第五十八話:王都へ

「間違いないか?」

「この期に及んでは、違いないでしょうね」


 俺たちは王都へ急ぎ戻るべく、馬を借りて走らせていた。

 俺に限っては走った方が速いが、今回はこいつらも一緒だから俺も馬だ。


「準備が速すぎる。コルニクス、君が話をしたときからこうなる様に考えていたと考えて違いないだろうね」

「まったく、あの女は無駄なところで頭がいいんですよ」


 俺は本当に“あの方”がヘエルなのか、再三の確認をしていた。

 だが、フェレスとオペリオルの意見は同じだ。

 むしろ、この状況を考えればより疑いは深まったと言う。


「トートゥム卿が簡単にやられるとは思えない。なら、トートゥム卿を従えていると考える方が自然だ」

「確かにそうだが……ああ、面倒くさい、こうなったら本人に直接問いただしてやる」


 もしもヘエルが“あの方”ならば、本当に大馬鹿野郎だ。

 何をどう拗らせたらそうなる。頭がいいくせに頭がおかしすぎるだろう。


「……わかった。なら、“あの方”がヘエルである前提で行動する」

「それで、プランはあるのかい?」


 俺は頷く。原作の知識に基づくならば、俺たちがやるべきことは明白だ。


「悪魔の力が解放された以上、俺たちが向かう王都は魔境と化している。ヘエルは自分を守らせるために、トートゥムを側においているはずだ」

「悪魔は魔境を作り出した主なのに、魔境の魔物に攻撃されるのですか?」

「違う。悪魔の力は手に入れた直後は馴染むのに時間がかかる。時間稼ぎが必要なんだ」


 トートゥムを時間稼ぎ役として使うだなんて贅沢もいいところだけどな。


「おいおい、トートゥム卿って当代最強と名高い騎士じゃないか、俺でも知ってるぜ。俺たちで勝てるのか?」

「トートゥムは俺がやる。“あの方”——ヘエルもだ」


 こいつらでは到底歯が立たないだろう。俺がやるしかない。

 俺の言葉に一行は驚いていたが、フェレスだけは想像の範疇だったのかすぐに落ち着きを取り戻した。


「なら僕たちがやるべきことは、君が力を温存してトートゥム卿と戦えるように雑魚散らしをすることだね」

「今の俺たちにできるのか? 悪魔の力って、おとぎ話のあれだろ?」

「やりましょう! それしか出来ないんですから私達!」


 俺は少しだけ驚いて、笑ってしまった。

 誰一人として、俺が負けるだなんて思っちゃいない。


 まあ、俺にはとっておきがある。一度限りの反則技がな。それを使えば、まず勝てるだろう。

 その次も、テネブライさえあれば何とかできるはずだ。

 あれの真の特性を、ヘエルは知らない。それが勝ち筋になる。


「俺たちが王都に着くまでにもう数日はかかる。流石に悪魔の力は馴染んでいるはずだ」

「うわぁ。不意打ちはできないってことですか」

「まあまあ。町の中の魔物は他の大人たちもある程度戦ってくれてるだろうし、僕たちは最短経路で突き進めばいいだけさ。そうだろう? コルニクス」


 俺は頷いてフェレスの言葉を肯定する。

 流石に王都を魔物に破壊されつくされない様に、他の連中も戦っているはずだ。

 原因の特定ももしかしたらできるかもしれない。


 だが――


「なら、俺らは待ってるだけでもよくないか? わざわざ俺たちが行く必要ある?」

「トートゥムを誰が倒せる。俺以外の奴に、あいつが負ける想像が俺にはできん」


 ―—魔境化した原因であるヘエルはトートゥムが守っている。

 ヘエルをどうにかしなければ王都の魔境化は終わらない。

 よって、トートゥムを倒さない限り自体は沈静化されない。


 せいぜい、王都の住民を逃がすのが関の山だろうな。

 魔境化した王都から魔物を逃がさない様にするのも重要だろう。

 国の上層部は原因について予想はついていそうだが、どうにかできるのとは話が別だ。


「俺が何とかする。力を貸せ。お節介を焼いたのはお前らだ」


 俺がそう言うと、途端に全員が苦笑いを浮かべた。

 変な空気になったと思い、俺が見回してやると、気まずそうにフェレスが口を開いた。


「そういう時は、頼むでいいんだよ、コルニクス」

「——頼んだ。ヘエルから悪魔の力をはく奪する、俺に力を貸してくれ」


 各々が一斉に声を上げて賛同してくれる。

 俺は少しだけ楽しくなり、笑ってしまう。

 案外こういうのも悪くないのかもしれにないな。


 俺たちは正面を向き直し、王都へ向かって全力で進み続けた。


 俺たちが王都に着いた時には、既にけが人が続出していた後だった。

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