第三十一話:理論と感覚

「ですから、何度言えばわかるのですかイレ・アーレア!」

「ごめんなさい、ごめんなさい」

「ごめんなさいじゃなくて、ああもう! 魔力制御って言うのはですね――」

「……今日もやってますね」

「だな」


 ヘエルと共にイレとオペリオルの訓練風景を眺めている。

 ここ数日は男連中ではなく、女連中の方の訓練を直接見ることにした。

 男連中は最低限の形にはなったし、俺がいなくても形は整えられるだろう。

 女連中の方は上手くやっていると聞いていたし、実際魔境探査でも問題なかったようだから心配していなかった。少しだけ様子を見て男どもに戻る予定だったのだが……


「つまり、このように理論立てて実行すれば何も問題はなくてですね」

「ごめんなさい、わからないです!」

「わからないです、じゃないんですよ! 何度同じことを説明させるつもりですか!」


 理屈派のオペリオルと、感覚派のイレが上手く行ってるはずもなかったか。

 そら自爆特攻寸前の事を平気でやるような奴がイレだ。理論立てて考えてるはずがない。


「上手く行ってるんじゃなかったのか?」

「最初は上手く行ってたんですよ。最初のうちは……」


 話を聞いてみると、本当に最初の方は上手く行っていたらしい。

 理論で考えて躓いているオペリオルに対して、イレは感覚で手早く魔力制御のコツを掴んでしまったそうだ。そこでひと悶着はあったが逆に実践しているイレを見て分析し、オペリオルもコツを見つけたらしい。

 イレはオペリオルが分析して理論的に魔法を使っているのを見て、ちゃんとした魔法の使い方を学習し、より効率的な魔力運用を可能にした。まさしく理想的なサイクルだ。

 最初のうちは、だが。


「そもそも、なんでそんな滅茶苦茶な理解でその魔法が発動するんですか!?」

「それはもう、頑張ってるからです!」

「頑張ってどうにかなる問題だというのなら、今すぐに過去の学者の方々に謝りなさい!」


 俺は呆れて物も言えない。こうなるとは想定すらしていなかった。

 こうなると、才能ある同士仲良くしろとも一概に言えない。全くやり方が違うんだ。

 教える側としても、どう教えたものか悩ましい。てかオペリオルの言ってることは俺もよくわからん。


「ヘエル。オペリオルの方は任せていいか」

「えっ! 無理ですよ無理。私あれ以上の魔力制御なんてできませんよ!」

「俺も感覚派なんだよなぁ。実践して見せて分析させるんでもいいが、根本的な解決にならんしどうしたものか」


 正直イレに教えるのは楽だ。実際にやって見せて、駄目なら直接叩き込んでやればいい。

 オペリオルに教えるのは正直やりたくない。実際に実戦形式で叩き込むとな、あいつ闇の魔力に興味示して話脱線させるからな……。関わり合いたくないのが本音だ。

 

「仕方がない、か」


 二人とも基本魔法以上、中級ぐらいの魔法は使えるようになったようだし、成長自体はしているんだろう。なら成長しているのには違いない。方向性を整えてやるとするか。


「イレ、オペリオル、お前ら二人で俺にかかってこい」

「え!?」

「はい! わかりました!」


 これまた正反対の回答が返ってきたな。戸惑ったのがオペリオル。元気に返事したのがイレだ。


「俺は理論だなんだはわからん。見て学べ。やって覚えろ」

「だからと言って――」

「なんだ、また地べたを這いつくばされるのが嫌なのか? プライドの高いお貴族様らしいな」

「は?」


 軽く挑発してやると、案の定オペリオルは乗ってくる。

 

「イレ! この高慢ちきな男をわからせてやりますよ!」

「はい! 胸をお借りします!」

「私の話を聞いていましたかあなた!?」


 そらお前ら二人程度で俺に勝てると思う方が傲慢だからだ。俺だってお前らを使って魔力制御やらの実験はしている。ただ教えてやってるだけと思うなよ、俺も確実に強くはなっているんだ。速度はちと遅いがな。

 ともあれ、目的は上手く行った。共通の敵を作ってやれば、同じ目標へ向かってくれるだろう。少しは仲も改善するはずだ。


「目標はお前ら二人で俺に一発でも攻撃を当てることだな」

「結構無茶いいますよねお前。魔法使いの天敵みたいな性能しておいて」

「男連中は近いところまで来てるぞ。お前らに無理だってんなら、まあそんな程度か」


 もちろん、俺が手加減に手加減を重ねた結果だが。先日一太刀当てられそうになった。ようやくわざと作った隙をつくぐらいのことはできるようになってくれたらしい。喜ばしい限りだ。


「何なら、素手で相手してやろうか? 今のお前らじゃかすりもしないだろうがな」

「——っ! ほんっとうにムカつきますねお前。出来ないとでも?」

「ああ、そう言ってる」

「流石にそれは見くびりすぎです!」


 流石にこのセリフにはイレも思うところがあったのか会話に挟まってきた。

 いいぞ、その調子だ。その調子で俺を敵視しろ。

 お前らの間で共通の目標ができれば、もっと協力して目の前のことに取り組んでくれるだろう。オペリオルもイレが理論がわからないことを責めるのではなく、理論をわかるように教える方へシフトするはずだ。


「いいから、かかってこい。安心しろ、怪我をしてもヘエルがいるからな」

「お前は自分の心配をしなさい。私たちを怒らせた分、後悔させてやりますよ」

「はい! ちょっと痛い目に遭ってもらいます!」


 もちろん、二人の付け焼刃な動きでは俺に攻撃など当てられず、魔力切れになるまで散々遊んでやった。

 これでわかっただろう。お前らがその程度の事でもめている間は、俺には到底届かないということをな。

 明日からは改善してくれることを祈るばかりだ。

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