第五十四話:原作パーティと原作ラスボスと
あれこれ時間はかかったが、竜泉水も無事に手に入れた。
魔剣さえあれば、きちんと魔物に刃が通るのならば、結局魔物程度は俺の敵ではない。
一ダースとかいうよくわからん単位で竜泉水を保存するための小瓶を買わされたのは不服だが、まあ多めに見てやろう。全部に詰めれば十分な数になるだろう。
ただ、魔境探査に時間はかけてしまった。一週間以上は魔境に潜っていたか。
“あの方”が悪魔の力を求めているのなら、早く戻った方がいいというのに時間を取られてしまった。
「竜泉水は手に入れた、魔剣もある。そこそこいい剣もな。後は、俺が戻るために必要なのは証拠だけだ」
大まかな準備は整った。後は一旦爺のところに戻って、路地裏で情報を集めさせるだけだ。
凱旋の時は近い。待っていろ。
一旦爺のところに戻ろうと、竜泉水を手に入れるために拠点にしていた町を出る。
そういえば、ここまで時間が経っても俺が探されるような情報は町々に出ていなかったな。
“あの方”は俺を追い出せれば十分だったってか? 舐められた話だ。鼻っ面明かしてやる。
「——で、だ。お前らは何しに来た」
「探したよコルニクス」
町を出た俺を待ち受けていたのは、フェレスたちだった。
フェレス、バルバ、オペリオル、イレ、イミティオ。ヘエルはいないが、原作パーティの面子が町から少し離れた道で、俺を待ち伏せていた。
いずれも戦闘準備を整えきって、完全に身構えている。
合わせて、俺も剣を手に取る。
「君を連れ戻しに来た」
「俺を? 冗談だろ。あと、どうやって俺の居場所を掴んだ」
「『コインの裏が二回、表が出ないイカサマコイン。娑婆の値段は銅貨三枚』、だろ?」
「ちっ、爺か。気を利かせろよなあの野郎……」
フェレスは以前、俺が爺との符号を聞かせてしまっていた。
王都から逃亡した後の俺は、基本的に爺の関連のところに身を置いていたから、俺の動きは筒抜けだったってわけだ。
だが、俺は行動が早く次から次へと町を移動していた。捕まらなかったところで、一週間も足止めをくらったから追いつかれたと言ったところか。
不愉快だな。一体、何をしに来たって言うんだ。
「コルニクス、あなたが何をしたのか僕は知りませんが、見損なうような人物だとは思ってませんよ!」
「俺は馬鹿だから細かいことわかんねぇが、あんたには世話になったんだ。一緒に謝ってやるから、帰ろうぜ」
「俺も、世話になった。謝ることぐらいなら魔力がなくたってできる」
「帰りましょう! コルニクスさん!」
各々が言いたい放題の言葉を投げかけてくる。
俺は思わず歯ぎしりをしてしまう。好き勝手言いやがって。
お前らは何も知らないから気楽なんだろうがな。こちとらいいようにやられて腹立ってるんだ。
「で、なんだ、お前らに何ができる」
「……なんだって?」
「俺がはいそうですかと戻るとでも思ったか? お前らは何もわかっちゃいない」
俺は剣を引き抜き、自然体に構える。
「お前らは力ずくにでも連れ戻すつもりだったのかもしれんがな、ふざけてないか? お前らに戦い方を教えてやったのは、誰だと思っている? あまり思い上がるなよ」
一度、本気の殺気をフェレスたちに放つ。
一瞬立ちすくんだようにオペリオルが倒れかけたが、イミティオに支えられて立ちなおした。
フェレスバルバイレの三人は顔色を青くしつつも、獲物を構えた。
「コルニクス、話を聞いてくれるつもりは、ないかな?」
「ないな。お前らは何も理解していない。何が起こっているのかも、俺が何をしようとしているのかも、だ」
何もわかってない連中が、これ幸いとしゃしゃり出てくる。これが不快でなくて何だというのか。
フェレスはわかってたと言わんばかりに、無理をした様子で口を歪ませて笑った。
合わせて、他の連中も笑う。
「話は終わりか。なら、どけ。怪我したくなければな」
「君が言ったんじゃないか。力ずくで、だって」
一斉に獲物を構え始める。
こいつら、本気か? 相手との実力差がわからないほど弱かったのか?
「勝てない相手に挑むことは無謀と言うんだ。教えてなかったか?」
「そうかい? 僕たちは、これを勇気と呼ぶんだ。知らなかったかな?」
フェレスは無理して笑っているが、俺の殺気に怯えているのはまるわかりだ。
いや、こうして鼓舞しなければ立っていられないからこそなのか。
なぜ、そこまでする? 俺にはわからん。
「最終通告だ。どけ。さもなくば、実力で排除する」
「上等だ! 君こそ、君が育てた僕たちを見くびりすぎだ! みんな、やるよ!」
「「「「おう!」」」」
何の益もない戦闘が、唐突に始まった。
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