第五十七話:悪魔の目覚め

 俺が前世の話をしている間、オペリオルやイレはしきりに話題を切りそうになったが、その都度フェレスやイミティオに止められていた。

 俺が話し終わるまで、割と静かに聞いていたのは驚きだ。絶対話が続かないと思ったのにな。


「……以上が、事のあらましだ。気になるところがあるなら、今言え。出来る限り答えてやる」


 いざ、俺が話し終えたとなると、場を支配したのは沈黙だ。

 それぞれが考えてるように見える。いや、一名完全に何も理解してない奴がいるな。まあいいか。

 まず、手を挙げたのはオペリオルだ。


「まず、僕からいいですか?」

「好きにしろ。なんだ」

「最初に言っておきますが、僕はこいつの言ってることは信憑性があると思ってます」


 最初に宣言されたことは、意外なことだった。俺は真っ先に否定してくるのがオペリオルだと予想していた。


「なぜかと言いますと、闇の魔力は魂に関係する属性だからです。まだわかってないことが多いですが、前世という魂に関することならば、可能性があります」

「お前、そんなことどこで知ったんだ?」

「お前僕の事馬鹿にしてませんか? こう見えて! 僕は名家の生まれの魔法一族の一員なのですが!」


 オペリオルが胸を張って反発してくるものだから、引いてしまった。

 忘れていた。いや、知っていたはずなんだが、これまでの行いから理解を拒否していたというべきか。

 フェレスが苦笑いしている。イレはそうだったんですねと手を打っている。


「とにかく! こいつが闇の魔力の持ち主である以上、今の話は全然あり得る話です! 僕が言いたいのはそれだけですね」

「つまり、“あの方”の予想が着けば解決する問題ってことでまとめていいんだね?」

「そうですね。そうなります」


 フェレスとオペリオルのやり取りに周りが頷いて


「なら、これまでの情報で考えてみようぜ。俺はあんまり役にたてねぇかもだが、頭数ぐらいにはなるだろ」

「私も頑張ります!」

「うん、お前らは邪魔にならない程度に頑張ろうな」


 イミティオが馬鹿二人を抑える。その調子で頑張ってくれ。

 真面目な顔をして考え込んでいるのはフェレスだ。こいつはある程度情報を持ってたから、考えるのも早いんだろうな。


「……もし、もしもの話をしていいかな」

「なんだ、フェレス」

「ここまでの情報をまとめて、一人だけ“あの方”に該当しそうな人物がいると言ったら、どうする?」


 俺は思わず立ち上がってしまった。他の連中も、一斉にフェレスの方を見る。

 “あの方”について心当たりがある? 俺があれだけ考えてもわからなかったのに、話を聞いてこんなに早くだと?


 にしては、フェレスの顔色がよろしくない。なぜだ。事の原因を突き止めて、浮かない顔になることがあるか?


「何か問題があるんですか? 私が聞いてる感じですと、その、“あの方”さんが悪者なんですよね? 倒しちゃうとまずいんですか?」

「うん。と言うか、倒せるかどうかも怪しいかな。僕も、思いついてまず自分の正気を疑ったよ」

「そんな意外なやつなのか? 俺も知ってる人物か?」


 フェレスは俺の問いに少し悩んだ様子を見せて、諦めたように笑って見せた。


「多分、この中だと、君が一番彼女をよく知っていると思うよ」


 その言葉で、俺はフェレスが誰の事を“あの方”だと言っているのかを理解した。

 俺も、一瞬だけ考えたことがある。しかし、すぐに否定した可能性。

 あり得るはずがないと、下した考えだった。


「……妥当ですね。これまでの事に、説明ができます」


 追従したのはオペリオルだ。


「待て。本気か? 本当に説明ができるか?」

「出来ます。動機が彼女にはあるのです」


 オペリオルの目は真面目そのものだ。決して冗談を言っているものではない。


「最初の魔物襲撃は」

「お前が魔境の中についてこないということで、連れてくるためですね」

「誘拐事件」

「同じです。お前に助けてもらうため、表沙汰にならない様に最初してたのは、お前が町にいなかったからですね」

「二回目の魔境探査で何もなかったのは」

「それこそ、お前が側にいるとわかってたからですよ。あいつはお前の事をとにかく意識してました」


 俺が投げかける質問に、オペリオルは何も躊躇うことなく答える。

 ……まだ信じ切れない俺は、質問を続ける。


「なら、そこまで俺にこだわるのなら、なぜ俺を遠くへ放った?」

「それは――」

「君がした約束がそうさせたんだよ、コルニクス」


 俺がした約束だと?

 焚火が一瞬大きく揺れた。


「君より強くなれば、君は彼女に従うと言ったんだろう? 悪魔の力を求めるのに、全てを知っている君が側にいたら邪魔をされるじゃないか」


 ——確かに、俺は事あるごとにそういってあしらってきた。

 昔は本気でそう思っていた。最近は慣習としてそう言ってきた。

 覚えは有り余るほどにある。


「……んで、悪いけど誰なんだ? 俺にもわかる様に言ってくれ」


 バルバが気の抜けた声で会話に入ってくる。

 普段は助かるかもしれないが、今は癪に障る。

 少しの間わかっている人物たちが沈黙し、フェレスが重い口を開いた。


「ヘエルさん。ヘエル・アストレア。僕たちが思いつく限り、彼女が“あの方”の第一候補だ」


 フェレスが明言した瞬間、空の色が変わる。

 夜の闇に染まっていた空が、不気味な深紅を滲ませていく。

 侵食するように広がっていくそれは、王都の方向の空から蝕んでいっていた。

 俺はこの光景を知っている。


「コルニクス、これは――」

「悪魔だ」


 “ナートゥーラ”のワンシーン。最後の魔境が解放される直前の、不気味なBGMと共に流れる映像でこの光景を見た。


「悪魔の力が、解放された」


 悪魔を封じていた封印が解き放たれたのだ。

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