第三十三話:男三人姦しく

「で、だ。俺をどこに連れて行くつもりだ?」

「なんか語弊を受けそうな言い方だね。ただ町で遊ぼうってだけなのに」

「目的地の決まってない散策は苦手だ」


 ただ歩いているだけの何が楽しい。ヘエルは楽しそうにしてたが、俺にはさっぱり理解ができない。


「少し交流を深める意味で、一緒に食事でもと思ってね」

「……あのなぁ」


 あまりの呑気さに呆れるばかりだ。


「お前ら貴族が入るような店に、俺が入れると思うのか。路地裏のガキだぞこちとら」

「でも、今はヘエルさんの従者だろう? なら、何も問題ないんじゃないかな」

「だな。俺もそう思うぜ」


 そういうもんかね。何か問題あればこいつらに責任を擦り付ければいいか。俺は困らん。


「それに、形式ばったところに行く気はないよ。今日行こうってのは、この間新しくオープンしたカフェだよ」

「カフェか。お前らもそういうところ行くんだな」

「まあ話題になってたからなー。俺らだってそういう新しいもんは気になる」


 子供らしいと言えば子供らしいか。思えばヘエルと同じ年齢ということはこいつらも十二歳、まだまだガキだ。

 俺か? 俺は年齢なぞ知らん。産まれた年も月もわからんからな。だが、おそらくこいつらよりかは上だろう。じゃないとダメだ、プライドが許さん。


 たどり着いたカフェというのは、これまたゲームで見たことがある見た目をしていた。というか見て思い出した。

 魔境探査の前とかに寄ると、食事でバフがもらえる施設だったんだったか。現実では効果あるのかね。ないと思うが。あったらトートゥムに挑む前に通ってやる。

 無駄に店員のキャラがかわいいとかで話題だったんだったか。人気投票だかで一位を取りかけたとかなんとか。くっそどうでもいいことばかり教えてくるなこの知識。


「それじゃ、入ろうか」

「おう!」

「楽しそうだな、お前ら」


 ……まあ、いいか。たまにはこんな日があっても。


 カフェの中は思った以上に盛況で、他にも学園の生徒がいるのがわかる。

 なるほど、確かに話題になっているらしい。ざっと見渡しただけで結構学園生徒が視界に入ってくる。割合? 俺に計算を求めるな。

 運よく席が空いた瞬間らしく、俺らは待つことなく席に着くことが出来た。間がいいのはフェレスの主人公補正か、それとも俺の悪運かどっちだろうな。


「メニューはこちらになります」


 噂の可愛いらしい店員が来た。うーむ、見覚えがある顔だ。俺にはピンとこないが。

 どうもと言って、フェレスがメニュー表を受け取った。

 表でメニューが記されているということは、文字が読める層を対象にしているのかと思ったら、そうでない席もある。口頭でのメニュー確認もできるらしい。俺らはフェレスたちが学園生徒の制服を着ていたから文字が読めると判断されたらしい。

 出来るなあの女。いい判断力だ。


「何を頼もうか」

「軽食適当に摘まめる奴でいいだろ。人数分頼もうぜ」

「せっかくだから、一つの皿を分けて食べるのとかやってみたいんだけど、いいかな」

「おっ、いいなそれ。じゃあそれっぽいの頼もうぜ!」


 元気な奴らだな本当に。よくも紙切れ一つを前にそこまではしゃげるものだ。

 俺はこいつらの注文を待つか。何を頼んだらどんなのが来るのかとかわからんし。任せるとしよう。どうやら俺の分まで頼んでくれそうだしな。


 店員を呼びつけ、注文を伝える。

 その後、バルバが今度は俺に向かって目を輝かせて口を開いた。


「それでな、それでな、俺コルニクスに聞きたいことあったんだ」

「——なんだ。ある程度なら聞いてやる」


 飲み物だけ提供されたので、飲んでみる。お、結構美味いなこれ。


「コルニクスは三人のうち誰が好きなんだ? やっぱりヘエル嬢か? もちろん恋愛的な意味だぞ」

「グッ。カハッゴホッ。いきなり何を言い出すかと思えば――」

「あ、それ僕も気になってた。教えてよコルニクス、君は三人全員と仲がいいだろう?」


 いきなり何を言い出すかと思えば。驚いてむせてしまっただろうが馬鹿が。

 こいつら根本のところを忘れすぎだろ。何回釘を刺せばいいんだ俺は。


「そもそも、俺は路地裏の孤児であいつらは貴族だ。忘れちゃいないだろうな」

「あー、それさえなければなぁ」

「当人たちが良くても、家が許可出してくれないとね。厳しいんだよね」


 そうだろうそうだろう。ありえない話だ。そもそもそんなこと考えたこともない。

 でも、とフェレスが続ける。おい待て。まさかこの話題を続ける気か?


「ヘエルさんは結構コルニクスの事好きなんじゃない? ずっと側にいさせようとするし」

「お気に入りの毛布を後生大事に抱えてるようなものだ。あれは」

「つめてぇなぁ。もうちょっと何かないのかよ」

「しつこいぞ。お前らが期待しているような浮いた話はない」


 身分が違うんだ身分が。理解しろ。


「そういうお前らこそ、そういう話は付き物なんじゃないのか。婚姻とか貴族の務めだろう」

「あはは、僕みたいなそこまで有力でもない貴族はそうでもないよ。だから気楽でもあるし、将来のために気を付けないといけないところでもあるんだけれど」


 そういえばこいつはそういう設定だったな。だから自由恋愛だったわけだ。

 バルバはどうだ? なんか顔色が青くなっているが。


「俺は、まあ、居るっちゃいるが……」

「いるのか。意外だな」

「昔っからの付き合いだからな。なんつうか、家族って感じなんだよな」


 あー、妹とか姉とかにしか見れないというらしいあれか。

 それはまた面倒な。だからこそ、俺に浮いた話を求めたのかもしれないが。

 その後は、特に何もなく雑談と飯を食って帰りとなった。飯は美味かったが、バフなんかはやはりなさそうだ。少し残念に思う。

 帰り道、そっとフェレスに耳打ちされた。


「どうだい、息抜きになっただろう? “あの方”の事ばかり、考えていたらヘエルさんが拗ねちゃうからね」


 俺はそれには何も言わず、笑うことで返答としてやった。

 因みに、カフェでしていた話が周りにいた学園生徒の耳に入っていたのか、後日ヘエルから呼び出しを喰らって問いただされた。

 なぜ怒られたのかはマジでよくわからん。理不尽だ。

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