第五十一話:ヘエルの悪徳
やってしまいました。
ああ、やってしまったんです。
ついに、私はコルニクスを自らの手で野に放ってしまいました。
背徳感で頭がおかしくなりそう。高揚感で思考が乱されてしまう。
自分で行っておきながら、いざとなると寂しいものです。やはり、私には彼が必要なんだと実感させられます。
彼の空白が、私をどうしようもなく狂わせる。
でも、必要なことでした。私が目的を達成するためには。
コルニクスは優しすぎるくらいいい人ですが、勘は働きます。きっと、路地裏の頃の経験で培われたのでしょうね。
これから私がしようとしていることに気づかれて、止められてしまってはいけません。
私を止められる唯一の人。だから、惜しくても一度離れる必要がありました。
悪魔の力なんて、私は知りませんでした。私の目的は、コルニクスを手に入れる事であって、他の事はどうでもよかったのです。
ですが、おとぎ話と同じならば、悪魔の力さえあれば私であってもコルニクスを超えられるはずです。
私がコルニクスよりも強くなる。諦めかけていた現実が、達成できるとそそのかされてしまった。
コルニクスが悪いんですよ。あんな純粋な目をして、私を心配してくれて。
何も知らないまま、悪い女に騙されて。まんまと思った通りに動いてしまって。
路地裏で情報収集を許していたのも、学園生徒たちに目撃させる機会を増やすため。
ある程度疑念を広められれば、後は少し背を押してあげるだけで噂と言うのは簡単に転がります。
少しだけ。そう、私が大まかな部分は否定しつつ、否定しきれないさまを見せてあげれば。
極めつけは、わざと人目につくように路地裏に入っていくところを見せたこと。
さらにさらに、入っていった路地裏から姿を隠した人物が飛び出してきたら、何事かと思いますよね?
はい、見せつけました。仕掛けは十分発揮してくれました。
コルニクスは私が“あの方”だと知ったら、どんな顔をするでしょうか。
怒るでしょうか、失望するでしょうか。ああ、楽しみですね。
最初の事件はコルニクスに助けてもらうために起こしました。誘拐事件もそう。
コルニクスが帰ってくるまでは誘拐事件だとわからない様に隠ぺいしてたのですが、いきなり助けに来てくれたときは大変驚きました。
仕組んでないのに、知ったように来てくれたのですから。
その後のコルニクスの告白にも大変驚かされました。
あの告白を聞かされたときは、もしかして私がしていたこと全部バレたかと思って、焦りましたよ。
実際には“あの方”と呼ばれている人物がいるぐらいまでしか捉えられてなかったみたいですけれども。
しかし、前世なんて物がこの世には存在するのですね。
魂があるのですから、不思議ではないですけれども。
コルニクスが話してくれた内容は衝撃的でしたけれども、私にとっては有益な情報ばかりでした。
おかげであの夢の内容にも納得がいきました。私は悪魔に選ばれていたのですね。
聞こえてくる声も悪魔の声。ならば、もう声を無視することもしなくて良いでしょう。
悪魔の力の場所もわかった。封印の解き方も分かった。
あとは細かい場所までは聞くと疑われそうだったので聞けませんでしたが、まあそこら辺はコルニクスがいない間にじっくり探すとしましょう。
楽しみは少しでも残ってる方がいいですからね。
コルニクスはこの先何をするでしょうか。戻ってくるでしょうか。
すぐすぐは戻ってこれないでしょう。彼は賢い人ですから、戻ってきても何もできないと理解しているはずです。
楽しみですね。次合うときはもっと強くなっているでしょうか。
ああ、声を受け入れてから世界が輝いて見えます。
どうして私は悪魔の声を拒否し続けていたのでしょうか。
こんなにも素晴らしい気持ちになれるのに。
何はともあれ、ここまでくれば私を妨げるものは何もありません。
あとはじっくりと、人を使ってコルニクスの行方も追いつつ悪魔の力を手に入れるために尽力しましょう。
私は悪魔の力を手に入れる。そして、コルニクスを超え、コルニクスを手に入れる。
ハッピーエンドはもうすぐです。
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