して身長が高い訳ではない。
「魔法で肉体の改造などできたのか」
「秘術に分類されますから、師匠がいないなら知らなくて当然かと。自力でやるのはおすすめしません。爆散して死んでしまいますからね」
「そ、そうか」
ラウラが肉体の改造について、興味がありそうな言い方をしたので止めておく。失敗すると肉体が爆散するのは本当なので嘘ではない。ラウラがやる気を無くしたようなので、もっと酷い場合もあるが言う必要はなさそうだ。
「ラウラは肉体の改造に抵抗はないのですか?」
「カイの出身は肉体の改造をしないのか? 私の羽は機能もあるが基本はファッションだぞ」
ラウラの背中にある羽はリシューと似ており、妖精の羽にそっくりだ。座るのに邪魔そうだと思ったが、気にした様子がないので痛覚はなさそうだ。
「ラウラの背中についている羽は気になっていましたが、ファッションなんですか」
「ファッションとはいえハイグレードモデルなので、宇宙で活動するための機能は備わっているな」
宇宙? 地球と同じような文明の進み具合かと思ったら違うのか?
「ラウラの故郷は宇宙に進出しているのか?」
「ん? 私はスペースコロニー出身だ」
スペースコロニーとは驚きだ。SFの世界ではないか。
ラウラの故郷は地球と比べて、文明が随分と進んでいるようだ。
「もしやカイの故郷は宇宙に進出していないのか?」
「地球で人類が宇宙に行ったのは六十年ほどだったと思う。大半の人類は宇宙に出れていないので、進出したとはまだ言えないな」
「それだと接触が銀河条約違反に……。いや、ここはアンドロメダ銀河ではないのだから条約外か」
ラウラが一瞬顔を歪めたが、すぐに元の表情に戻ったので問題は解決したようだ。呟きからすると、相手側に一定以上の文明がないと接触できないのだろう。未発達文明を保護する余裕があるということは、想像以上に文明が発達してそうだ。
「そもそも惑星シャムルで交流を持っていること自体が条例違反だったな」
ラウラの言葉がに違和感を覚える。ソルセルリー王国は宇宙に進出している。
「宇宙に進出するという話だったら、惑星シャムルの国家は宇宙に進出してますよ。ソルセルリー王国は他の惑星を保有する星間国家ですし」
「は?」
惑星シャムルでは人々の暮らしが中世ぽいので勘違いしてしまうが、魔法使いは肉体を改造して宇宙空間を移動している。行くべき惑星の座標が決まれば、星間移転で瞬時に移動できてしまう。
科学で宇宙に進出しているわけではないので、地球の常識からは外れてしまう。魔法も技術ではるが、何段階か技術を飛ばしている印象がある。
そんな魔法にも欠点はあり、量産などが苦手のようだ。中世ぽい生活をしているのは科学技術が発展していないせいで、人力で物を量産するしかないからだ。代わりに魔法は何かに特化させると凄い成果を上げる。
「サイキックで文明が発展すると特殊だとは聞いていたが、目の当たりにすると驚くな」
どうやらラウラの故郷には魔法に分類される技術はあるようだ。それでも近くには存在しなかったのか、惑星シャムルが星間国家を内包しているとは思わなかったみたいだ。
「ラウラも銀河間移転に巻き込まれたなら魔法は使えるだろ?」
「ああ。使えるようになると思わなかったので楽しくはあるが、そこまでのことができるとはな」
偶発的な銀河間移転は、膨大な魔力が圧縮されることで起きる現象だと考えられている。移転に巻き込まれると、圧縮された魔力が体内に残って魔法が使えるようになるのだという説がある。
「それとリシューが星間移転魔法なら使えるはずだ」
「リシューが!?」
「妖精は惑星フェルの住人だからな」
リシューは話すことができないようなので、星間移転魔法を使えることを知らないのは不思議ではない。そんなリシューはラウラの周りを飛びながら胸を張って得意げな表情をしている。ラウラにすごいすごいと褒められて、笑顔を振りまいている。
リシューは話すことができないが、こちらの言葉を理解しているようだ。それにしては体の大きさが小さすぎる。もしかして惑星フェルに随分と帰っていないのか?
「リシュー、惑星フェルに随分と帰っていないのか?」
俺の質問に、リシューが頷いている。惑星シャムルでは普通妖精の体は大きくならないと話を以前に聞いたことがある。どうやって大きくなるのかと聞いたところ、惑星フェルにある花の蜜を食べることで妖精は大きくなるのだと教わった。
今は惑星シャムルでも花の蜜を作っているらしいが、花が育てるのが難しい品種らしく普通に流通しているものではない。
リシューのことを考えていて気づいたが、ラウラが故郷に帰るならリシューはどうするのだろうか?
「ラウラ故郷に帰る時リシューはどうするんだ? 連れて行くつもりか?」
「そのつもりだが」
「それだとリシューが大きくなれないな……。それにリシューは星間移転はできるが、銀河間移転はできない。帰れなくなってしまうぞ」
「なに!?」
似たような見た目をしたラウラとリシューの二人は、同じように目を見開いて驚いた表情をして固まっている。リシューが悲しげな声を出しながら、ラウラの頭に抱きついた。
リシューは悲しげな声で、ラウラと一緒に居たいのだと良くわかった。
「銀河間移転魔法を教えるのは可能だが年単位で時間がかかる。それにリシューの魔力量が今のままだと足りないな」
「そんな……」
ラウラとリシューが別れることになるのはかわいそうだ。
そういえば以前に惑星フェルに行った時、お土産で蜜の入った瓶をいくつか貰ってきた。惑星フェルでなければ成長はできないかもしれないが、ダメだったら星間移転で移動しても良いだろう。
リシューが話せるようになっても二人の仲が悪くなることはなさそうだしな。
「リシュー、フェルの蜜を以前にもらったのだが飲んでみるか? 成長できればラウラと話せるかもしれないぞ」
「ンー!」
リシューは催促するように俺に手を出した。どうやら飲む気があるようなので、もらった蜜を取りに行く。他の部屋にはマルセルの商品などもあるので、ラウラとリシューには部屋で待っていてもらうことにした。
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