第三十二話:男三人町へ
「コルニクス、今日も私は用事があるので、ここで別れましょう」
「ああ、わかった」
廊下でやり取りをして、俺たちは別れる。
最近になって、ヘエルは時折俺を置いてどこかへ行くようになった。
ヘエルの俺に対する執着を思うと不自然だが、それが薄れたというのならいいことだ。あまり一人の人間に執着するような状況は好ましくない。
だから、俺としてはヘエルにもっとフェレスたちと仲良くなって欲しいわけだが……
「コルニクス、今日は一人かい? 珍しいね」
「フェレスか。ヘエルは留守だぞ、どっか行った」
考えていたら本人の方からやってきた。間のいいやつだ。主人公様は違うな流石。
「俺もいるぞ」
「バルバもか。二人してどうした」
「いや、お前が一人でいるのが珍しくてな。話しかけに来た」
ひょっこりとフェレスが来た方向の真反対からバルバもやってきた。
お前らそんなに俺が一人でいるのが珍しいか? 見世物ではないんだけどな。
「ヘエルもなんだかんだ年頃だからな。女はいろいろと大変なんだろ」
「へぇ、達観したことを言うね」
「そら、本人に説かれたからな」
一度興味本位で着いて行こうとしたら、ヘエルに『女性には殿方には知られてはならない秘密というのがあるんですよ』と言われてついて行くのを拒否された。
そういうものなら大変だろうな。相談相手が限られてる秘密なんて面倒なだけだ。
俺の前世の知識みたいに、個人で役立てられる相談のいらないものなら関係ないんだがな。
「本人に言われるところが君らしいね。仲が悪くなったんじゃないなら良かったよ」
「なあ、それなら一緒に町に出ないか?」
「町に?」
練武場で訓練でもするかと思っていたところ、バルバから思わぬ発言が出た。
「俺らの方の訓練はひと段落しちまっただろ? なら、お祝いってことで町へ一発遊びに行こうぜ」
「いいね。名目は、コルニクスの隙を付けた記念会かな?」
「お前らなぁ。わかってると思うが、わざと作った隙ぐらいはついてくれないと困るんだぞ?」
こいつらはよほど俺の足元が見えたのが嬉しくて仕方がないらしい。今度は全力で相手してやろうか。わからせるぞコラ。
「そう言っても、コルニクスはついちゃダメな隙とつくべき隙を分けて作るじゃないか」
「当たり前だろう。見るからに罠だとわかる隙に飛びつく阿呆がいたら仲間が困る」
「その見分けが難しいってんだよ! もうちょっとわかりやすくしてくれ!」
「わかりやすくしたら意味ないだろ阿呆。見分けられるようにするための訓練で手を抜いてどうする」
訓練なんだからむしろ本番より厳しいぐらいでちょうどいいんだ。
失敗しても死ぬ心配がないんだからな。本番では失敗は死を意味する。
「確かに、そうだな」
「こんなので納得するなら最初から疑問を持つな阿呆」
「阿呆阿呆言い過ぎだろ! そら、俺は成績は良くないが」
良くないのか。まあバルバは良くなさそうな雰囲気出してるもんな。座学の授業中とか平気で寝てそうだ。
男連中を揃えるのなら、後一人足りないな。
「イミティオは誘わないのか?」
「彼も誘ったんだけど、『俺はまだ合格点を貰えてないから』って言って……」
「らしいと言えばらしいが。そこまでこだわるか」
姿が見えないのも、おおよそ訓練中というわけだ。精が出るな、いいことだ。
よほど自分の役割が気に入ったらしい。以前のイレギュラーの時も、イミティオが異常を早期発見したからこそ対応できたとフェレスが褒めていたしな。
「まあ、本人が望んでいないのなら無理強いはしない方がいいか」
「そうだね。僕もそう思うよ」
「じゃ、俺ら三人で町に出るってことでいいな?」
「別に構わん。やることもないからな」
俺がそういうと、二人は少し驚いた様子を見せた。
なんだ、俺が断ると思ってたのか。たまにはこんな日もいいだろう。
「いや、正直コルニクスなら一人で訓練しにいくものだと思ってたよ」
「ああ、俺も断られると思ってた」
別にそうしたっていい。だが、優先順位を変える必要が出てきたからな。
「目下の悩みがお前らの方だからな。俺が最強になるのは当然だが、お前らと交流して何が問題点なのか探るのも悪い手じゃない」
そう、原作への対応のためにもこいつらには強くなってもらわないといけない。俺の手を空ける意味も込めてな。
こいつらが安定して魔境に潜れるようになれば、その間俺の手が空く。その時間を使って、幾つか欲しいものを回収したい。
回収したいものの一つは切れ味のいい剣として魔剣だな。もう一つは竜泉水というゲームでは体力と魔力を全回復させる回復アイテムだ。ゲームでは一回のトライで一つしか手に入れられなかったが、現実なら容器さえ用意すれば幾らでも回収できるはずだ。持っておいて損はない。
問題は、二つとも非常に高い難度の魔境を攻略する必要があるということだが……俺一人ならどうとでもなる。つまり、こいつらさえ育ってくれれば後は困ることがない。
「わかったならさっさと行くぞ。時間がもったいない」
「わかったよ。それじゃあ、さっそく行こう」
廊下の窓から外の様子を見ると、校門の方向へ向かって歩いて行くヘエルの姿が見えた。
あいつも学園の外に用事があったのか。一体俺を置いて何をしに町に向かってるんだろうな。
詮索するつもりはないが、気にはなる。難しい問題だ。
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