第二十九話:属性付与

 魔境の異常に関しては流石に教師陣が調査するという事で落ち着いた。

 魔境探査の授業の査定としての評価は先送りにされたが、フェレスたちの対応を考えるに悪い結果にはならないだろう

 ヘエルの機嫌もよくなって、結果だけ見ればいいこと尽くめだ。

 そう、思ってたんだがな。


「あの魔法はどういうものなのですか! お前、僕に教えなさい!」

「私の従者ですよ! まずは私を通してください!」

「やかましいでですよヘエル・アストレア! 私は闇魔法の可能性について――」


 魔境探査の授業が終わって平凡な日常が戻ってきたと思ったらこれだ。


「普通の剣で魔剣の真似事ができるなんて聞いたことありません! 何か秘密があるのでしょう、答えなさい!」


 俺としてはオペリオルになら教えてもいいんだが、教えたらヘエルがうるさそうなんだよな……。

 せっかく機嫌がよくなったのにそれは避けたい。


「悪いが、秘密だ。それとも、お前は全て教えてもらわないとわからない程度の人間なのか?」

「ぐっ、言いますねお前。いいでしょう、そこまで言うなら僕自身の手で解明してみせますよ! 僕を煽ったことを後悔するのですよ!」


 オペリオルはこんな調子だから扱いが楽で助かる。プライドが高いってのも使いようだ。

 ヘエルもこのぐらい単純ならいいんだけどなぁ……


「偉いですよコルニクス。これ以上あの女にくれてやるものはありません」

「あのなぁ。一応お前ら同じパーティなんだからな? 仲良くしろよ?」

「それとこれとは話が別です!」


 むくれるなむくれるな。この間からやたらと子供っぽいぞ。

 まあ特訓続きだったのが、一旦休みになったんだから気が緩むのも仕方がないか。

 次の魔境探査訓練に至っては生徒たちだけじゃなくて教師監視の元やるようになるみたいだしな。ちょっと魔物は強くなるが、まあ監視の元なら安全にやれるだろう。

 俺の扱いはどうなんだろうな、そこら辺の教師よりかは俺の方が強いんだが。


「あの! コルニクスさん!」

「ん、イレか。珍しいな」


 姦しい二人が騒いでる横から、イレがやってきた。

 今日はフェレスたちと一緒じゃなくて一人のようだ。


「はい、ちょっと付き合ってもらってもいいですか!」

「あー、ちょっと待ってな」


 俺はヘエルに許可を貰おうと思い、そちらへ視線を戻す。


「ヘエル・アストレア! そもそもあなたは彼を独占しすぎなのです。魔法の発展のためにもっと大っぴらとですね――」

「それ以前の問題として、コルニクスは私の従者です! 彼の動向は主人である私が決めるものであって、断じてオペリオルさんが決めるものでは――」


 言い争いが終わりそうにないのを確認したら、俺は一つ頷いてイレの方へ向きなおす。


「よし、大丈夫そうだな。行くぞ」

「ええ!? いいんですか!?」

「あの調子じゃ何言っても無駄だろ。それよりも相談があるんだろ? さっさと練武場へ行くぞ、実践した方が早いだろ」


 あの調子じゃ話かけたところで黙ってろって言われるのが関の山だ。

 それなら後から説教をもらうのと大して変わらん。悩みを一つ解決できる分イレの相談に乗った方がいいだろ。




 うるさい二人組を置いて、俺たちは練武場へやってきた。

 結局俺が離れて行っても気づかれなかったな。気配の探り方が甘い奴らだ。


「で、どうしたんだ?」

「はい! 先日のコルニクスさんの技を見て、新技を思いついたので試してみたいんです!」

「フェレスやバルバ相手だとダメなのか?」

「あのお二人相手ですと、お怪我させてしまうのではないかと心配で……」


 つまり、そんな危険な技なのか。

 俺相手じゃないと試すのも躊躇うほどに。

 

「わかった。じゃあかかってこい」

「風よ高まり刃となれ『ウェントゥス・ウングウィス』」


 風が集まり、イレの剣の周りに纏わりつく。詠唱がある分、俺も魔力制御のみのやつよりも強固だ。

 だが、それだけならただの剣の周りに風が纏わりついているだけだ。大した意味はない。


「『アペルトゥス』」


 イレの詠唱と共に、遠距離ながら突きを放つ。

 すると、剣にまとっていた風が槍のように突き出され、俺の方へ射出された。

 なるほどな。俺のハイレシスの見様見真似ってところか。


 これだけならばなんてことはない。俺は剣に魔力を纏わせて、散らしてやるだけだ。

 こんなのでフェレスたちが怪我するとは思えんが――


「風よ高まり刃となれ『ウェントゥス・ウングウィス』!」


 以前と同じ戦法。イレは中距離から攻撃し、対応しているうちに接近してきた。

 先ほどと違うのは、接近する際に剣に風を纏わせている点。纏っている風の量が先ほどの比でない点。

 おい、まさかこいつ――


「『アペルトゥス』!」


 イレが狙っていたのは超至近距離での風の解放。

 今度は指向性を持たせた風ではなく、爆発のように全方位に風が散る。

 先ほどの風の槍とは比べ物にならない暴風が狭い空間に吹き荒れる。中にいるものを削り殺すように。


「……確かに、まともに喰らえばきつそうだな」

「あう。またダメでした」


 攻撃の瞬間に狙いを察知して、一瞬でイレの背後に回り込まなければ俺も危なかった。

 咄嗟にイレの首元を後ろに引っ張り、引かせてやったからイレも無事だ。本当に危ないことをする奴め。

 こいつがやろうとしていたことは自爆特攻一歩手前だ。

 超至近距離での戦いが苦手なら、攻撃してくる相手ごと吹き飛ばしてしまえという逆転の発想。俺のハイレシスが原型とはいえ、恐ろしい技だ。


「威力は悪くないが、自分ごと巻き込むだろあの範囲は。もっと魔力制御を磨かない限りは実戦での運用はさせられんな」

「やっぱりそうですよね……」

「後は、決着用にとっておくなら牽制にこの技は使うな。様々な活用法があるのはいいことだが、対戦相手に判断材料を与えてやるのはただの利敵行為だ」


 疑似魔剣の真似事としては出来がいい。イレがやったこと自体は原作でも技としてある属性付与。原作と違うのは、纏わせた魔力を発散させるという発想だな。

 ——待てよ。属性付与が疑似魔剣と似ているのなら、属性付与で出来ることは疑似魔剣にも応用できるんじゃないか?

 属性付与には幾つかの派生がある。剣に付与するもの、拳に付与するもの、言葉に付与するものなど、意外と分類は多い。


「……ははっ、よくやったぞイレ。これで俺はまた強くなれる」

「はい? お力になれたのなら、よかったです?」


 何もわかってなさそうなイレをおいて、俺は得た発想の活用方法を考えるのだった。

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