第十五話:宣戦布告

 本日は魔法の授業という事で、俺もヘエルについている。

 魔法の授業を担当するのはメルという女性教師だ。


「魔石に魔力を込める他、魔法を使うのに魔力の運用は欠かせません。そのためには、第一に自分が何属性の魔力に適性があるのかを知る必要があります」


 魔力にはそれぞれの属性に特徴がある。例えば、俺の闇属性は吸収と放出。ヘエルの光属性ならば浄化と治癒といったところだ。他の四属性、火水風地にもそれぞれの性質がある。


「皆さん、一人ずつ前に出て、この水晶に魔力を込めてください。そうすると、水晶の色が自身の適性の属性の色へと変化いたします」


 教師が試しに水晶に手をかざすと、水晶の中で青色が渦巻く。水属性の適性を表す印だ。

 順番に前へ出ていく生徒たちを見ながら、俺は原作でのキャラの属性を思い出す。

 確か、フェレスは火属性で、バルバが地属性だったか。原作連中は割とバランスよく属性分布していたが、一人だけおかしな奴がいて――


「なんと! 四属性全てに適性があるだなんて!」


 教師の叫び声が響いた。

 ——オペリオル。あいつは光と闇を除く四属性、火・水・風・地の全ての魔法を扱うことができる。性質の違う四属性をまとめて使えるのは間違いなく天才と呼んでも差し支えない才能だ。俺よりは弱いが。


「まあ、僕は天才ですからね。このぐらいは当然ですよ」


 オペリオルはそういいながら、視線はヘエルの方へ向けている。

 プライドが高い奴だ。家格もヘエルと同じ程度なんだったか? 新入生代表の座を奪われたのが相当気に食わないみたいだな。

 ま、俺が側にいる以上手出しはさせないが。


「では、次は私の番ですね」


 ヘエルが席を立ち、水晶に手をかざす。

 すると、水晶が眩く輝きを放ち、白色に部屋の中を照らした。


「おおっ! 光属性ですか! 四属性以外の属性は滅多にいないのですよ」


 オペリオルの時と同様かそれ以上のざわめきが起こる。

 嫉妬に顔を歪めた女の顔が俺の視界の端に映った。

 面倒なことにならなければいいが。


 属性の定めが終わった後は、基礎的な魔法の使い方の講義になった。


「各属性にはそれぞれ特性があります。主要四属性に加えて光、闇の六属性が現在確認されている属性であり――」


 俺にとっては退屈な話だ。魔法の使い方なんて知っている。原作知識とやらのおかげだがな。

 すぐ横では、必死になって教師の話を聞いているヘエルがいる。こいつは真面目だな。この程度の話ならば事前学習で学んでいただろうに。

 必死にあくびを堪えつつ、ヘエルの方へ意識をずっと向けているオペリオルへ視線を向ける。

 ああいう手合いは路地裏にもいた。プライドばかりが高くて、自分が一番でないとわかると何をしようとしてでも蹴落としに来るタイプだ。ああいうのは、叩けるうちに叩いておくに限る。


 魔法の授業の一回目は座学という事で、特に何事もなく終わった。果たして俺が必要だったのか疑問だが、魔法の授業には護衛をつけてもいいという決まりがあるらしい。

 次からは逃げてやろうかと考えていると、こちらへ近づいてくる人物がいる。


「ヘエル・アストレア! 君に勝負を挑ませてもらいます!」


 すぐ近くまで来て啖呵を切ったのは、案の定オペリオルだ。

 都合がいい。向こうから来てくれた。


「オペリオルさん。まだ魔法の実践授業はしてませんよ」

「いいえ、先生。僕たちの家格であれば、既にその程度は行っているはずです。実際、彼女はこの時間中を復習にのみ費やしていました」


 教師が止めに来るが、オペリオルはそれでも突っ走ってくる。

 よく観察しているもんだ。

 ヘエルが少しだけ驚いた様子を見せて、一歩だけ下がった。なので代わりに俺が一歩分前に出る。すかさず後ろに隠れるようにずれやがった。こいつめ。


「随分と急だな卑怯者さんは」

「なっ! 僕を卑怯者呼ばわりとは、無礼ですよ従者風情で!」


 言い返してきたので鼻で笑ってやる。

 オペリオルの顔がみるみるうちに赤く染まっていく。


「光属性は直接戦闘が苦手な属性だ。で、相手の苦手分野で叩きのめそうって言う卑怯者がなんだって?」

「それがどうした! 貴族であれば魔物と戦う義務がある。戦えないというのは言い訳ですよ! それに、アストレア令嬢は貴族として強くあると演説してみせたじゃないですか!」

「そうだな。だが、それは今ってわけじゃない。訓練し、練習し、力をつけた後だ。お前は今すぐ魔境に行って戦うってか? なら応援してやるよ」


 沈黙の森に行ったときがそうだったように。学園で基礎を学ばないうちから戦いに放り込まれるのは話が違うんだろう? ここは戦い方を教えてやる場所のはずだ。

 路地裏とは違う。戦えなければ死ぬだけの場所じゃない。


「どうしても不服ってんなら、その喧嘩、俺が買ってやるよお貴族様。それとも、路地裏のガキ相手じゃ怖くて手が出せないか?」


 ちょいちょいと指を曲げて挑発してやると、オペリオルの赤く染まった顔が怒りに歪んでいく。

 面白いなこいつ、表情豊かで。


「とことん人を馬鹿にした男ですねお前は。いいでしょう、このオペリオル・ピンサエスを侮辱したことを地に這いつくばらせて後悔させてやります。身の程を知るといいでしょう」

「知ったことか。俺は最強になる男だ」


 こうして、俺とオペリオルの一騎打ちが決まった。

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