第五十六話:原作パーティとコルニクスと

 俺は胸を突いてきたフェレスの腕をどかせなかった。

 何の害もないから? 違う、動けなかったからだ。

 俺が、気迫負けした? フェレスに?


「……俺は、路地裏の孤児だ」

「だからなんだ。僕たちは、友達じゃないか」


 気が付けば、言葉が出ていた。

 何の意味もない言葉だ。俺自身、何のために口走ったかわからない。


「お前らとは、身分が違う」

「だからなんだ。友達になるのに、身分なんて関係あるものか」

「俺は――」


 言葉が、出てこなかった。

 何をすればいいのか、頭の中がぐちゃぐちゃだ。さっぱりわからない。

 こいつらがなぜ俺にこだわるのかも、友達だと言い張るのかも、何かもわからん。

 理解できん――


「身分なんて、立場なんて、どうでもいいじゃないか。なぁ、コルニクス。僕たちの間には、そんなちっぽけな関係しかなかったのかい? 君にとって、僕たちはどうでもいい存在だったかい?」


 俺は何も理解できないままに、腰のポーチを開けて、中から小瓶を取り出していた。

 瓶の口を開け、フェレスの顎を掴む。

 フェレスは抵抗する気力も残っていないのか、目を虚ろにしてされるがままだ。

 俺は馬鹿野郎と悪態をつき、フェレスの口に小瓶の中身を注ぎ込んだ。


「うっ、げほっ、がっはっ。あつ、あっつい!」

「我慢しろ。気力だけで動きやがって、この馬鹿野郎」

「何をっ……あれ? どうして」

「竜泉水。どんな傷も消耗も癒す、万能薬だ」


 十二個しか手持ちがないのにさっそく消費してどうするんだという気もしなくもないが、話をするためには必要だろう。

 何、使うような目に遭わなければいいだけだ。持ってるだけは何の価値もない。道具は使ってこそ初めて価値が生まれる。


「フェレス、お前はこれをバルバとオペリオルに飲ませろ。俺はイミティオをイレに飲ませる」


 俺は竜泉水を二つフェレスに投げ渡し、さっさとイレとイミティオが倒れてる方へ向かう。


「コルニクスっ、僕たちは!」

「うるさい、後にしろ」


 俺はフェレスの方を一瞥だけして、すぐに顔を背けた。


「話ぐらいは、聞いてやる」

「……っ! ああ、約束だからな!」


 俺の言葉を聞くな否や、フェレスは倒れている二人の方へ駆け出した。

 現金な奴め。誰に似たんだかな。

 まあ、倒れてる連中を叩き起こすのが先決か。


 竜泉水の効果は素晴らしいものがあった。五つ消費したから、残り七つか。今数えた。

 各々は起き上がった後、勝負がどうなったのか聞いてきた。俺が話だけは聞いてやると答えると、それぞれが嬉しそうにするのだから、気まずくて仕方がない。


 空が暗くなってきているのもあって、フェレスたちは町に戻ることを提案したが、俺が断った。

 誰が聞いてるかわからないような町中で話をしたくない。込み入った話になるだろうからな。

 特に、俺が拠点にしているのは路地裏だ。“あの方”と情報が繋がる可能性があるからな。


 俺が野宿を提案しても、こいつらは嫌な顔せず二つ返事で頷いた。オペリオルが嫌がると思ったが、まんざらでもなさそうだ。


 とりあえず火をおこし、腰かけるように木を切り倒して丸太の椅子を四つ分作る。

 丸太は焚火を中心に囲むように配置した。

 俺が一人で座り、正面にフェレスが、右と左にそれぞれオペリオルとイレ、バルバとイミティオが座っている。


「さて、約束通り、話は聞いてやる」

「まず、君がいなくなった後の話をするよ」


 フェレスが口火を切ってくる。

 フェレスが言うには、俺がいなくなった後ヘエルの様子がおかしくなったらしい。

 俺がいなくなったことで気落ちしているかと思えば、そういう感じでもない。

 更に、元凶であるはずの俺がいなくなったのに、噂はなくなるどころか加速していたらしい。まるで、居もしない敵を探し続けるかのように。


 フェレスはその状況に危機感を覚えて、パーティ連中を集めて話をした。

 その結果、まずは俺を探して話を聞こうという話になったそうだ。

 現状を一番詳しく知っているであろう人物。状況から考えて、嵌められた人物。

 困っているならば助けになれればと思って、俺を追ってきたらしい。


 ……物好きどもめ。


「コルニクス。君は、知ってるんじゃないか?」

「そうだな。知っている。知っている、が」

「が?」

「説明するのが難しい」


 オペリオルがこけた。元気な奴だ。

 さて、どうしたものか。こいつらにも前世の話をするかどうか。

 説明するとなると、しないと不自然な点が残る。


「……荒唐無稽な話になるぞ」

「それは、“あの方”の正体に関わる話かい?」

「そうなるな」


 “あの方”とは何だとフェレス以外が騒ぎだすが、説明はフェレスに任せて俺は考える。

 ——話すか。ヘエルにも話したんだ。

 ここまでの覚悟を決めてきたんだ。笑われたら、話をそこで終わりにすればいい。


「あー、信じられないと思うならそこで話を――」

「信じるさ」


 俺の言葉を遮るように、フェレスが口を挟んでくる。


「ここまで来て信じないなんて選択肢はねぇよなぁ!」

「まあ、お前はいつも非常識でしたからね。非常識さの理由があるなら知りたいですね」

「コルニクスさん、嘘つくんですか?」

「嘘みたいに聞こえるが信じてくれって言ってるんだよこいつは」


 追従するように、各々が口を開く。

 こいつらは……。

 思わず口を歪めて笑ってしまう。そして笑ったら笑ったで、笑っただのなんだの騒ぎ始めるんだから始末に負えない。


「俺は、前世の記憶がある」


 だから、この一言で黙らせることにした。

 信じられないような、荒唐無稽な話を始めるために。

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