第二十二話:パーティ揃って

 改めて俺は集まった面子を確認する。

 前衛のフェレス、バルバ。中衛のイレ。後衛のヘエル、オペリオル、イミティオ。

 イミティオは戦闘に関与しないとして、この面子で重要になるのはフェレスとバルバの連携だ。二人の息が合わないとイレも自由に動けないし、オペリオルは誤射の危険性から魔法を容易に打てなくなる。


「つまり、お前ら二人がかりでこの調子じゃ、お話にならないってことだ」


 目の前に傷だらけで転がっているフェレスとバルバを見て、俺は言い放つ。

 二人がかりで俺に向かわせてはなぎ倒すという訓練をひたすら繰り返している。

 このパーティの中核はこいつらだ。こいつらが形になれば合わせる形で他が動ける以上、こいつらを何とかしないといけない。


「ヘエル。回復してやってくれ。終わったら続きだ」

「はい。えと、本当にこれで大丈夫なのでしょうか?」

「問題ない。魔境探査の授業までには間に合わせる」


 そう、全ては魔境探査の授業のための訓練だ。

 この学園では魔境探査の結果がかなり重視されているらしい。貴族の義務さえ果たせるようになればそれでいいってことか。わかりやすくて何より。

 原作ではこいつらはとにかく魔境に潜りまくっていた。その結果大変な目に何度もあっていたのだが……まあ成長の機会を得られたと思えばいいだろう。

 問題は、あくまでも原作は全て上手くいった場合ということだ。状況によっては平気で全滅する、というかしてもおかしくない魔境は幾つもある。

 生徒でない俺が付きっ切りというわけにもいかないだろうし、こいつらを魔境で死なない程度に鍛え上げてやらないといけない。


「イミティオ、俺の動きの気配は掴めているか? 殺気は感じ取れているか?」

「あ、ああ。何とか、いや、多分ぎり……」

「ならいい。お前は感覚を研ぎ澄ませるのに集中しろ。それがお前の役割になるからな」


 もちろん学園の授業でも魔境探査の訓練はしているが、それだけでは不安が残る。

 というか不安しかない。俺の目の前の息が合わなさすぎる二人を見ればわかる。こいつらよく原作で一緒に戦えてたなと思うぐらいには酷い。

 待て、原作では連携という要素はそういえばなかったな。おそらく最初は酷い状況だったのが、実践を重ねて良くなっていったのがレベルアップとかそういうので示されていたのだろう。実力を発揮できていなかったのが、どんどん実力を発揮できるようになっていったわけだ。

 ようは練度の問題だ。繰り返せばいつか上手くなる。俺もそうだった。


「オペリオルとイレの調子はどうだ、ヘエル」

「はい。多分コルニクスが言ってた通りだと思います」


 二人には魔法の制御方法を教えた。魔力制御が上手くなれば、もっと上級の魔法も使えるようになるだろう。あの二人は基本的な能力を上げるより、使える手札を増やした方が効率よく強くなれる。


「あの、コルニクス。私は何をすればよいのでしょう」

「ヘエル、ヘエルか……」


 正直ヘエルは何もしなくてもいい。既に光属性という点で完成されているからだ。

 光属性は治癒や浄化が特性なだけあって、怪我の治療などが得意だ。後は疑似的な結界を張ることもできる。

 つまり、練度を上げる必要性があまりない。


 そう言い切ってもいいが、最近のヘエルはないがしろにするとかなり圧力を出してくるので止めておきたい。

 しいて言えば魔力操作の向上なんだが……


「フェレスとバルバの怪我の治療してれば上手くなるしなぁ、それは」

「?」

「いや、なんでもない。ちょっと考えさせてくれ」


 そういえば、結界の発動には集中力が必要だって話があったな。

 なら集中力を上げる練習をさせておくか。


「いつでも集中できるようにしておいた方がいいな。何かあるか? 集中力を高める方法」

「ありますけれど……いいんですか? そんなことで」

「いつでも集中して魔法を発動できるようにしておくのは重要なことだ。特に光魔法はこのパーティの生命線だからな」


 集中力を高める自分なりの良い方法があるならば実戦した方がいい。

 そういうと、ヘエルは俺の顔をじっと見つめてくる。


「……なんだ」

「高めてます。集中力」

「……そうか」


 何か言うのは藪から蛇が出てきそうなので止めた。深く聞かない方がよいこともあるだろう。

 最近のヘエルは下手に触ると怖い目に遭う。俺だって学習はする。


「それじゃ、そろそろお前ら起きろ」


 横たわっているフェレスとバルバの二人を蹴り飛ばす。


「いってぇ! 傷は治っても疲労までは治らないんだぜ!」

「まったく、これ以上にないくらい師匠にしたくない人だね」

「死ぬよりかはマシだと感謝しろ」


 多分お前らより定期的に俺から殺気を飛ばされてるイミティオの方が疲弊してるぞ。視界の端で怯えてるのが見えるし。

 お前らには大分手加減してやってるんだからそろそろ連携を覚えてくれ。


「魔境探査までの期間、自由時間は今のをひたすら反復だ。体に叩き込んでやる」

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