第3話 冒険者ギルド

彼女が部屋を訪ねて来た。

僕と彼女はお互い自己紹介をする。

彼女の名前はウェンディと言うらしい。

ベッドに並んで腰かけた。


「えっ?家を・・追い出されたの?それは・・辛かったわね・・辛いのは本人じゃなければ解らないだろうけど・・」


僕は家を追い出された経緯とかを話していた。

誰かに聞いてほしかったのかもしれない。


「だ、大丈夫ですよ」


自分に言い聞かせているみたいだ。

本当は大丈夫じゃないらしい。

動揺を抑えないと。

僕の頭に、ウェンディさんの手が触れて、優しく撫でられる。


「え?」

「辛かったら泣いてもいいのよ?」


穏やかな優しい声。

ふと、瞳から雫が溢れ出ていた。


「あ、あれ?」


(泣くつもりは全く無かったんだけど)

ぶわっと胸の奥から熱いものが込み上げてくる。


「ううううっ・・・」


僕はしばらくウェンディさんの胸で泣いてしまっていた。





翌日、僕はウェンディさんの部屋に来ていた。


「昨日はすみませんでした」

「気にしないでね。泣いてすっきりしたでしょ?」


そう言われてみれば気持ちが軽くなった気がする。

あれから、僕はしばらくウェンディさんの胸で小一時間くらいだろうか泣いていた。

彼女は何も言わず、ずっと僕の頭を撫でてくれていた。


「トワくん弟みたいでかわいいし・・それと、良かったら名前呼び捨てで呼んでもらえないかな?私も呼び捨てにするわ。その方が気が楽でしょ?」


そう言って、ウェンディさんは微笑んでいる。

僕、弟なんだ。

ウェンディさんは20歳で僕は15歳。

年齢的に姉弟くらいが丁度良いのか。


「今日はさ、冒険者ギルド行ってみない?登録するんでしょ。連れて行ってあげる」




冒険者ギルドには、沢山の人が居た。

剣士とか、魔法使いとか獣人とか色々だ。


「ほら入って」


放心している僕をウェンディさんが促す。


「う、うん」

「登録はね、そこを真っすぐ行ったところよ。分かる?私はそこで何か飲んでいるから、頑張って行ってらっしゃい」


彼女に手を振って見送られる。

言われた場所へ行くと、登録受付の看板があって制服を着た女性のギルド職員がカウンターに座っていた。


「登録ですか?」

「はい」


紙を渡され、必要事項を記入していく。


「名前・・と、魔法は使えないから書かなくていいか」

「はい。承りました。魔法はいいのですか?」

「僕、魔法無しなのでこれで」


ざわっと、一瞬ギルド内が騒めいた気がした。

「おお!無事に登録してきたね。偉い偉い」


ウェンディさんに頭を撫でられていた。

僕、ずーっとこんな感じなのだろうか。

ちょっと恥ずかしい。


「ギルドはいつの間に託児所になったんだ?」


上半身裸で筋肉質の男、戦士っぽい人が僕に声をかけてきた。

絡まれたっぽい。

何て返したらいいのだろうか。

僕が迷っていると。


バシャ!


男の顔に水がかけられた。


「え?」


あれ?今、水をかけたのはウェンディさんだよね?

よく見ると、少し顔が赤くなっているようでお酒を飲んでいたみたいだ。


「な、なにしやがる~~」

「手が滑っちゃった~私の弟に絡まないでくれる~?」


ウェンディさんが男を睨んでいる。


「おいおい、喧嘩か?」

「女が水を・・」


ザワザワ・・

ギルド内が騒然としている。


「騒がしいな・・一体何があった?」


カウンターの奥から、低い男の不機嫌そうな声が響いていた。

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