第三十七話:真実の大図書館
その魔境は、魔境と呼ぶには異常な場所だ。
魔物は出る。だが、その魔物が魔境の外に出てくることはない。あの魔境の魔物は、魔境の内部を守る者たちであり、侵入者を排除するためだけの存在だ。
その魔境の名は、真実の大図書館という。学園内に悪魔の力が封じられていることを記された書がある魔境だ。
俺は一人でその魔境に潜っている。
ヘエルには教えていない。おそらく、今頃探し回っているころだと思う。置手紙はしてきたが、文句を言われるのは避けられないだろう。念のためフェレスに様子を見ておくように伝えていたが、さてはてどれだけ荒れるのか。
その程度のリスクなら、俺はやらなければならないと確信していた。
「まだ何もいない、か。記憶通りだな」
目的の場所までは案外あっさりたどり着いた。真実の大図書館は非常に複雑な内装をしていて、知らなければ迷うこと間違いない。俺はある程度の知識があるから迷う事なく目的地にたどり着くことができていた。
目的地にたどり着くまでに戦闘はしていない。戦闘をするのはこれからだ。
「さてはて、どいつが出てくるかな」
この魔境はおかしな魔境だ。通常の魔境のルールから大きく逸脱している。
それは、魔物が発生する条件が明確になっているというところだ。
真実の大図書館にはありとあらゆる知識が収められていると設定ではあった。それを求めるものがこの魔境に足を踏み入れ――試練と相対する。
「知識を求めるものに試練を与えん、か。上等だ、俺は最強になる男だ」
この魔境の入り口にかかれているらしい文言を口にして、俺は目的の書に手をかける。
同時に、魔物がどこからともなく現れる。
「一般機械兵五体に大型一体か、舐められたものだな」
この魔境の特色は、求める知識の質に応じて出てくる魔物が異なるところだ。
どうでもいい誰でも知っているような知識には一般人でも蹴っ飛ばせば殺せるような魔物しか出てこないし、誰も知らないような秘密を知りたければ相当な敵を倒さないといけない。
手をかけた本を本棚から取り出し、本を片手、剣を片手に機械兵どもに向かい合う。
こいつらは図書館を守るガーディアンだ。一定以上の知識を求めるとこいつらが出てくるようになっており、知識の質が上がるほど数が増える。素早いのが非常に厄介で、生中な育て方では先手を取られてそのままお陀仏だ。
姿は人型を模しており、物によっては鎧を着こんでいる。大型は肩に火器を搭載している面倒なやつだ。隙を見つけると容赦なく撃ってくるだろう。
強さとしては、まあ上級の魔境クラス。ベヘモトやオルトロスより一段階落ちる程度の敵だ。
単体では大したことないが、こいつらの厄介なところは数が揃うとそれぞれが連携を取って行動してくることにある。原作では数が増えるたびに行動パターンが増える厄介な敵だった。
つまり、俺が取るべき行動はこうだ。
「まずは一体」
一瞬で数を減らす。幸いにも、こいつらは防御力は大したことない。
俺は一足で間合いまで踏み込み、機械兵の首を撥ね飛ばす。これでまずは一体——
「はぁっ!?」
当然と言えば当然かもしれないが、首を飛ばした程度じゃ機械兵は止まってくれなかった。首のない個体がそのまま俺につかみかかってきたのを、すんでのところで躱す。
どうやらこいつらを止めるには、四肢を切り落としてやるしかないらしい。面倒な相手だ。
「そんな時間をかけてやる気はないんでな。まだ次もあるんだ、さっさと終わらせてもらうぞ」
今回この図書館で目的としている蔵書は二冊ある。一冊目であまり手間取るのはよろしくない。
「渦巻き捕らえよ『ウンブラ・ウェルテクス』」
俺を中心に、地面に影が広がっていく。影は取りついた相手の足を掴み、渦を巻き、中心部へ周囲の敵を引き寄せる。
この魔法を使っている間俺は動けないが、相手も強制的に動けなくする移動制限魔法だ。こういう状況では多数をまとめられる上、厄介な連携を封じられるのが強い。地面に足をついていない敵には無効化されるのが問題点か。
「闇よ纏え、『ウンブラ・ウェントゥス』」
十分に距離が詰まったのを確認して、俺は剣に闇属性の魔力を纏わせる。こいつら相手なら疑似魔剣を使うほどでもない。属性付与で十分だ。
「『アペルトゥス』!」
解放された魔力が竜巻の如く俺の周囲を取り巻き、触れたものを切り裂いていく。機械兵ども五体はこれだけで粉砕され、大型にも大きな傷を残した。
これが、イレの自爆特攻もどきの正しい使い方だ。魔力制御をしっかり行い、道筋を描いてやれば思うがままに魔力を発散させてやることができる。
「やれやれ。出来ればまだ魔力は温存しておきたいんだけどな」
残った大型兵の最期の砲撃を半身になって躱しつつ、俺は最後の一体に止めを刺した。
周囲を見回してみると、本当にどういう原理なのか本や本棚には一切傷がついていない。あれだけ激しく周囲を損害される攻撃をしたのに、だ。
ここがしっかりとした魔境なのだと再認識させられる。
「この本がそんなに大事かね。そんな大層なものには思えないんだけどな」
俺が手に取った本のタイトルには、『輪廻転生についての秘』と記されていた。
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