第2話 屋敷を追い出される

僕と母は屋敷に戻ると、屋敷の玄関で何故か父アーロンが待っていた。

父は今日は仕事で居ないはずだったのだけど。

僕の鑑定結果が気になって帰って来たのだろうか。

母は悲壮な表情で泣いて、父に何か話している。


「貴方・・どうしましょう・・・」

「トワは自室に戻っていなさい」


父に告げられ、僕は部屋に戻った。

ベッドに仰向けになり天井を見る。

僕にはスキルが無い。

流石に予想をしていなかったので、自分でも驚いていた。

僕は一体どうなるんだろう。

何だか嫌な予感がするんだけど。




翌日、父に話があると言われてリビングに行った。

父はソファに座り、リビングの奥には一つ上の兄のロドスが座っている。

僕が目の前のソファに座ると直ぐに父が話しだした。


「・・トワは屋敷を出て行くように」

「え?」


「「はぁ~」」

父は大きなため息をついた。


「お前には期待していたのに・・スキルが無いなんてウィンザー家の恥だ。今まで聞いたことが無い。親戚にもいないはずだ。わかったら明日・・いや今日中に荷物をまとめて出て行け」


「い、意味がわからないんだけど?何で出て行かないといけないの?」


「ばっかだな、そんな事も分かんねえの?」


父が他の家族には話していたのだろう。


「能力が無い奴なんて、一族の恥さらしだろ。父様の言う通りさっさと出て行けよ!」


かくして僕は、意味が分からないまま家を追い出されてしまった。






僕は取り合えず近くの町プノンに行くことにした。

リュックを背負い、トボトボと歩き出す。

屋敷は少し森の奥にあって、不便な場所にある。

近くの町に行くには半日歩いて行かないといけない。


スキル無しか・・どうやって暮らしていけばいいだろう。

幸い少しお金を貰ってある。

しばらくは宿に泊まるのもいいだろう。


「冒険者かな・・やっていけるのかな」

考えながら歩いていると、草むらからカサカサと音が聞こえてきた。


「あれもしかして、スライム?」


透明でぷよぷよしている物体が目の前に現れる。

冒険者になるには魔物を倒さないといけない。


「やるか・・」


僕は重い腰を上げた。

これから冒険者として生きて行かないとだしな。

腰に携帯していた短剣を抜いてスライムに切りかかってみた。


「・・・えいっ!やあっ!」


スライムは飛んだり跳ねたり動き回っている。

意外と素早いようだ。

過去の記憶の中にある某ゲームを思い出していた。

現実はそううまく当たらない。

そりゃそうなんだけど。


「思っていたよりかわいくないな・・」


それでもしばらく短剣を振り回していると、運よくスライムに命中した。


サクッと切れる感覚があり、スライムの体が砂になっていく。

そこには青い石が転がっていた。


「へえ~何だろうこれ。拾っておくか」


僕はリュックの中に石を仕舞った。

それから森でスライムに会うたび攻撃してみる。

一回では無理だけど、何回かやっていくうちにコツが掴めてきたようだった。




近くの町プノンに着いた。

冒険者になれば、魔物と戦わなくてはいけない。

少しでも慣れておいた方が良いと思い、何匹かスライムと戦ったせいで少し疲れてしまった。


「少し動き過ぎたかな・・」


歩くだけでも疲れるのに、動き回っていたので汗だくだった。

とにかく今日泊まるところを探さないと。


「ちょっと困るんですけど」

「いいじゃねえか。悪いようにはしねえからさ」


前の方で、若い少女の声がした。

ポニーテールで鮮やかな青色の髪の少女がチンピラ風の男性に絡まれている。

右手には杖を持って、茶色いローブを羽織っているので魔法使いだろうか。

ぱっちりとした水色の瞳、身長は160センチくらいで20代前半くらいに見えた。


僕は少女と偶然目が合った。

助けてくれと目で訴えてかけられる。

えええ??

無視するのも気分が悪いし、仕方ないな。


「ごめんね。待たせたかな?」


知り合いのふりをして近づいた。

僕は少女の手を取って、走り出した。

しばらく男が見えなくなるところまで移動した。


「・・ありがとう。助けてくれて・・しつこくて困っていたの」

「どういたしまして。とにかく逃げられて良かったですね。じゃあ、これで」


僕が立ち去ろうとすると、少女に引き留められる。


「あ、待って!今日泊まる宿は決まってるの?」

「いえ、これから探すところですけど」

「丁度良かったわ。私の泊まっている宿へ一緒に行かない?まだ空いてると思うから」

「え?いいんですか?ありがとうございます」




宿はミラージの宿と看板に書いてあった。

町外れの場所で簡素な作りの部屋。

ベッド、窓際のテーブルには燭台が置いてあり椅子が一脚ある。

泊まるだけなら十分な所だな。


コンコンコン

ドアがノックされた。


「入っていいかしら?」

先ほど、助けた彼女が訪ねてきたみたいだ。

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