第十二話:原作主人公
数日の旅を経て、学園にたどり着いた俺たちはさっそく学園の寮へと向かった。
入寮の手続きは問題なく終わり、
「では、こちらで待っていてくださいね」
「ああ、わかったよ」
さっさと行って来いと手で払ってやると、何が嬉しいのかヘエルは笑顔で手を振って女子寮に入っていった。
その後ろを荷物をもった女性使用人たちがついて行く。基本的にヘエルの身の回りの世話はあいつらの仕事で、俺は特にやることがない。自由時間が多い仕事だ。
「さて、ここからどうするか……」
言われた通り待っていてもいいが、それは暇だ。
多少離れても文句は言われないはずだ。どうせ準備に時間がかかるのはわかりきっている。
「君、そこで何をしているんだい?」
この場所から離れようとした瞬間、声を掛けられる。
「ん? 誰だお前は」
「なっ! 初対面の相手に向かって失礼だろう」
見覚えがあるような無いような、なんとも特徴的な赤髪の男が俺に因縁つけてきやがった。
服装を見る限りは生徒のようだが――
「僕はフェレス、フェレス・フルゴル」
「そうか」
「そうか、じゃないだろう! こちらが名乗ったのだからそちらも名乗るのが礼儀だろう!」
高圧的なやつだな。
面倒くさそうな相手だ。あんまり関わり合いたくはないな。
「コルニクスだ」
「ではコルニクス。君は女子寮の前で何をしていた? まさか、侵入をもくろんでいたわけではないだろうね」
「んなことするかボケ。人を待ってんだよ」
「ボケとはなんだ! 君はいちいち人を馬鹿にしないと会話できないのか!」
真面目なやつだな。というのが第一印象だ。
待った、この真面目さ、赤い髪色、覚えがあるぞ。というか思い出した。
こいつ原作主人公じゃね?
“ナートゥーラ”における主人公がやることはシンプルだ。学園に通いながら、路地裏という国の暗部が働く悪事に対応しつつ暗部に触れていくストーリーになっている。
学園に路地裏が関わることになったのは、路地裏を統べた俺が学園に封印されている悪魔の力を求めたからで――と、ストーリーはとうに破綻している。
つまり、目の前の原作主人公はただの一生徒という扱いになる。
「正義感が強いのは何よりだけどな。推測だけで人を犯罪者呼ばわりするのは失礼じゃないのか?」
「む、それは確かにそうだ。それは謝るよ、すまなかった」
真面目か。思わず言葉にしかけてしまった。
「いや、入学式前に女子と関係を結ぼうとしている奴らがいるって話を聞いてね。てっきり君もそういう輩だと思ってしまったんだ」
「服装を見ればわかるだろうが。制服着てないだろ。俺は生徒じゃなくて使用人側だ」
「それもそうだね。ごめんよ、僕が誤解していた」
……意外と素直だなこいつ。それに、使用人であることがわかっても態度が変わらない。
原作でもそうだったが、いい奴かこいつ?
「コルニクス、お待たせしました。あら、そちらの方は?」
「人を犯罪者呼ばわりした不審者一号だ」
「その言い方は悪意しかないんじゃないかな!?」
「冗談だ。不審者探しに精を出す変人だ」
「その言い方も語弊を生むんじゃないかな!?」
面白いなこいつ。結構楽しくなってきたぞ。
そうやって遊んでいると、俺の隣までヘエルがやってきて優雅にお辞儀をした。
「私の従者がご迷惑をおかけしたようで、謝罪いたしますわ」
「謝る必要ないぞ。難癖付けてきたのは実際にこいつだ」
「コ、ル、ニ、ク、ス?」
お前はこれ以上黙っていろというオーラをヘエルから感じたので渋々黙る。
あんまり怒らせてもいいことはないしな。断じて怖いわけではない。
「お名前をお聞きしてもよろしいでしょうか。私はヘエル・アストレアと申します」
「アストレア侯爵家の……っ! それは失礼いたしました。自分はフェレス・フルゴルと申します」
「フルゴル。フルゴル子爵家の方ですか、ご実家の武勇はかねがねお伺いしております」
どうやらヘエルはフェレスの実家の事を知っているらしい。
子爵、子爵家か。まあ貴族だから偉いんだろ。で、様子を見るに多分ヘエルの方が偉い。
「アストレア家の方に知られているとは光栄です。トートゥム卿はお元気になさってますか」
「ええ。今度フルゴル家のご子息が気にしていらしたと伝えておきますね」
「ありがとうございます」
和やかな雰囲気だな。俺が挟まる余地はなさそうだ。
原作の展開について考えることにした。
二人の本来の出会いは入学式の後だったか。入学式が終わって解散となった後、道に迷っていたヘエルをフェレスが見つけて案内してあげるんだったか。
つまり二人の出会いは少し早まったってことか。
ん? 待てよ。原作は入学式から始まってたが、こいつ入学式が始まる前からこんなことしてたのか? そりゃ不正まみれの裏路地にまで首を突っ込もうとするわけだ。正義漢は大変だな。
「何を一人で唸ってるんですか。あなたの話をしてるんですよコルニクス」
「そうだよ。話を聞いてたのか?」
「あ、悪い。なんも聞いてなかった」
俺が考え事をしている間に二人の話題は世間話から移っていたらしい。
「本当に私の従者が無礼を働いて――」
「いえいえ、お気になさらないでください。アストレア家の方に頭を下げさせたとなっては私の方が頭をかち割られます」
「物騒な話をしてるな」
「誰のせいだと思ってるんだ!」
原作では敵だったが、なんだかこいつは愉快なやつのようだ。
思ったよりも仲良くできるかもな。
因みに、後でヘエルに後頭部を思いっきり叩かれた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます