4-9:「これで、俺たちは自由になれる」

「つまり、これが『答え』だっていうことだよな」

 赤いカードをかざし、千晶は記者に話を終えさせる。帰り支度をさせ、そのまま喫茶店からは立ち去らせた。


 千晶は席を立ち、晴れ晴れとした表情をする。榊もカウンター席から腰をひねり、じっと彼の様子を窺っていた。


「これでゴールだ。動物どもの目的は、人間の霊がどこにも見つからない理由を探すことだった。そしてその理由は、死後に魂が動物の姿に変わるからだった。それがわかった以上、あいつらの目的も終わりだ」

 熱っぽく顔を赤らめ、千晶は高らかに言い切る。「そうだろ?」と笑みを向ける。


 直斗は無言で席につき、両手を膝の上に押し付ける。


 思ったよりも、呆気なかった気がする。

 おかげで今でも現実感が持てなかった。


 あの動物たちの目的が、千晶の思惑によって判明した。

 人間が言い出したことではなく、ほかならぬ彼らの『仲間』が自分で探り出した答えだ。彼らとしても疑う余地はない。


 でも、なんとなく違和感もある。


「まあ、たしかにちょっと不思議な話ではあったな。さすがに、人間が死後に動物に変わるって言われても、俺もピンとは来なかったよ」

 じっと押し黙っていると、千晶が笑いかけてくる。


「でも、言われてみると少しリンクする話もある。なんで動物どもの操作を三回受けると精神が動物になるのかも、よく考えると不思議だった。でも、人間の精神がもともとそういう性質を持っているものなんだとすれば、あいつらの出す力の影響で、生きている内にそういう現象が起きるんだっていう風にも解釈できる」


「それはたしかに、筋が通っているね」

 榊が近くで身じろぎする。カウンターの椅子を回転させ、千晶に体の正面を向ける。


「そうですよね。あいつらもその辺はよくわかってなかったし、この話を聞けば、きっと納得しないではいられなくなる」

 胸の前で拳を握り締め、千晶は顔を綻ばせた。


 これで終わりだ、と彼はまた呟きを発する。


「とにかくもう、これで全部解決したんだ。あいつらの目的はもう達成された。これ以上何もしなくても、あいつらの欲しい答えは手に入ったし、やるべきことももう存在しないのがわかった。だからもう、これで何もかも終わりなんだ」


 千晶はつかつかと歩み寄り、テーブルに片手をつく。正面から直斗の顔を覗きこみ、「そうだろ?」と共感を求める。


 深々と息を吐き、彼は揚々と宣言した。


「これで、俺たちは自由になれる」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る