夕の雲が左右にけると燃えるような晴れがあらわれる。地平線からは夜とおぼしき紺色が立ちのぼり、だいだいと混じり合ってはどんな色ともおぼつかない景色になって、感慨としては夕のものとも夜のものとも言えない寂寞せきばくのあわいに浸る。

 ここは空が広く、見上げると全面が宙である。都会の屹立きつりつするビルと無数の窓の光に虐められ窮屈になった大気とはまったく違う、伸びやかでしなやかな風の流れがある。何にも遮られない風の勢いとは風林火山における風のようなもので、扇風機だのエアコンだのといったちょこざいな機械のそれとは訳が違う。私の血管をしたたかに打っては全身を波打たせるような迫力がある。私は立ちはだかってその風を受ける。

 私に巣食う悶々もんもんとしたわだかまりだけが風に遊ばれて消えていき、後には空になった私だけが残る。

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私が私である旅に添えて higasayama @higasayama

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