第二十八話:迫ってくる“原作”
回収されたけが人たちは全員医務室で保護され、魔力の使い過ぎで倒れたヘエルも医務室で一時的に保護されることになった。
俺は目覚めるまで側にいるという名目で、ヘエルの寝ているベッドの隣に座っている。
やたらと幸せそうなヘエルの寝顔を見ながら、俺は考え事をしていた。
今回の事を考えると、やはり原作通りイベントは起こると考えた方がいいだろう。
その原因は、裏路地で原作の俺のポジションに収まった“あの方”とやらと考えていいはずだ。
魔物の大量発生や原理は詳しくは原作で語られていなかったが、おおよそ推測はつく。
魔石だ。魔物の核となるのが魔石なら、魔石から魔物を作れてもおかしくはない。
そうなると、今回は少なくともオルトロスが産まれるレベルの魔石が使われていたことになる。そのレベルの魔石を路地裏の連中が入手できるのか? どうやって?
“あの方”が用意したと考えた方が自然だ。だとすれば、“あの方”はそれだけの魔石を手に入れられる程度の実力、あるいは権力がある人物となる。誰だ? 誰がそんなことをする?
俺がこうなった以上、原作の展開は起こらないと考えていたが、そうではないのか? 原作の展開は今後も同じように起こるのか? しかも、原作よりも悪化した状態で?
原作と同じ展開になるのなら、“あの方”が悪魔の力を求めるのならば、そうなったとき、俺は――
「ん、コルニクスぅ~。ダメですよぉ~」
「おいこら何変な夢見てやがる」
あまりにもふざけた寝言が聞こえて腹が立ったので、デコピンをしてやった。
「痛い! ……あれ、コルニクス? どうして服を?」
「マジで何の夢を見てたんだお前……」
起きたと思ったらなんだこいつは。普通に言っていることやばい奴だぞ。
あんなことがあったのに呑気なもんだ。いいことなのかもしれんがな。
「よくやった。言いたいことは多々あるが、まずは褒めてやる」
「はい?」
「よく全員を守り切った。今回死人が出なかったのは、間違いなくお前の功績だ」
本当にこれだけは褒めていい。あれだけの数の魔物を相手にして何とかなったのは間違いなくヘエルの功績だ。
オルトロスを抑えていたフェレスとバルバ、けが人を集めていたイミティオ、範囲魔法で魔物の数を減らしていたオペリオル、魔物の集団を引き付けていたイレ。全員各自の役割をこなしていたが、死者を出さなかったのはけが人をまとめて守っていたヘエルの仕事があってこそだ。
俺に褒められたのがよっぽど嬉しかったのか、ヘエルの目がらんらんと輝きだした。
「ご褒美を要求いたします!」
「この流れで要求を聞くのは怖いな」
「頑張ったからご褒美をください!」
要求を断ることは簡単だ。だが、頑張ったのも事実。
悩みに悩んだ末、ため息を一つ吐いた。
「——わかった、何をしてほしい」
「抱っこ!」
「子供か!」
「じゃあ頭を撫でてください!」
「だから子供か!」
どんな要求をされるのかと怯えていたらこれだ。
深く考えていた俺の方があほらしくなる。
子供らしく目を輝かせているのを見ると、今更拒絶するのも悪い気がしてくる。
もう一度ため息を吐いた。
「……よくやった。流石は俺のご主人様だ」
そういって頭を撫でてやると、茹で上がったかのようにヘエルの顔が赤くなり、再び倒れてしまう。
「——まだ夢を見てるみたいです」
「残念だな。もう現実だ」
こんな他愛のないやり取りをしてると、本当に笑えてくる。
あれだけの死地を超えてなお、こんな調子でいられるなんて大物もいいところだろう。
「コルニクス、私がまた寝て起きてもそこにいてくれますか?」
「ああ、いいぞ。その程度ならな」
まだ疲れていたのか、安心しきった表情でヘエルは再び眠りについた。
まったく、そんな状況でよくあんな子供らしい要求が出来たもんだ。
「……眠ったかな?」
「ああ、ぐっすりだ」
「気が付いてたんだね」
「そりゃあな」
奇跡的にベッドでお世話にならない程度の怪我だったフェレスがすぐそばまでやってきていた。
気を利かして気配を消したつもりだったらしいが、俺からすればまだまだ未熟だ。お前程度の気配すぐにわかる。
「周りの人たちは今のを聞かされていたわけ?」
「俺に言うな。周りの目を気にしないヘエルが悪い」
ここは保健室であり、周りには仕切りがあるとは言え他に負傷者のベッドが並んでいる。
見えてはいないだろうが聞こえてはいただろう。しばらく学園中の噂は免れないだろうな。
……そこまで覚悟済みでやったことだ。ヘエルのご機嫌取りの方が重要性は高い。
「ねぇ、コルニクス。君はどう思う」
「どう思うも何も、大方お前と同じ考えだ。今回の事件、人為的な作意が透けて見える」
「だろうね。そしてそれは――」
「“あの方”、だろうな。犯人は」
覚悟は決まった。
原作が追ってくるとしても、俺は正面から打ち砕いてみせよう。
“あの方”が悪魔の力を望むのなら、俺かヘエルに手を出すはずだ。そんなことさせてやるものか。
原作? 知ったことか。俺は最強になる男だぞ。何を恐れることがある。
「“あの方”がどこの誰だか知らないが、俺を敵に回したことを後悔させてやる」
はらわたが煮えくり返りそうな思いで、俺は言葉を吐き出した。
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