第三十六話:大成功の裏で
魔境探査は不気味なほど何事もなく終わった。“あの方”が何かしてくることはなく、俺の出番もなかった。
他のパーティには幾らか教師に回収されるような情けないパーティもあったみたいだが、フェレスたちは当然余裕を持って帰還。特上級の成果を披露してみせた。
「えー、それでは。全員無事かつオーダー達成記念に、乾杯!」
「「「「「かんぱーい!」」」」」
そして俺たちは今、町のカフェで打ち上げと称して集まっている。カフェはバフが得られなかったあの店だ。味は美味い。
またここかと思う。こんな近いうちに二回目が来るなんてな。ひょっとして前回のは今回の打ち上げも見越しての下見だったのかもしれない。フェレスならそういう事もやりそうだ。
「コルニクスも一緒にやりなよ」
「うるさい。俺を加えようとするな」
「まあまあ、オーダーは無事達成できたんだし、いいだろ? な? だから許してくれよぉ」
「減点野郎は黙っておけ」
イミティオの事はしばらく減点野郎と呼ぶことにした。こう呼んでやると、急いであの時はどうだの言い訳を始めるから面白い。お前の目の前にいるのが言い訳が通じる相手でよかったな、魔物相手なら死んでるぞ。
「減点野郎、まったく面白いあだ名じゃないか!」
「イレはよくもまあ、こいつの考えに近い答えを出してましたね」
「コルニクスさんは厳しい人ですから。油断したりミスしたら容赦しないかな、と」
よくわかってるじゃないか。イレには百点をくれてやろう。
イミティオに厳しくないかって? パーティの命綱握る人間優しくしてどうする。これでもまだ甘い評価してるぐらいだ。
「何はともあれ、今度こそしっかりとした成果を残せたわけだし」
「成績査定もしっかり最高ランクだ!」
「まあ、僕がいるなら当然とはいえ、結果はトップでしたね!」
俺が鍛えたこいつらは、二位が持ち帰った魔石の量のおおよそ五倍ぐらいらしい数の魔石を持ち帰ってみせた。まさしく、比べることもおこがましい疑いようのない一位だ。
その数五十。魔物五十体分の魔石を持ち帰ったのだ。雑魚魔境と言えど、生徒たちが成せる技ではない。ひょっとすると、並の騎士よりかはこいつらの方がましかもな。
あまりの数に不正を疑う奴もいたが、俺が手を貸そうとすればあの程度の魔境の魔物は逃げる。気配を消していたからついていけてたわけだ。
俺が手を貸すことは不可能だし、事前に持ち込み検査もされてたから不正のしようがない。
因みに数を数えたのは俺ではない。俺に計算をさせるな、殺すぞ。
ヘエルに、コルニクスは数字がわからないから圧倒的な差を付けろって言ったんですか? って煽られたが気にしていない。俺は最強になる男だからな、寛大に頭を叩くだけで見逃してやった。
「この調子なら、座学が多少悪くても何とかなるよな! な!」
「お前はもう少し勉強するべきです。馬鹿者」
「おいおいひでぇな。俺だって頑張って勉強しようと思ったんだぜ? 思っただけだけどな」
バルバは座学に自信がないから必死だったらしい。留年とかあるのかこの学園に。原作ではそんな話はなかったからないと思うが。
「……騒がしい連中だ」
「ふふっ。でも、こういうのも悪くないんじゃないんですか。笑ってますよ、顔」
いつの間にかに俺の側にヘエルが寄ってきていた。
悪くない、か。確かに、悪くはない。結果だけ見ればな。
「まだまだ俺から見れば未熟だ」
「でも、合格点は出してくれたじゃないですか」
「見どころはあった。それだけだ」
実際、こいつらの連携は中々のものだった。
練習の時よりも遥かに素早く判断ができていたし、意思疎通も問題なかった。
フェレスの判断が多少間違っていても、即座に応答してみせたのは素晴らしい。意思統一が最も難しい課題だからな。
原作では本当に落ちこぼれだったこいつらが、な。やはり、素質はあったんだろう。俺が開花させてやった。
「これだけやれれば、少しは安心か」
「コルニクス?」
「いや、独り言だ。気にするな」
こいつらは今後も成長していくだろう。この調子でな。
実戦経験を積んだ分、どんどんパーティとして完成していくだろう。俺がこれ以上鍛える必要性も薄い。魔境に潜らせ続ければそれで育つところまで来ている。
ならば、俺がやることも限られてくる。俺が本来やらなければいけないことに。
「そろそろ、一度潜るか」
「コルニクス?」
「安心しろ、危ないことはしない」
今回、“あの方”とやらは何も干渉をしてこなかった。
それが指し示してることは、あの方は原作に忠実に動くだろうという予想だ。
予想が正しいを仮定すると、俺がやってやるべきことはただ一つ。先んじて原作展開を潰してやることだ。
次に起こる路地裏関連のイベントは――魔境内での遭遇だ。
俺はどいつらがそんなことを起こすのか知っている。だから、先んじて潰しておいてやろう。
これ以上、俺の邪魔をさせてたまるものか。
俺は最強になる男だ。その目的に立ちふさがる連中は、誰であろうと打ち砕いてやる。
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