第三十四話:二度目の魔境探査
二度目の魔境探査授業の時間が来た。
今度は教師陣や護衛も少し離れて生徒たちについて行く、護衛付きの実習だ。
護衛が着いて行くために前回の始まりの平原よりも難度は上がっているが、その分イレギュラーは起こりづらいはずだ。
今回は事前に魔境内に護衛と先生たちが先に立ち入って、異常がないかの検査すらしている。魔物を狩りすぎると良くないから、基本出会ったら逃げだったけどな。
「さて、何か言いたいことはあるか?」
フェレスのパーティは護衛が俺ということで、先生の護衛を外してもらった。俺が一人でオルトロスを狩ったのは周知の事実だし、このパーティの実力自体が周囲から飛びぬけている。
二つの意味で安心ってわけだ。リソースなら他のところに回した方がいい。
「はい!」
「なんだヘエル」
「今回はコルニクスが私たちの後ろからついてきてくれるってことで合ってますよね?」
「そうなるな。基本的には俺は気配を殺してお前らの周囲にいるから、姿が見えなくても安心しろ」
今回はよくある魔境の中でも森林型の魔境だ。これは洞窟型や平原型だと監視員が付いているのが丸わかりだから良くないということで、森林型の魔境になった。姿が見えて生徒が安心出来てしまうと緊張感がなくなって危ないからな。
魔境の名前は何だったかな。忘れた。原作に出てきていたかすら定かではない。まあ、始まりの平原よりも少し敵が強い程度だ。こいつらにとっては問題にならん。俺が鍛えたんだからな。
「お前ら、やるべきことは何かわかっているな?」
「圧倒的な差を他のパーティに着けろ、だろ?」
「正解だ」
バルバが笑いながら答えてくれた。
そうだ、お前たちは秀でている。俺が鍛え上げた精鋭だ。つまり、そこらの有象無象なんかと比べられるような結果を残すことは許さん。俺が、許さん。
特に前回活躍した分は俺が介入したせいで有耶無耶にされてしまった。極めて残念だ。
「この魔境の魔物を狩りつくすつもりで戦え。お前らなら闇雲に歩いて見つけるよりも、探して狩った方が効率がいい」
「つまり、オーダーの成否は俺にかかってるってことね。最悪だぁ」
イミティオが嘆く。それを受けてパーティ面子が笑う。
嘆いて見せてるのはポーズだけだ。こいつはついに先日俺から合格を貰っている。この程度の魔境なら実家の庭のように駆け抜けて見せるだろう。
俺が合格を出した時のあの喜びようと言ったら……。本当に、面白い奴らだ。
「俺の見立てだと、せいぜい他のパーティは五、六回の接敵で限界だろうな。で、お前らは?」
「私の回復魔法がありますので、他のパーティよりかは余裕がありますね」
「僕の魔法もありますから、ある程度まとめての処理も見れますよ」
「ま、この程度の魔境は、ね」
「コルニクス様に比べたら楽勝だよなぁ? な?」
「はい、頑張ります!」
男連中は本当に調子に乗りやがって。後で覚えておけよ。
素直なのはイレだけだ本当に。
「イミティオ、きちんと導線握っておけよ。舵を切るのはフェレスの仕事だが、波を読むのはお前の仕事だ」
「あいよ。まあ、頑張るさ。合格貰ったからな」
「そうだな。もしも俺に回収されるようなことがあったら、罰として最初からしごき直してやるからな。全員覚悟しておけ」
おっと、一気にパーティの空気が引き締まったな。いいことだ。
ヘエルだけはなんだか不服そうだが、しょうがないだろう。お前に俺が教えられることがないんだ。俺の専門とお前の専門じゃ何もかもが違う。
周りを見てみろ、俺にしごかれたい奴なんてお前しかいないぞ。自分の異常さに気が付けヘエル。
「おっと、一応集まってのガイダンスが再びあるんだったな。行ってこい」
「わかりました。それでは、コルニクスはここで待っててくださいね。迷子にならないように」
「誰が迷子になるか阿呆。無駄口叩いてないでさっさと行ってこい」
お前は俺の保護者か。ヘエルは雇い主だから実質監督者みたいなもんか? 似たようなもんか?
軽口が叩けるぐらい緊張がないのは良いことだ。緊張ってのは適度にするべきもので、余裕な時に無理にするものじゃない。
「で、あんたはまた俺のところに来たのか」
「ふふふ、そう言ってくださるな。ただの老骨の親切心ですよ」
「余計なお世話だ」
学園長だったか。ヘエルたちが離れたタイミングを見計らって、また俺に接触しに来やがった。
「今回は長話をするつもりはありませんよ。ただ、あの子たちの様子をあなたの口から聞きたかっただけです」
「仕事を奪われたやっかみか?」
「いいえ? 生徒の成長を喜ばない教育者がどこにいましょうか」
それは大変結構。真面目なことだ。
口で言ってることが本音だといいんだけどな。こいつの事はいまいち信用ならない。前回の印象が悪すぎる。
「悪くはないだろう。少なくとも、この程度の魔境は余裕でこなしてもらわないと困る」
「まるで、あの子たちはもっと難度の高い魔境に潜るような口ぶりですね」
「当然だろう。あいつらはそういうことができる奴らだ」
やってもらわないと俺が困る。それができるように育ててるんだからな。
俺の成長を遅らせてまで手をかけてやったんだ。不甲斐ない成果を見せてみろ、殺してやる。
「あなたは、どこまでも遠くを見ているように見える。人には見えていないところまで」
なんだ、唐突に。この爺さんは何を言い始めた。
「遠くばかりを見すぎないように気を付けなさい。意外と身近なところに、小石は落ちてるものですよ」
よくわからない忠告を残して、学園長はどこかへ行った。
代わりに戻ってきたのはヘエルたちだ。
少しもやもやした気分になったが、まあいいだろう。
さあ、実戦と行こうか。
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