第三十九話:初めてのボス戦
今回のボス撃破の方法は、当然機械兵壊滅からのボス本体撃破だ。全部正面から踏みつぶしてやる。
ゲームでは雑魚連中が一度に五体までしか出てこないから時間がかかったが、現実ではもっと一度に倒すことができる。時間効率は遥かにいいはずだ。
「『ウンブラ・ウェントゥス』」
持久戦である以上、疑似魔剣はお預けだ。素手の戦闘でも試してみたいものはあるが、急ぐ必要はない。
「まずは無双ゲーと行くか」
剣を振り回し、俺は一体一体手早くガーディアンを片づけていく。振りかざされる攻撃の隙間をかいくぐり、手早くその四肢を粉砕する。
あまりにも脆い。こいつらは数だけはいるが所詮道中でも出てくる雑魚に過ぎない。ただ、一体一体削るだけでは全く数が減っている気がしない。
やはり一気に削る手段がいるな。
「『アペルトゥス』!」
属性付与の魔力を開放し、剣より影の暴風が吹き荒れる。今のに巻き込めたのは十体ぐらいか? よくわからん。何せどれだけ吹き飛ばしても減ってるようには見えないからな。
未だに壁からは機械兵どもがわんさか湧いて出てきていやがる。機械兵の隊列は波のようだし、波は絶え間なく寄せてくる。
ちょっとばかし武器を温存するか。素手の時間だ。
俺は後ろに飛びのき、一度剣を鞘に納める。両の手を軽く動かし、意識を集中する。
「染まれ、『ウェントゥス』」
疑似魔剣の応用。疑似魔拳ってな。冗談だ。
拳に魔力を纏わせて、体内に魔力を満たして循環させる。武器と違って色々と制限はあるが、使いやすい面もある。
「そら、こっちに来い。『オウスパルマ』!」
闇の魔力の特徴は吸収と放出。今の闇の魔力に満たされた俺の手は、物を引き寄せることが可能になる。
俺は機械兵の一体を無理やり吸い寄せ、掴んだら隊列に向かって投げつける。綺麗に当たってくれたそれらは、幾つかの固まりとなって倒れこんでくれた。
俺はその重なりに向かって飛び込み、思い切り上から踏み砕く。
これは幸運な発見だ。四肢を砕かなくても、胴体部分を粉々に砕けばこいつらは動かなくなる。
「次!」
俺は楽しくなってきていた。
無尽蔵に湧いてくる敵。試したいことは幾らでもある。手加減する必要もない。思うがままに暴れられるこの快感! 通いつめたくなるほどに楽しい時間だ。
敵の攻撃を吸引と放出を繰り返すことで逸らしながら、俺は次々機械兵の胴体目掛けて拳を振るっていく。触れる瞬間に魔力を放出することで、拳の威力を格段に上昇させることもできる。使いこなせば非常に便利な能力だ。
「次、次、次ぃ!」
無限に動きが試すことができる。フェレスたち相手だと手加減が必要だから、あいつらに試せないようなこともできる。人型なのも都合がいい、いくらでも応用ができる。
投げる、叩きつける、振り回す。考えうる動きとその合理性を実際に試すことで問う。
動く案山子がこれだけいるのだ。本当に好き勝手出来る。
何時間経っただろうか。時間も疲労も忘れて俺は目の前の敵に思いつく限りの技を試すことに夢中になっていた。
周囲を埋め尽くすほどの機械兵も、気が付けばまばらになってしまっている。そろそろ生み出す限界に達してきたということだろう。
俺の魔力も正直あんまり残ってない。少しばかりはしゃぎすぎたらしい。
「そろそろ終わりにするか。楽しい時間は過ぎるのが早いな」
もう一度剣を引き抜き、疑似魔剣を発動する。
「染まれ、『ウェントゥス』」
残りの魔力を使って、魔法を展開する。
「流れて来たれ『ウンブラ・フルフィウス』」
前方へ広がった俺の影が、正面側にいる機械兵どもの足を捕らえる。
川の流れが一つにつながるように、俺の正面へ機械兵どもを一直線になるように動かしていく。俺の一閃で全てを巻き込んで破壊できるように。
俺の残りの魔力を、活動できる必要分のみ残して剣に注入する。この段階ですでに剣が悲鳴を上げており、魔力で皮を被せていなければすぐにでも爆散してしまうだろう。
「全てを飲み込み塗りつぶせ、『ハイレシス』!」
黒の奔流が残った機械兵を飲み込み、その奥にあるセレスティアルガーディアンにまで届く。
一撃でその体躯を穿ち、ひび割れていく欠片をも飲み込み砕いて行く。
流れ出る奔流が消え去った時、舞台に広がるのは沈黙だけだ。機械兵もいなくなった、セレスティアルガーディアンも粉砕した。残るのは――俺だけだ。
「——続投もなし。終わりだな」
終わりはあっけないものだ。ボスと言えど、所詮は魔物の一体に過ぎないということか。
そういえば、リポップはするのだろうか。原作ゲームでは条件を満たせばリポップしていたが。するならば、今後試したいことが出来たたびに通うことにするのだがな。
まあいい。本題はこの悪魔に関する本だ。
「どれどれ。悪魔に関する情報はどんなもんかなっと……」
俺は堂々と本が置いてある台座の隣に座り込み、悪魔に関する本を開いた。
そして、真っ先に目に入ってきたのは知らない情報だ。
「悪魔は権利あるものに声を届ける、だと?」
悪魔の声が届くとはなんだ。権利があるものとは誰だ。
思えば、確かに原作の俺がどこで悪魔の力を知ったのか、魔境に潜るきっかけは何だったのか不思議な部分はあった。
きっかけは悪魔の声が聞こえて、呼び寄せられていたと思えば説明がつく。
「ならば、“あの方”もそうなのか?」
原作の俺のポジションに座ったのも、悪魔の声が聞こえていたからだとすれば――
俺は他にも知らない情報がないか、本に食らいつくように読み込んだ。
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