第3話
ぬらりと湿った髪を乾かす。1日の楽しみと癒やしの入浴剤を今日は諦めてシャワーにした。
TVをつけると、なんとも仕込まれたような笑いと白い光が部屋に流れる。時間内に食材を食べる量を競うフードファイターが映る番組は、悠介のお気に入り。眼の前で凹むクッションがすこし動いてるから、興奮して、子供さながらわくわくしているのかもしれない。まだ悠介に色がついてるとき、忙しなく動くものだからテレビがなかなか見えなかったときに比べると、見やすくなったなぁなんて思う。お互い社会人になって同棲したももの、お金がなくてなにも食べれないときにせめて食品を見ようと見始めたフードファイターの番組は悠介の影響だ。
結局は余計にお腹が減っただけだけど。
悠介は喋らない。それなのに、食事はするし、排泄もする。たまに喋ることも出来るんじゃないか。と思ったこともあるが、頑なに喋ろうとはしないので、喋る気はない。排泄をするために便座をあげるのだから、物体にも触れる。本当に、見えていないだけ、悠介はそこにいる。物体に触れることが出来るのなら、ペンをもって、筆記でなにか伝えてくれればいいのに。たまにはあんたの"好き"が聞きたいよ、抱きついてよ、透明でいいから、一緒にまた遊園地に行こうよ。話そう。今言おう。
「ねぇ、」と肩をたたこうとしたら、いなかった。クッションが凹んでいない。畜生、トイレか。
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