第二十五話:魔境探査授業
ついに魔境探査の実習授業がやってきた。
始まりの平原と呼ばれる魔境で、主に学園での授業で使われている魔境に探査に行くことになっている。大した魔物も出てこないし、見晴らしがいいから魔物との遭遇率も選びやすい。初めてにぴったりの魔境というわけだ。
俺も護衛としてついて行くのかと思ったら、魔境外で一旦待機するらしい。
俺ぐらい強い奴がいると、この程度の弱い魔境だと魔物が寄ってこない可能性があるだとか。それもそうか。魔物と戦うための実習授業で魔物側に避けられるんじゃ元も子もない。
「と、言うわけでこの魔道具に魔力を込めれば俺に伝わるようになっているらしい」
学園側が用意した魔道具は一対の鈴のようになっていて、片方に魔力を込めて鳴らすともう片方が鳴る仕組みになっているらしい。これを鳴らすことによって、救援が必要かどうかを見極めるということだ。
「流石に緊張するね……」
「安心しろ、俺より弱い奴しか出てこない」
「コルニクスより強い魔物が出てきたら全滅するしかありませんよ!」
ヘエルの言う通りだ。だが、そんな奴こんな雑魚魔境で出現するわけがない。
「俺が教えた通りにやれば大丈夫ってことだ。荷物は持ったか? 確認だけはしとけよ」
やれやれ、こうなると完全に保護者だな。
「僕とか魔力制御しかやってないですけど、大丈夫ですかね」
「オペリオルさんは私と一緒に頑張りましたから大丈夫ですよ!」
女組は元気だな。まあ、男組と違って俺にサンドバッグにされてたわけじゃないしな。
フェレスとバルバの連携はまあ見れる程度には整えた。やっぱやればできるじゃないかと褒めた時にやたらと嬉しそうにしてたのは見てて面白かったな。すぐに調子に乗ったからわからせてやったが。
正直、この魔境時点では過剰と言える程度には鍛え上げた。
原作ではこの魔境にしてはちょっと強めの魔物が出てくるイベントがあったが、それも無事に乗り越えられるだろう。何か異常でも起きない限りはな。確実は魔境にない。
「そういえば……リーダーとか決めてなかったけど大丈夫かな?」
「しょうがないですね。ここは優等生である僕が――」
「フェレスでいいだろ」
「そうですね、私もそう思います」
「ちょっと!? 僕のことを無視しませんでしたか!?」
ふと、原作でのこいつらの事を思い出す。
原作でのこいつらは、はっきり言ってしまえば余り物の寄せ集めパーティだった。
ヘエルは人間不信だし、バルバはアホ、オペリオルは傲慢で、イミティオははぐれ者。イレは元気なだけで誤射しまくるし、フェレスが残ってたのが奇跡なぐらいまとまりがないパーティだった。
そらこの程度の魔境でも苦戦するわ。そんな奴らが世界を救ったんだから、物語ってのは何が起こるかわからんものだ。
「そうだな。フェレスが適任だろう。んで、副リーダーはヘエル、お前がやれ」
「私ですか?」
「一番パーティ内のリソースを管理しやすいのがお前だ。フェレスが判断できるように、情報の整理を手伝ってやれ」
抜擢されたのが以外だったのか、へレスは目を丸くしている。
なんだかんだこの中で一番情報処理が早いのがへエルなのは、ここ最近の訓練を通じて理解している。オペリオルも悪くはないが、性格がな……。
バルバとイレは典型的な指示通りに動かした方がいいタイプだ。イミティオはそもそも独立して動かす駒だから指揮系統に組み込むのが間違っている。
「このグループは賑やかですね。初めての魔境だとは思えないほどに」
「アルウス学園長」
誰かが来ていたかと思えば、入学式で長ったらしい挨拶をしていた学園長か。
「各グループの様子を見て回ってますが、あなた方が一番落ち着いてますね」
「それは……いっぱい訓練してもらいましたからね」
「鬼教官がいたからな」
フェレスとバルバがこっちを見ながら言うもんだから、イレが噴き出して笑い出した。
「適度な恐怖心は大事ですよ。魔境では何が起こるかわかりませんからね」
「それは承知しているつもりです。鈴があるとは言え、間に合うかもわかりませんからね」
「この程度の魔境で死ぬ奴は道で転んだだけで死ぬだろ」
「コルニクス! そういう事を言うんじゃありません!」
悪いが事実だ。この魔境に至っては、魔力がない一般人が剣を持って入って魔物を狩ることができる程度には魔物が弱い。この魔境で死ぬような奴は致命的に向いてない奴だ。
「ふふふ、なるほど。噂通りのお人のようだ。彼らが出発した後、少し時間を貰っても?」
「俺にか? まあ、構わんが……」
隣で学園長相手に普段の口調なのを直せとヘエルが言ってくるが、知ったことか。特に咎められてないんだからいいだろう。相手もそれを望んでなさそうだしな。
「ま、見送りが終わってからだな。一応、俺が教えた連中だからな。一番の成果を持って帰ってもらわないと」
「おっと?」
「さらっと僕たちにプレッシャーかけますねコルニクスは……」
「まあまあ、それだけ期待してくれてるってことだよ。そうだよね?」
「さあ、どうだかな」
客観的事実として、周囲を見回してもこいつら以上の仕上がりのパーティはいなさそうだ。
人数が多い分仕上げるのも難しいのに、一番よくできてるのだからトップの成果を持って帰るのは当然だろう。
「それでは! 第一回の魔境探査訓練を始める!」
遠くで教師の一人が掛け声をかけた。
そのもとに生徒たちが集まり始める。
さて、あいつらはどんな成果を持って帰ってきてくれるか楽しみだな。
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