第四十八話:確かな異変
最近、学園内を歩いているとこちらを見て何か生徒たちが話しているのを目にする。
俺がそちらへ視線を向けると、すぐに視線を逸らされる。
なんだ、陰口でも叩かれてるのかと思ったが、視線がそういう好奇の視線ではない。腫れ物に触るような、恐れを含んでいるものだ。
奇妙だなと思いつつも、俺が話しかけようとすると逃げられるんだから性質が悪い。
「どうかしました? 不機嫌そうですけれども」
「いや、な。ちょっとな」
「?」
ヘエルは特に何も変わらない様子だ。だからわからん。
俺関係の話ならヘエルに伝わってないはずはないし、杞憂ならいいんだが……
「そういえば、結局トートゥムに来てもらう事にはなりました」
「マジか。まあ、それがいいだろうな。お前を守る奴は多い方がいい」
「しばらくは来れないみたいですけれども。一通りやることをやったら来てくれるそうです」
トートゥムさえ到着すれば、俺がもっと自由に動ける。
原作に関係している魔境を片っ端から見て回ることも可能になるだろう。
欲しいものリストを回収しに行くのもいいな。
「トートゥムが来たら俺はもうちょい“あの方”の後を追って魔境に潜るぞ」
「やめてください。と、言いたいところですが、そうも言ってられないですよね」
「そうだ。ようやくわかってくれたか」
お前のためなんだからな、これは。大人しく受け入れろ。
俺が最強ならば、一人で全て何とかできたかもしれないが、今はまだそこまでの力はない。
もちろん、遠くないうちに何とかできるだけの強さを手に入れる予定ではあるが。
おそらく今俺がトートゥムと戦っても、正面からだといいところ四対六、実際には三対七ぐらいだろうな。分が悪い。
テネブライがあれば絶対に勝つが、それでは何も面白くない。
一回限りの初見殺しもある。だからと言って、使う気はないが。だまし討ちで勝っても嬉しくはない。
やはり、魔境に潜らないといけない。装備の面でも、強さの面でもだ。
正直俺が魔境に潜ってる間、ヘエルたちも魔境に潜らせたいんだけどな。外に出していいものか……
俺がいないところで路地裏連中と食い合ってしまうのが困る。
フェレスたちを信じるべきか……?
「やっぱり、最近ずっと難しい顔してますよ」
「む。いや、でもな」
「でも、じゃありません」
ヘエルが正面に回り込んできたと思ったら、トンと指先で俺の眉間を突いてきた。
眉間にしわでも寄せてしまってたのだろうか。
「コルニクスの事情は分かりました。それはそれとして、心配事ばかりしていても何にもなりませんよ」
「そうかもしれんが……」
「ですから、今日は気分転換をしましょう!」
誰のせいだと思ってるんだ誰のせいだと。
こいつに言っても仕方がないか。
「隙あらばだな。何をさせるつもりだ?」
「嫌ですね、そんな普通に邪険にしないでくださいよ。日々頑張ってくれているコルニクスへのご褒美なんですから」
「褒美なら折れない剣でもくれ。適当な魔剣でいいぞ」
「風情がない、風情がありませんよコルニクス! 女の子のお誘いを断るなんて紳士としてあるまじき行為です!」
なんなんだその決めつけは。
あと俺は別に紳士を名乗ったことはない。言いがかりはやめろ。
「で、息抜きって何をさせるつもりだ?」
「今日は私とデートしましょう!」
「却下」
「なんで!」
「そんなことしている場合じゃないからだ。危機感を持て」
“あの方”があれこれ画策しているかもしれないのに、呑気に遊んでいられるか。
向こうの動きはないと言うが、そういうときほど備えるべきだ。
何が起こってもいいように、何が来ても跳ね除けられるように鍛えるとかな。
断じて遊ぶための時間ではない。
「大丈夫ですよ。何もしてきませんって」
ヘエルは俺の心配を見通したように言う。
笑って見せる姿は、本当に何も心配していない人のそれだ。
「それに、私とコルニクスの二人が一緒に町に出れば、向こうも何か動くかもしれないじゃないですか。動きをつかめれば、“あの方”が誰なのか判明させられるかもしれませんよ?」
「囮捜査と言ったところか」
「そうですそうです。ですので、行きましょう」
俺に手を差し伸べるヘエルの顔は、いたずらが成功した子供みたいに無邪気な笑みだった。
緊張感がない奴だと怒ればいいのか、笑えばいいのか。もうよくわからなくなってきたな。
「……今日だけだぞ。俺が付き合うのは、トートゥムが到着するまでだ」
「はい! では、行きましょう!」
なんでこいつはこんなに嬉しそうなんだろうな。
そういえば、俺たちが二人で町に出るのはこれが初めてか?
それぞれ別々に町に出ていたことはあったが、二人きりで出たことはなかったな。
まあいいか。この子守も、もう少しの辛抱だ。
トートゥムが来たらこんな細かいことからは解放される。
やれやれ、あいつらが手から離れて自由になったと思ったんだけどな。
もう少し好き勝手出来るまでは時間がかかりそうだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます