相沢蘭子の場合・3
『彼ら』の力を借りる際には、注意すべき点がある。
それは、『彼ら』の力を悪用してはいけないということ。
お金儲けに使ったり、自分の嫌いな人間を破滅させようとしたり、気になる異性を自分に振り向かせようとしたりするなど。
そういう私利私欲のために使おうとすれば、『彼ら』の怒りを買う。
(だから絶対に、不用意にあいつらと関わろうとするな)
サカガミの奴からは、何度もそうやって注意された。
そしてもう一つ、気を付けないといけない点がある。
それは、命令を出していいのは、一人の相手につき『二回目まで』が限度ということ。
もしも、『三回目の命令』を出してしまうと、大変なことになる。
(お前にも見せてやる、『三回目を食らった奴』がどうなるのかをな)
サカガミに連れられて、町にある施設に入った。その先にいたものを目にして、しばらくは震えが止まらなくなった。
(あいつらの力を悪用しようとした奴も、ああいう目に遭わされる。そうやって『粛清』された奴らを、もう何人も見てきた)
本当に、とても怖かった。
『彼ら』の力は、あまりにも大きすぎるから。『彼ら』から敵とみなされて、攻撃しようと思われたら、絶対に逃げることもできない。わたしはなんて運が悪いんだろうと、しばらくはただ震えるしかできなかった。
でも、本当は違うのだと気づかされた。
全て、『先生』のおかげだ。
力を悪用するのは危険なこと。でも、それにはちゃんと抜け道がある。
しっかりと理由を付けることが出来れば、自由に『彼ら』の力を使うことができる。
「あなたたちは、人間の世の中を良くしたいって思ってるんでしょ? だったら、すごくいい考えがあるの」
『彼ら』のメッセンジャーに笑いかけ、一緒に来てくれるように頼む。
「この世の中を悪くしている考えというものがあるの。それは『ルッキズム』って言ってね。人の顔の綺麗とか醜いとか、そういう判断で人の価値を決めたりすることがある。そのせいで一部の人たちだけが幸せになれて、他の人が損をするようになっているの」
切々と訴えると、『彼』はしっかりと聞き入ってくれた。
「だから、それを変えたいと思う。そのために『試してみたいこと』があるの」
これが、『彼ら』の力を使うためのコツ。
大義名分があればいい。
世の中のためという、しっかりとした理由があれば。
「じゃあ、わたしについてきて」
言うと、『彼』は承諾してくれた。
いったん電車に乗って町を出て、かつての中学校に足を運ぶ。今日はまだ平日の昼なので、普通の生徒は学校に通っている。
わたしは制服姿で校舎の中に入り、川村たちのいる教室の前まで進んでいった。
『彼』は、ちゃんとついてきてくれた。
廊下の窓から空を見上げると、しっかりと彼の姿が見える。窓を開けてあげると、ゆっくりと傍まで移動してきてくれた。
教室の方へと目を戻す。開いたドアから中の様子が見え、川村たちが窓辺の方に集まっているのを見つけられる。相手もわたしを見つけたようで、こちらを指差して笑っているのがはっきりわかった。
きっと、不登校だとか馬鹿にしているんだ。
そうやって笑っていればいい。
今からとても、面白いことになるから。
「じゃあ、お願いしたいの」
傍らにいる『彼』に向けて、やるべきことを伝える。
「あそこにいる女の子。あの子は自分を美人だと思ってて、周りの人を傷つけてもいいと思っている。だからそういう悪い考え方を、あなたの力で変えて欲しい」
きょとんと、『彼』は川村の方をじっと見る。
「だからお願い。これからこの学校にいる生徒全員に、あなたの力を使って欲しい」
顔が笑ってしまわないよう、表情に気をつける。
川村の方をまっすぐ見据え、はっきりと指示を口にする。
「これから学校の全員が、『あの子の顔を醜い』と思うようにして欲しい」
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