第五十九話:王都外縁にて
数日の旅の果て、俺たちは王都まで戻ってきた。
王都の空は深紅に染まり、禍々しい雲に覆われている。
王都の外壁の外には、テントが幾つも建てられており、仮設の町が出来上がっていた。
予想通りと言えば予想通りだが、王都は完全に兵士たちによって包囲され、魔物が出てこない様に出入口となる場所は徹底的に見張られているようだ。
「どうやって王都に入る?」
「正面突破と言いたいところだが、心当たりがある。学園長を探すぞ」
「学園長を?」
俺の予想が正しければ、あいつなら俺らを王都内に入れてくれるはずだろう。
あいつを頼るのは非常に気分が悪いし、言葉を交わしたくもないが、今となってはあいつの言っていることが理解ができる。
あいつは、ヘエルが事態の裏側にいたことを知っていた。間違いなく。じゃなきゃ俺にあんなことを言いには来ないはずだ。
「学園関係者が固まってる一角があるはずだ。探すぞ」
「わかった。君に従うよ」
俺たちは馬を外縁部に放して、テントを回って学園関係者の場所を探す。
大半は避難してきた住民だったから、もっと王都の門に近いところにあるのだろうと目星をつける。
兵士たちに途中見咎められるが、事情を説明して学園関係者だと明かすと、あっさりと学園関係者が集まっている場所を教えてくれた。
フェレスたちはどうやら魔境探査の名目で王都を抜け出していたらしい。その報告をしたいというのだから、まあうまくかみ合ったものだ。
「学園長はどこだ」
「君は――っ! 今更何の用だ、お前のようなものの出る幕ではない!」
「やかましい。お前には話しかけていない。学園長を出せ、話があるのはあいつだ」
フェレスたちは教師に向かって無法を働く俺を咎めようとするが、知ったことか。こっちは急いでるんだ、何も知らん間抜けの相手をしている余裕はない。
俺が相手にもしようとしなかった奴が顔を赤くして反発してきたものだから、俺は掴みかかってきた腕を掴んでそのままひっくり返してやる。
実力の差をわきまえろ雑魚が。
「コルニクス、流石にそれは――」
「賑やかですね。お帰りなさい、子供たち」
「学園長先生!?」
騒ぎを聞きつけてか、テントの向こう側から学園長がやってきた。
「学園長、こいつらは――」
「私のお客様が失礼しました。どうか、矛を収めてはくれませんかね」
ひっくり返ったやつが何かを言おうとするが、学園長がすぐに制する。
目を見て確信した。こいつ、やはり全部知っているな? そのうえで俺たちが来るのを待っていやがった。
「私に話があるのでしょう? 奥で伺います」
「ああ、いいか、お前たち」
俺は念のため背後のフェレスたちに確認を取るが、こいつらは委縮してしまっていた恐る恐る頷くだけだった。
なんでこいつらこんなにかしこまってるんだ。
ああ、自分が所属しているグループのトップを相手にしてるからか。なら仕方がないな。
「単純に話を聞くだけだ。そんな緊張するな。喧嘩するわけじゃないんだ」
「だからと言って、ああそっか、学園長先生がどれだけ凄い人か君は知らないのか……」
「ふふふ。所詮は過去の事ですよ。今を生きる君たちには勝てません」
なんだ、凄い奴だったのかこいつ。雰囲気ばかりで変なこと言う爺だと思ってたぞ。
「それよりも、人に聞かせられない話なのでしょう? わざわざ私を探しに来たということは。どうぞ、こちらのテントは防音仕様で、外には声が聞こえない様になってます」
「まさか、学園長。こいつを中に入れるのですか?」
「私が呼んでたんですよ、実は。これは秘密の事なのですがね」
そう言って、爺は文句を言っていた教員を黙らせた。
俺は呆けている背後の連中をひっぱたき、爺が案内するテントの中に放りこむ。
「で、だ。爺、お前はどこまで知っている?」
「はて、何のことでしょう?」
「とぼけるな。お前はヘエルが――」
俺が切り出そうとすると、口をふさぐように爺が俺の口の前に指を差し出して言葉を封じた。
俺が怯んで喋るのをやめたのを確認すると、満足げに話し始める。
「いくら防音と言えど、そういう話を外でするのは感心できませんね」
「……なら、単刀直入に言う。俺たちを王都内に入れろ。あいつを連れ戻す」
「そのぐらいでしたら、何とかなるでしょう」
爺は地図を取り出し、俺たちのいる場所を指示した後すぐ近くの門を指し示す。
「すぐそばの門、そこ担当の兵士たちには私が言伝してあります。貴方たちが行けば、中に入れてくれることでしょう」
「わかった」
俺は場所を確認だけすると、再び学園長爺の方を向いた。
「ところで、お前はなぜ止めなかった?」
「大人と言うのは、子供に未来を見るものなのですよ。勝手に期待を乗せて、出来なかったら責任を取るのが大人の務めです」
またわけのわからないことを言いだした。
こいつは困ったらいつもこれだな。ヘエルの事を知りながら放置していたことと言い、こいつ告発したら兵士に捕まるんじゃないか?
まあいい。こいつにそんな時間をかけるつもりもない。
さっさと王都に入り込み、あの馬鹿野郎をぶっ飛ばす。その方が大事だ。
こいつを問い詰めるのはそのあとでもいくらでもできる。
「——わかった。じゃあ俺たちは行くぞ」
「ええ、ご武運をお祈りいたします」
「はっ。自分は見逃しておいてよくいうな」
俺と学園長爺の会話はフェレスたちにはさっぱりだったのか、俺が行くぞと合図をするまで固まってやがった。
ぼーっとして休みは取れたか? 楽しい楽しい魔境探査の時間だ。
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