第三十八話:前世の記憶について
俺はそこら辺の本棚に背中を預け、さっそく本を読むことにした。
この図書館の本は持ち出し厳禁だ。持ちだそうとすると、変な敵と戦わされることになる。おそらく、本だけ手に入れて逃げようとする連中に対する対策だろう。
本を開くと、そこには文字の羅列。読める、読めるが……
「……文字だらけだな。もっとこう、絵とかつけてくれはしないか」
文句が口から洩れるが、本は答えを返してくれなどしない。
仕方がない、読むか。非常に面倒だが、ここにヒントがあるかもしれない。“あの方”が俺のように前世の記憶を持っているかどうかもわかるかもしれない。なら読むしかないだろう。
持ってきた携帯食料をかじりながら、俺は本の内容を嚙み砕きながら理解する。
曰く、輪廻転生は存在する。魂は一度漂白され、世界を漂い生命となる。例外はなく、記憶も何もかもここで消える。
——待て。なら、俺のこの記憶は何だ。記憶も消えるのなら、俺が手に入れたこの記憶と知識はなんだ。
俺は先を読み進める。世界を漂っている間は魂は漂白され切っていない。その時の霊魂が時折幽霊として姿を現すことがある。ゴーストの説明だな。
そうして読み進めていき、俺は目的の記述を見つける。
「『闇の魔力の特異性について』、だと?」
闇の魔力は魂の根源に関わる魔法である。光の魔法も生命の根源に関わる魔法である。故に、魂に関わる部分において闇の魔力の保有者は別件と考えるべきである。
「『結果として、闇の魔力の保持者は例外として魂が漂白されきらない恐れがある』」
俺が求めていた記述があった。
つまり、“あの方”は前世の記憶を持っていない。これでほぼ確定した、この知識は俺だけのものだ。闇の魔力なんて持ってる人間は全くと言っていいほどいない。
一気に肩の力が抜ける。同じ前世持ちがいなくて安心したというのもあるが、“あの方”がただの人間であることが確定したことが嬉しかった。少なくとも、ヘエルがすぐに襲われることはないということなのだから。
「これで一安心だな。さて、次の目的を達成しに行くとするか」
もう一つの目的。それは悪魔に関する書を手に入れることだ。
俺の記憶が本当に正しいのか確信を得るために。俺が知らないかもしれない悪魔の情報を手に入れるために。
「ここだな」
真実の大図書館の中でも特別な場所。禁書庫とでも呼ぶべき区域だろうか。ここには特別な手段を踏まなければ入れない。
ここに置いてある本は殆どがダミー。実際に記述が書いてある本はごく一部しかない。
本を取れば敵が出る都合上、経験値の稼ぎ場所としてゲームでは重宝されていた。この魔境は帰り道も安全だからな。
気を見てあいつらに紹介してやるか? いや、緊張感がなくなりそうだな。戦う事にはなれそうだが、今後の魔境探査の事を考えると良くないか。あいつらには俺の最強を証明してもらうために最上位魔境を攻略してもらわないとなんだ。
特にイミティオの成長につながらない点が駄目だ。あいつは甘やかすとすぐにつけあがる。
「本物の本は最奥の……これか」
最奥の台座に乗せられた一冊の本。これが、悪魔に関する書だ。
この本を手に取ると、この魔境のボスとでもいうべき魔物が現れる。
こいつと戦う事前提だったから、なるべく魔力は温存したかったんだよな。なんせ、このボスは俺の記憶が正しいならば物量戦になる。
「さて、やるか。セレスティアルガーディアン戦」
本を手に取ると、奥の壁に飾られていた装置が動き出す。
この魔境のラストギミック。通称百人組手。セレスティアルガーディアン戦だ。
こいつ自体は何もしてこないただの壁の飾りだ。しかし、一度稼働すると機械兵どもを一生生み出し続ける。
セレスティアルガーディアンの攻略方法は大きく分けて二つ。機械兵を無視して本体であるセレスティアルガーディアンに一定以上のダメージを与える事。もう一つは機械兵がもう生成されなくなるまで倒しきることだ。
ゲームだと一回に出てくる機械兵の数は五体で固定されていたが、さてはて現実ではどうなるか。
「まあ、そうなるよな」
セレスティアルガーディアンが音を響きならすと、図書館の外壁に穴が開き、機械兵どもが湧いて出てくる。数えるのも面倒なほど、一度に大量に、だ。
百体超えてるかこれ。百人組手ってのも通称で、ただ多いからそう呼ばれてただけっぽいしな。厳密な数は忘れた。そもそも正攻法はセレスティアルガーディアンの直接撃破だしな。
「いいだろう。かかってこい。いくら雑魚が群れようと、世界最強には勝てないってことを図書館に刻み込むんだな」
久しぶりに骨がある戦闘だ。邪魔ものもいないことだし、全力で楽しませてもらうとしよう。
なあに、ゲームのように経験値が入らなくても、多人数相手の戦闘は想定しなければならないことだ。いい機会だ、全力で実験させてもらうとしよう。
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