第四十二話:救出劇

 フェレスが戻ってくるの待ち、俺たちは町へ向かう。

 目的地は路地裏だ。フェレスは気が利いており、姿を隠すローブを持ってきてくれた。


「さっさと関係者全員ぶち殺して終わらせるぞ」

「荒れてるね。何かあったのかい?」

「……別に。いつも通りだ」


 そう、いつも通りだ。特別意識しているつもりはない。

 そのつもりなんだが、どうにも違うらしい。俺は少し、いやかなり、苛立っている。

 一回頭を掻きむしり、焦る気持ちを落ち着かせる。


 落ち着け俺。“あの方”がヘエルを欲して捕まえたと確定したわけじゃない。まだ間に合うはずだ。学園への侵入はないように見えた。つまり、今すぐに動く気はないということだ。

 最悪の光景を想像してしまい、振り払うように首を横に振る。

 その様子を見て、フェレスが笑いやがった。


「ごめん。でも、君でもそんなに慌てるんだね」

「そんなに面白いか?」

「いいや。安心したんだよ。君も、きちんとヘエルさんの事が心配なんだって」

「……まあ、な」


 心配、か。確かに心配してるんだろう。じゃなかったら、そもそも学園を一度離れる前にフェレスに声を掛けたりもしない。

 認めよう。俺は結構ヘエルに情が湧いている。事実は事実として認めなければならない。

 やかましい上、面の皮は厚いが、長い間一緒にいた仲だ。情ぐらい湧くさ。


「君は結構——いや、言うのは野暮だね」

「なんだ、気になることを言うな」

「いいや。でも、悪口じゃないよ。いいことさ」


 そういってフェレスは笑い、ローブを深く被った。俺も合わせてローブを深く被る。

 これからは路地裏の領域だ。よそ者である俺らは注視されると見ていいだろう。つまり、これからの動向は相手に筒抜けになる。


「覚悟はいいか? いつでも戦闘が起こると思っておけ」

「わかった。目的地はわかってるんだよね?」

「もちろんだ」


 原作と同じ展開ならば、生徒たちが閉じ込められている建物も同じはずだ。

 あいつらもそんなに路地裏内で人を閉じ込めておけるような拠点は持っていないだろう。大きくは外れないと思いたい。


「殴りかかってくる奴は容赦なくねじ伏せろ。それが路地裏流だ」


 俺たちは路地裏の奥へと再び足を踏み入れる。




 当然のように、道中無駄な雑魚どもが足止めのようにやってくる。

 クソ、やはりバレてるか。外から入ってきた連中は目立つからな。


「急ぐぞ。建物を変えられると厄介だ」

「了解」


 俺たちは足を進める速度を上げる。道中出てくる雑魚どもは一蹴し、足を止める事なく目的の建物へたどり着いた。


「人質を取られるのが一番厄介だ」

「そうなったら、どうする?」

「お前が一瞬だけ気を引け、俺が一瞬で終わらせる」

「オッケー、わかったよ」


 打合せなんてこの程度で十分だ。後は現地判断、俺は扉を蹴り飛ばし中に踏み込む。

 意外なことに、建物に入ってすぐには誰もいなかった。騒ぎ立てる人間もいない、静かなものだ。

 間違ったか? いや、この建物のはずだ。そうなると……


「フェレス、一旦別れるぞ」

「いいけれど、どうしてだい?」

「既に手を打たれた可能性がある。一緒にいるよりかは、そっちの可能性を潰したい」


 フェレスを先行して行かせて、俺は気配を消してフェレスの少し後ろをついて行く。

 おそらく、既に生徒がいる部屋に人数を割いているんだろう。となると人質を取られる可能性が非常に高い。

 ならば不意打ちできる可能性を高めるため、俺は一旦身を隠した方がいい。


 俺の予想は正しかったらしく、少し時間をおいてフェレスの話し声が一つの部屋から聞こえてくる。


「彼女たちを解放するんだ!」

「だーれがそうするかよ。動きが早いことはいいことだけどな、それだけじゃ上手く行かないってのは知っておくべきだったなぁ!」


 案の定、人質を取られているらしい。

 さて、その部屋には窓はなさそうだ。窓からぶち破って入るのはなしだな。

 なら、壁か。


 俺は隣の部屋に素早く移動し、気配を探る。

 部屋の中には敵っぽいのが三人か。大きく動かないのは生徒だろう。フェレスはいい感じに焦ってる気配を出してくれている。注意をよく引き付けてくれているな。


「染まれ、『ウェントゥス』」

「なんだ!」

「最強の男だっ!」


 魔力の高まりで気が付かれたが、もう遅い。

 疑似魔拳を展開し、思い切り壁をぶち壊して部屋の中に乗り込む。

 流石に壁を壊して入ってくるのは予想していなかったのか、敵の男どもは俺の方に注意を引き付けられている。

 対応が完璧に終わる前に、俺は生徒にナイフを突きつけていた奴の顔面に手のひらを押し付けて顔面を地面に叩きつける。まずは一人。

 二人目が生徒の方に手を伸ばす前に、吸い寄せてから顔面を殴り飛ばす。二人目。

 三人目は――フェレスがやってくれていた。隙を見逃さない奴だ。


「フェレス。ヘエル以外はここにいるので全員か?」

「……いや、多分まだ別の部屋にいると思う」


 部屋の中にいた生徒は四名。布で猿轡を付けられ、手足を縛られた状態で壁際に座らせられていた。いきなり乗り込んでは敵をなぎ倒した俺たちを見て身を震わせている。

 ヘエルの姿はそこにはない。


「ならもう正面から叩き潰した方が早いな。不意打ちが効くのは一度だけだ」

「君らしいね。策を練っても最終的に力任せになる辺りが」

「やかましい。人の気配を探って、いる場所を手当たり次第に行くぞ」


 結局正面突破になるのかとは思ったが、それが通じそうな相手だから仕方がない。

 基本的には、力があれば正面から解決できるものだ。

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