第二十一話:最後の一人
イミティオ・シュンプハ。“ナートゥーラ”において、
だが、こいつという存在は“ナートゥーラ”攻略において非常に重要な役割を果たす。
「……なんだ。人気者様が俺みたいなのに何の用だ」
「——単刀直入に言わせていただきます。今度行われる魔境探査、そのメンバーに誘いにきました」
イミティオはヘエルの言葉を聞いて、卑屈な笑いをした。俺が鼻で笑うのと似ているようで、どこまでも自分を卑下するような笑いだ。
「俺みたいな役立たずを? 冗談はやめてくれ、笑えもしない」
「私は本気です、シュンプハ伯爵子息」
「その呼び方はやめてくれ。頼むから。俺なんかを呼ぶ時はイミティオでいい」
イミティオはこの世界の貴族として決定的な欠陥を抱えている。——魔力をほぼ保有していないという欠陥を。
「話は聞いてるさ。仲良しこよしの優秀グループ。俺もその中に入れって? 魔力なしに?」
「それは――」
俺はあえて口出しをしない。なぜこいつが斥候として優秀なのか、使う側の人間が把握してなければ意味がないからだ。
俺が教えてもいいが、それだと咄嗟の判断に影響が出る。自分で考える癖はつけた方がいい。
「魔力がないからこそ、です」
俺は僅かに笑みを浮かべる。きちんとうちのご主人様は正解を導き出していた。
「冗談はよしてくれ。魔力がないことが何の役に立つ」
「魔物の中には魔力量で生物と非生物を見分ける存在がいます。また、魔力に強い反応を魔物が示すことは結界によって証明されています」
「そうだな、それで?」
「あなたなら、魔物に見つからずに魔境を探索できるのではないかと、私は考えています」
貴族において魔力がないことはマイナス要素でしかない。貴族の義務である魔境探査で戦うのに大きなマイナスなのに加えて、結界の張り直しもできない。これだけ聞けばただの役立たずだ。
「魔物に見つかりづらいことに何の意味がある。俺だけ逃げやすいってか? はっ、これ以上恥の上塗りをして何になる」
「貴方がもたらす情報が、私たちを助けてくれる可能性があります」
一瞬だけイミティオが反応し、すぐに元の通りの気だるげな様子に戻る。
「……ありえない話だ。俺なんか、必要だとは思わない」
「私はそう思いません。私は貴方に価値があると考えています」
「価値、ね」
イミティオはそう言って黙りきっている。
よくもまあそこまで刺さる言葉回しができるものだ。うちのご主人様は思った以上に弁論が得意らしい。
イミティオは自分に価値がないと思っている。育ちの影響だ。魔力がないこいつは、実家で冷遇され続けていた。だから自分の価値を信じられないでいる。
今、ヘエルはイミティオの価値を説いている。お前は使えるのだと、必要なのだと焚きつけている。欲しかった言葉を、相手の心がわかるかのように説いている。
原作の知識を持っている俺でもここまでの言い回しはできないな。
「本当に、本気で言っているのか?」
「はい、私は本気で言っています。イミティオさん」
「……少し考えさせてくれ」
「どうぞ」
自由時間が始まって、終わるまでの間、俺たちはイミティオの前で立って待った。
そろそろ次の授業が始まるだろうというころになって、ようやくイミティオは口を開く。
「どうせ、予定通りなら余る身なんだ。なら今更だな」
「では」
「ああ、あんたたちのところに加えさせてくれ」
——これで原作パーティがそろったな。
フェレス、ヘエル、バルバ、イレ、オペリオル、イミティオ。原作通りならば、悪魔に取りつかれた
そう考えると、こいつらを育てた後に倒してしまえば、俺は原作の俺を超えた証明になるってことか。どうやって原作の俺を超えたのか証明するのか思いつかなかったが、案外何とかなりそうだな。
「話は決まったようだな」
「ああ。あんたが噂の闇属性騎士さんか?」
「コルニクスだ。イミティオ」
「よろしく頼むよ、コルニクス。俺に教えてくれるのはあんたなんだろう?」
「そうなるだろうな。きちんと仕事ができる程度には鍛えてやるよ」
前衛組の連携も問題だし、斥候の技術も教えないといけない。俺の仕事が随分と多いな?
……まあいいか。いずれ俺が最強という証明の立役者になってくれる人物たちだ。そのぐらいは手間をかけても損はないだろう。
「まずは気配を消すところからだな。具体的なやり方は次の自由時間に練武場でやるぞ」
「わかったよ。因みに、あんたは厳しい系か?」
「超厳しい系だ。覚悟しておけ」
今からでも入るのを辞退するのはありかと問うてくるイミティオを笑い飛ばしてやった。
女の甘言に惑わされた馬鹿野郎め、と。
「それを言ったら、コルニクスも私の言葉に乗せられて私の従者になりましたよね?」
おっと、どうやらこの話題はしない方が賢明だったらしい。
墓穴を掘ったな。次からは気を付けるとしよう。
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