第十八話:魔法剣士
「フェレス!」
「バルバ、連れてきたよ」
「よう」
よく来てくれたと俺の背中を叩くバルバ。こいつ、あれだけ格の違いを見せつけてやったのにあまりにも距離感が近くないか?
こいつなりの尊敬の表し方なのか? わからん。
「んで、この子が話に出てたイレ」
「どうも! あたしはアーレア男爵家のイレ! よろしくおねがいします!」
「元気のいい奴だな。コルニクスだ、よろしく頼む」
ピンクブロンドを短くまとめた女、間違いなく原作のイレ・アーレアだ。
魔法剣を使う中衛型剣士。俺が最終的に目指すべき形の模範解答だ。
まだ発展途上だろうが、参考になるところはあるだろう。先駆者だからな。
「……ねぇ、コルニクスのタイプってこういう子なんですか?」
「ヘエル、唐突になんだ」
「だって、私たちとの対応の差が激しくないですか?」
「お前なぁ……」
ため息をつく。発想が突飛すぎるだろう。
「方や礼儀正しく挨拶してきた戦士。方や姦しい女。同じ対応をどうして期待できる」
「ううっ」
「思うところがあるなら改めろ」
「私の従者が冷たい……」
毎回騒がれる側にもなってほしい。まあ、流石に慣れてきたんだが。
「あの、コルニクス、さんはヘエル様の従者なんですよね? いいんですかそんな態度で」
「気にするな。いつもの調子だ」
「はぁ……。それでは、さっそく手合わせの方はお願いしても?」
「ああ、構わん。胸を貸してやる、かかってこい」
俺とイレだけが練武場の中に立ち、残りの面子は端に寄る。
お互いに背中を合わせてから、正面に三歩ずつ歩き、距離を取る。
「構えろ。好きな時に好きなように攻めてこい」
「では行きます。風よ高まれ、『ウェントゥス・ウェスティス』!」
風がイレの体を包み込むように吹き荒れる。
風の鎧か? いや、どちらかというと動作の補助か。風の力を得て、少しばかり動きの機敏さを上げるのが目的の魔法か。
「風よ切り裂け!『ウェントゥス・ウォラーレ』」
風の刃がイレから放たれ俺に近づいてくる。
俺はそれを魔力をまとわせた木剣で薙ぎ払い――懐に入ってきているイレに視線を移す。
飛び道具で隙を作り、敏捷性を活かして接近戦に持ち込む。有効的な戦術だ。
俺は振り払った木剣をそのまま返し、懐へもぐりこんできたイレへ向かって振り下ろす。イレが攻撃に入るより俺の動作の方が早く、イレは対応を余儀なくされる。
「……っ!」
「まだ遅い!」
魔法の補助を受けていたイレはかろうじて木剣をよけたが、その後の体勢が崩れてしまった。
俺はそこを見逃さず、空いている左腕を伸ばしイレの胸倉をつかみ、そのまま地面に引き倒す。
動けなくなったイレの首元に剣先を突き付けて、一連の戦いは終わりだ。
「肉薄戦闘の経験が足りていないな。相手の獲物にばかり意識が向いていて、俺の左腕に全く注意が向いていなかった」
「……はい、その通りです!」
「目論見は悪くなかった。後は経験だな」
やはり、魔法で動きを補助して遠近使い分けて戦う方式。これは俺が目指すべき戦い方だ。
問題は、闇属性の魔法にはあまり有効な遠距離攻撃手段がないということだが……何とかする目論見は立っている。
やたらと視線を感じると思ったら、今にも参加したそうにしているバルバとフェレス。こちらをじっとりと観察しているオペリオル。俺を見て不満を露にしているヘエルと全ての視線が注がれていた。
「——どうした、三対一でかかってくるか?」
「「「!?」」」
後者二人は無視することにして、前者二人は混ぜてやるとしよう。
「イレ。構わないか?」
「わ、私は大丈夫です。でも、コルニクスさんが……」
「俺は最強になる男だぞ。今のお前ら三人程度でかかってこようが負けん」
思えば、俺が関与していないと言えどベヘモトが登場するというイベントが起きたんだ。俺がいなくても原作のイベントが起きないという確証はない。
何かあった時こいつらが対応できるように鍛えておいて損はないだろう。わざわざ俺の手を煩わせなくてもいいようにな。
「うん、バルバ」
「ああ、この余裕ぶっこいてる野郎を三人でぶちのめしてやろうぜ!」
「よ、よろしくお願いします!」
「かかってこい! お前らの今の全力を俺にぶつけてみろ!」
この三人相手となると、イレが距離を取って死角から牽制、バルバが正面から戦闘、フェレスがバルバに合わせる形で俺に迫るのが理想的だろう。
戦いの想定図を描いて、いざ戦ってみると――酷いものだった。
「……お前らなぁ」
「バルバ! 君はもっと周りを見てだね――」
「そういうフェレスも合わせ方ってもんがあるだろうが!」
「ごめんなさいごめんなさい、私がミスしてごめんなさい!」
連携の欠片もない動きに、一対一の時よりも酷い結果に終わってしまった。
お互いのやりたい動きを強調しすぎて、息があってなさすぎるのだ。
バルバは横にいたフェレスを叩くわ、俺が避けたイレの魔法をバルバが正面から喰らうわ、本当に一緒に訓練してた仲なのか疑いたくなる酷さだ。
控え目に言って、酷い。後ろを任せられた分、まだ俺を後ろから突き刺したあの騎士どもの方がまともな動きをしていた。いや、生徒を一応騎士と比べるのもおかしな話ではあるんだが。
今後の課題だなとため息を吐く。
この時の俺は、まだ気が付いていなかった。
俺を見る異常な視線に。
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