1-12:千晶の作戦

 一晩経った今でも、まだ受け入れられた気がしない。

 動物たちが人間を支配しようとしていて、自分たちはそれに協力するしかないなどと。


「まずは、日用品の買い出しでもしておくか」

 朝食を終えたあと、千晶は外出の準備を始めた。直斗の方へ茶封筒を渡し、それを収めるように促してきた。開いてみると一万円札が何十枚も入っている。


「昨日はいきなり連れて来られたから服の着替えもないだろ。まだ暑いし、制服しか普段着がないんじゃさすがにおかしい」


「そうだね」と自分の恰好を見る。今は千晶のTシャツを借りているが、家から持ってきたのは学生服のみだった。


 千晶に促され、駅前の方へと買い物に向かう。今日は土曜日なので昼間に歩いていても不審がられる心配もない。


「ついでだから、今後の方針についてもある程度話しておくか」

 軽やかに前を歩きながら、千晶は本題を切り出してきた。直斗は無言で後ろ姿を見つめ、彼が話すのをただ待った。


 頭上の電線の上には鳩や雀が何羽もとまっている。電柱と電柱の間がびっしりと鳥で埋められている一画もあった。


「俺たちだって出来る限り、穏便に話を終えられないかと模索してたんだ。もう二年以上も続けてるからな。どうしたら人間に被害が及ばないようにあいつらを納得させられるか。必死に考えて答えを出したんだ」


「何か、方法があるの?」

「ああ。うまく行くか分からないし、結構時間がかかるけどな。そのために榊先生が仲間に加わることになったんだ」

 千晶は頭上の鳥たちを見上げる。


「榊先生の専攻は民俗学。そして、メインの分野は『動物信仰』についてなんだ」

 キーワードを口にし、悪戯っぽく口元を歪めてくる。


「要するに、これからあいつらを『神様』にしてやろうっていうことなんだ」

 しばらく間を置いたのち、千晶は得意げに微笑んだ。

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