第五十三話:鍛冶屋へ
最強に戻った俺に死角はない。
まずは、魔剣を手に入れるべく、心当たりがある場所までやってきた。
レーケントゥスと言う山岳部に位置する町だ。この町に、魔剣をくれる奴がいる。
正確には、魔剣を作れる奴、だな。そいつに魔剣を作ってもらう。
「おいゴラァ! 炉の火を絶やすなっつっただろうがボケナスどもが!」
「でもよぉ親方! あいつが坑道に住み着いてから、打つもんがねぇぜ」
「うるせぇ天と地がひっくり返ろうがお天道様が落ちてこようが火を絶やすな! 炉の火は俺らの魂の火だ、炉の火が消えた時俺らも死ぬと思え馬鹿野郎どもが!」
建物の外にいても聞こえるぐらいやかましい声が周囲に響き渡っている。
ここら辺は原作通りだな。本来はフェレスたちが解決して、魔剣を貰うイベントなんだが、少し借りさせてもらおう。
「邪魔するぞ」
「邪魔すんなら帰れやボケナス」
「本当に口が悪いな耄碌爺」
「誰が耄碌してるってぇえ!? こちとらまだまだ現役じゃガキが」
建物の入り口から入ると、目的の人物は必死に炉に火をくべていた。
剣匠ファベル。この世界で数少ない魔剣を打つことができる鍛冶師だ。
ちっこい爺だなと思っていたが、思ったよりも小さいな。あと口が悪い。
ゲーム中盤に終盤まで使える主力武器となる魔剣を貰えるイベントと言う事で、こいつにはお世話になったプレイヤーが多い。通称ツンデレ爺。
感謝自体はするんだけどな。態度に表すのが嫌だとか言う謎の頑固さ。そのくせ、またこいだとかなんだとか言ってくる。中途半端にツンデレ完成度が高いだの言われてたんだったか。
再度訪れるときちんとイベントがあって、笑顔で暴言はなってくるから中途半端に人気があった。何なんだろうなナートゥーラのサブキャラ連中は。謎に濃い。
「お前がファベルだな?」
「ああぁん? なんだ若造」
「魔剣を作れ。俺は魔剣が欲しい」
俺の歯に衣着せぬ物言いにファベルは不機嫌そうに眉を動かしたが、忌まわしそうに炉の方を見て、大きな舌打ちを一つ。それだけだった。
原作通りだな。
「しち面倒くさいやり取りは好かないからな、直球に言わせてもらう。魔剣を作れ、代わりに坑道に救ってる魔物を殺してやる」
「……ほう? 吠えるじゃねぇか小僧。吐いた唾に命は賭けられるか?」
「俺は最強になる男だ。この程度どうということはない」
俺とファベルの視線がかち合い火花を散らす。
いい眼光してるな爺。まだ目が死んでないのは上等だ。
「たかがでかいミミズ相手に手間取ってるなんて、笑い話にしてやるよ」
「へぇ、いい気合じゃねぇか。うちの馬鹿どもにも見習わせたい啖呵だぜ」
こいつとのコミュニケーションは引かないことが重要だ。
引いたら負けだ。正面から戦って勝ってやる。
ファベルは俺が視線を逸らさないのを確認すると、突如笑顔になり俺の背中を叩いてくる。
この背中を叩くコミュニケーションは何なんだ。バルバもそうだったが。
「上等じゃねぇか気に入ったぞ! いくらでも必要なら俺の武器もっていきやがれ!」
「ああ、幾らでも武器作らせてやるから覚悟しておけ」
ひとまず、話はうまくまとめられたな。
あとは敵を倒すだけだが、これは本当に物の数に入らん。
所詮はゲーム中盤のイベントだからな。俺の相手じゃない。
流石に“あの方”も関わっていないだろう。関わっていたら何が起こるかわからんが。
「おい、お前ら聞いたろ! 炉の温度上げろ、準備すっぞ!」
ファベルの号令に合わせて、工房が湧きたつ。
現金なやつらだ。嫌いじゃないけどな、わかりやすくて。
「おい、なんか必要な武器あるか小僧」
「いらんな。しいて言えば、今の武器ぶっ壊してミミズぶち殺して速攻で帰ってくるから、新しい普通の剣を用意しておいてくれ」
「バッカ野郎、うちに普通の剣なんてねぇ! うちにあるのはどれも最上級の特上もんよ!」
「魔剣じゃない剣を用意しろっつてんだよ、誰も質の話なんざしてねぇ馬鹿爺」
「ならそうと言いやがれ歯ぁ生えそろってねぇのか口ったらず小僧」
マジでくだらないやり取りだ。
だが言われたままは腹が立つので言い返す。
言い争いをしていてもいいが、別にそれは本題じゃないことを思い出す。
少しだけ楽しくなっていた? まさか。
「さっさと殺して帰ってきてやる。盛大に出迎える準備だけしておけよ」
「あたぼうよ! てめぇこそ命惜しさに逃げ出してきたら笑ってやるから覚悟しておけよな!」
親指を立てて、返事とする。
工房を後にして、俺は坑道へと向かう。
さっさと終わらせるとしよう。こんなどうでもいいもんに時間をかけていられるか。
俺はさっさと“あの方”に目にもの見せてやりたいんだ。
因みに、坑道に巣くっていたでかいミミズだが、マジで大したことなかった。原作でもベヘモトよりも弱い敵だったんだから当然だな。俺の敵じゃない。
今のフェレスたちなら、まあ苦戦するけれど倒せる程度の敵だった。あいつらもだいぶ強くはなってるからな。
少しだけ獲物を奪ったことを悪く思うが、全部終わったら案内してやるから許してくれよな。
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