第四十七話:食い違い
考えてもわからんものはわからん。
と、いう事で行動に移すことにした。
「あいつらに関して、何か情報は来てないか」
「連日ご苦労様だが、今日も来てねぇよ」
俺は再び路地裏に来ていた。ここ数日は余裕な時間を見つけては路地裏に入り込むようにしている。
ヘエルはもう今後は行動に気を付けるという話になったから、俺が自由に動けるターンだ。やはり話して正解だったな。動きやすさが段違いだ。
何ならトートゥムを追加の護衛として呼び寄せる話すら上がっている。危機意識高まりすぎか? いいことだ。
路地裏の中の事情は、外よりも中からの方がわかりやすい。と、いう事で俺が情報を求めるならば必然的に情報源は限られてしまう。
あいつらの本拠地に乗り込んでいって、実際に脅迫してもいいっちゃいいんだが。何も問題を起こしていないのにボコりに行くのは、それはそれで別の問題が起きそうで避けている。
「しいて言うならば、何も言えることがないのが情報だな」
「最近は何もしてないってことか。不気味だな……」
何もないのはいいことなのだが、同時に面倒だ。
わかりやすいことをしてくれれば叩いて終わりなのにな。出てくれなければ杭は打てない。
「引き続きあいつらの様子をよく見ておいてくれ。何かあったら情報を頼む」
「あいよ。爺のお得意さんみたいだからな、要望にはなるべく応えるさ」
とりあえずいつもの謝礼だけ払って、俺は路地裏を後にする。
何度か視線を感じるが、いつもの事だと放置する。
路地裏から出てくる瞬間はなるべく見られないようにはしているが、どうしても人の目には着いてしまう。最小限にはとどめているがな。
「困ったな。どうしたものか」
手詰まりと言ってもいい。情報は手に入り、“あの方”の候補もかなり絞られた。
そのうえで、今すぐに取れる手が何一つとしてない。
またか。また相手のアクション待ちになるのか。
いいや、今度こそ先手を取ると決めた以上、後手に回るのは気に食わない。
「先の展開を考えろ。これから先、原作ではどうなる」
原作の展開を踏襲するのであれば、誘拐事件が起きるのはかなり終盤に近い。
既に原作の俺は悪魔の力の場所を把握しているし、学校内の情報も集めてどのあたりに封印されているのか目星をつけているからだ。
「誘拐事件でヘエルを捕らえたが、救出には成功した」
ならば、もう一度ヘエルを狙ってくるか? いいや、それは違うだろう。最初からヘエルを狙うならば、わざわざ一度攫って危険意識を高めさせる必要性がない。
攫うことが狙いだったと考えれば、学園内の混乱が狙いか?
ヘエルも言っていたな。学園を混乱させて内情を調査するのが外部からの干渉をする場合重要だと。それが狙いだとするとどうだ。
……しっくりこないな。
マジで攫いたかったから攫ったぐらいの気持ちの方がわかる気がする。
てか順番がおかしいな。
いると思った魔境では路地裏の連中と出会わなかったし、こうなったら原作の展開無視で考えるか? いや、でも流れは同じはずなんだよな。
固定観念を捨てるべきか、捨てざるべきかで迷う。
俺は先入観に囚われすぎている気もするんだよな。決定的な何かを見落としている気がする。
「……“あの方”を過大評価しすぎているのか?」
ふと湧き出た疑問。
もしかしたら俺が思っているよりも“あの方”は頭が良くない可能性がある。
なんつーか、ちぐはぐなんだよな。行き当たりばったり感がある。
原作知識がないことも確定したし、本格的に何がしたいのかよくわからなくなった。
悪魔の声を聞いているのは確かなはずなんだけどな……
悪魔の知識を求めてるわけでもない、魔境に潜っているわけでもない。何がしたいんだ本当に。
本当に何がしたいんだ?
悪魔は自分の封印を解かせることを目的に、声を聞かせている人物を動かすのは確定情報だ。
なんてたって真実の図書館の本にそう記されていた。なら事実として認めていいだろう。
本の記述で一つ気が付いた。
悪魔は宿主の欲望を増幅されるとも書いてあったな。
もしかして、そっちだったのか?
これまでのちぐはぐな行動が、全て“あの方”の欲望を満たすためのものだったとする。
そうすると誰が浮かんでくる? 間違いなく、俺らに近しい人物になるはずだ。
——二回目の魔界実習で何も起きなかったのは、その回では望みが叶っていたからか?
新しい切り口としては非常にいいところをついていると思う。
この時点では何も思いつかないが、きっと“あの方”にたどり着くきっかけになってくれるはずだ。
「ははっ。まさかな」
一つ浮かんだ考えを、馬鹿馬鹿しいと消し飛ばす。
これまで考えていたことを全てひっくり返すような思い付きだ。大してあてにならん。
何も手掛かりは得られなかったが、真実に近づくきっかけを胸に、俺は学園に戻ることにした。
この話をまたヘエルにしてみよう。あいつならば、もう少し詳しく具体的な形にしてくれるかもしれん。
考え事に熱中しすぎて、俺は背中に突き刺さっている視線に気が付かないでいた。
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