第四十一話:誘拐事件
悪魔についての情報は手に入れた。俺が知っていることも、知らなかったことも含めて丸ごとだ。
あとは、この情報を元に“あの方”を捕まえるまで。残念ながら、その導線はかなり細い。
有益な情報としては、悪魔の声が聞こえている人間を探すこと。それと、悪魔に魅入られた人間は同じ夢を見続けるという事だった。
どちらも人を探すにはかなり不確定な情報だ。
「見つけ出さないと、ヘエルに何かあったら大事だからな」
“あの方”が悪魔の声を聴いている人間だと仮定すると、狙われるのはヘエルだ。悪魔の封印は基本の四属性で構成されており、封印を破るためには光か闇の魔力が必要になる。
「資格だか権利だかも気になるが、重要なのはそこじゃないからな」
重要なのは、“あの方”を見つけ出すことだ。同時に、ヘエルを守ること。
この二つを平行して進められれば、悪魔の力は封印されたままなはずだ。悪魔の力が解放されると王都自体が魔境と化すからな、絶対に阻止しないといけない。
「……なんか騒々しいな」
王都に戻ってきたが、何か町中が騒々しく感じる。
少し人里から離れてたからそう感じるだけか? 実際、真実の大図書館までの道程で数日平気で消費しているからな。原作のゲームと同じ感覚だとダメだな。一瞬で移動できる気になってしまう。
騒々しい王都の町中を歩いて行き、俺は学園まで戻ってきた。
すると、学園の中は更に騒々しいものとなっていた。
——嫌な予感がする。
「コルニクス! 良かった、戻ってきたんだね」
「フェレス。何があった、説明しろ」
こちらの顔を見るなり駆けつけてきたフェレスに対して、説明を求める。
行く場所は伝えていたからな。そろそろ戻ってくると計算していたらしい。
「それが――」
フェレスの回答は、ある意味想定通りで、予想外な物だった。
「——学園の生徒が何名か行方不明だと?」
生徒の行方不明事件。これは原作にもあった展開だ。だが、なぜ今起こる。
原作の
タイミングとしては、確かに俺が悪魔の情報を手に入れた直後だが……
ベヘモトの時と同じように、俺の行動が引き金になってイベントが起きたのか? 俺の失策か?
待て、それよりも来たのはフェレスだけか。任せていたはずのあいつは?
「フェレス。ヘエルはどうした」
俺が問いかけると、フェレスは本当に苦しそうな表情になった。
——最悪の展開だ。
「……本当に、申し訳ない。僕のミスだ」
「いや、大体理解した。大方、町に出た後見失ったとかなんだろう」
「僕一人で大丈夫だと判断した僕の判断ミスだ。大人しくイミティオも連れて行くんだった」
本当に、真面目なやつだ。俺に任された仕事を果たせなくて相当落ち込んでいるらしい。
「たらればの話をしても仕方がない。さっさと助けに行かせてもらうぞ」
「待ってくれ。君は帰ってきたばかりなのに何が起きているのかわかるのか」
……確かに。現状ではただの行方不明事件だ。誘拐事件だと知っているのは俺だけになる。
どうやって知ったのか、説明することはできない。
「——説明している時間も惜しい。結論だけ話すことになるが、いいか」
「構わない。後、助けに行くといったね。つまりこれは」
「失踪事件じゃない。誘拐事件だ」
俺はフェレスの武装を確認する。剣は……持っていないか。持ってこさせた方がいいか? いや、その時間も惜しいな。置いて行くか。
「俺はヘエルを助けに行く。お前は戻ってきた連中の受け入れの準備を――」
「待つんだ、コルニクス」
再び町に繰り出そうとした俺の肩をフェレスが捕まえて止められた。
なんだ、こっちは急いでいるってのに。
「悪いけれど、少しだけ待ってもらうよ。僕も行く」
「準備している時間も惜しい。待ってられん」
「気が急くのはわかる。けれど、今回は僕も当事者の一人として立ち会った方がいいと思う。悪い言い方をしてしまうけれど、一人で行かれてしまうと君が企んだ話に誤解されかねない」
言われて気が付いた。外から見た時の俺の怪しさに。
路地裏出身のガキが、姿をしばらくくらませた後に路地裏に乗り込んで、誘拐されていた学園生徒を助けました? しかも誘拐だって判明する前に?
自作自演もいいところだ。挙句、そんな単純な構造にも気が付かないほど頭が回っていなかった俺自身にも笑えて来る。
「いいかい。僕は剣を取りに行ってくる。君は……剣が必要ならついてきて欲しい。必要ないなら、ここで待っててくれ」
「……わかった、待つさ。その代わり、早く戻ってきてくれ」
「もちろんだとも。君が暴発する前には戻ってくる。バルバ達には声をかけた方がいいかい」
「声をかけない方がいい。あまり人数をかけるのは強襲の面から良くない」
「わかった」
そう言い残し、一旦フェレスはこの場を後にした。
俺は茹っていた頭を冷やすため、学園の門に向かって一発頭突きをかます。
金属の響く音と共に、額にジワリとした痛みが広がる。
周囲で何をしているのかという視線を感じるが、知ったことか。
この間抜けが。まんまと出し抜かれた気分はどうだ?
ああ、最悪だ。だから、あいつらにも最悪の気分を味合わせてやる。やられた分な。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます