第四十六話:今後の方針
昨日はそれでお開きになった。夜遅くなったし、ヘエルも俺が言ったことを理解する時間が欲しいと言っていたからな。
今日は校舎裏で再び二人で話をしている。
「それでは、コルニクスは今後“あの方”を追うんですか?」
「そのつもりだ。俺は勝つが、悪魔の力を知らん奴に手に入れられても困るからな」
「なら、その方針を考えないとですね。むやみやたらに追っても逃げられるだけでしょうし」
考える頭が一つから二つになったというだけで大きな進歩か。
特に、ヘエルは時折賢くなるからな。俺は学がないし考えるのはそこまで得意じゃない。
殴ったり蹴ったりの方がよっぽど楽だし好きだ。
「……昨日あれから考えてみました。教えてもらった情報と、これまでの状況を考えるに、“あの方”は学園生徒の可能性があると私は思っています」
「——なんだと?」
学園生徒だと? 一体どんな考えでそうなるんだ。
「まず、学園外に対して“あの方”が働きかけていないのが不可思議です」
「それは……悪魔の力を求めているからじゃないのか?」
俺の疑問にヘエルは首を横に振る。
「悪魔の力を求めるだけならば、私なら対外的に働きかけて外で騒ぎを起こします」
「なんでだ?」
「学園の外に意識を向けた方が、内部への浸透がしやすいからです」
ヘエルは言葉を続ける。
「完全に外部の人間の犯行だとすると、まず学園内部に侵入あるいは手勢を送り込む必要があります。そのためには、外部に一旦内部の人間の意識を向けさせた方が効率的です」
「……つまり、学園生徒だと思う理由ってのは、既に学園内部に手を伸ばせているって考えの元の結論か?」
ヘエルは俺の言葉に神妙な顔をして頷いた。
その発想はなかった。確かに、外から学園内に手を伸ばすなら外に意識を向けさせた方がいい。学園関係ばかりのイベントが起きているのは不自然だ。
「学園教師ではなく生徒だって言う理由はなんだ」
「教師の方だと、やっていることが不自然だからです」
曰く、最初のイベントからその考えに至れるとのこと。
最初のイベントはそもそも教師が関われる余地が少ない。それに、教師だと生徒を襲わせることは何もメリットにならない。生徒ならばどうか、自分たちを襲わせることで、犯人だという視線を自分たちから逸らすことができる。いわば印象付けだ。
「“あの方”が教師の方であれば、わざわざ生徒全員を巻き込む必要がないのです」
「……そうか、教師ならあんな大規模なことをする必要がない」
“あの方”が悪魔の力を求めるということは、ヘエルたちと関りを持ってもおかしくない状況にあればいい。死人が出かねないような大規模な事件はむしろリスクだ。
加えて、教師があの件を起こしたとすれば、助けに入るなりなんなりしなければ意味がない。
結果的には俺が助ける形になったが、別に妨害も何もなかった。教師が“あの方”だと仮定すると、まるで想定されていた通りのようにスムーズに俺が助けに入れたのはおかしい。
「生徒ならば、私達と関わりを持ちつつ事件との関係性も隠ぺいできます。リスクはありますが、考えられる中では一番自然です」
ヘエルの主張は筋が通っているように思える。
なら、路地裏に学園生徒が入っていったという話は、その生徒こそ“あの方”だったのかもしれないな。捕まえられなかったのが悔やまれる。
「路地裏の連中は、“あの方”は人の事を人と思わない冷徹な目をしていると言っていた。そんな目をしている生徒に心当たりはあるか?」
「……いいえ、私にはありません」
流石にヘエルもこれには首を横に振る。
まあ、ここで当てはまるような人間がいたら終わりだからな。そうは上手く行かないか。
だとしても、だ。かなり候補は絞られた。俺一人だと考え着かなかった思想から、ここまで候補を絞り込めるとは思わなかった。
「後は、悪魔の力の権利を持つものが声を聞いているって部分だな。悪魔の声を聞いている人物を特定できればいいんだけどな……」
「それは、難しいですね。他人にも聞こえるようなものではないのでしょう?」
「だと思う。じゃなきゃ、権利を持つものにって限定した記述はされないはずだ」
手当たり次第から候補が絞れただけましに思うか。
いや、こうなるとヘエルに打ち明けたのは正解だったな。なんだかんだ頭が回る奴だこいつは。馬鹿にして悪かった。
「誘拐事件についてはどう思う?」
「それについては何とも……。私にはわかりません」
「そうか。こっちにも何か規則性とかあればよかったんだがなぁ」
男の生徒も女の生徒も手当たり次第に攫われていた。攫われた生徒に規則性があるかと言われると、これがまた見つからない。
一年生中心に攫われてたのはあったが、他の学年の生徒も何名か攫われていた。
結局、原作通りのイベントは起こったが犯人の目的などはわからずじまいだ。
「案外、前にヘエルが言ってたことが正解なのかもな」
「私なんて言いましたっけ?」
「『攫うことに意味があったんじゃないか』って話だよ。忘れたのか?」
俺がそう指摘してやると、ヘエルは少し困ったような曖昧な笑みを浮かべて、忘れてましたと言った。
そんな前の事じゃないんだけどな。まあどうでもいいような内容の会話だったから忘れててもおかしくはないか。
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